トップアスリートも悩む、調子の波ややる気の浮き沈みが起こる原因とは?
元プロサッカー選手で現在はメンタルトレーナーとして活動する山下訓広さんによる連載第33回目。何かに取り組んでいるとき、調子の波ややる気の浮き沈みに悩むことがあると思います。こういった悩みを解決するためには、目標設定や自分の調子を把握し、日々ブラッシュアップしていく必要があるといいます。
やる気や調子に浮き沈みがある
中学3年生のA君からこんな相談がありました。
A君:「定期的にやる気の浮き沈みがあります。今はあまりやる気が出ず、調子も良くないのでミスが多いです。つい最近まで調子も良く、スタメンになれたのですが、調子が悪くなってきて途中交代させられてしまう機会が増えてきました。どうしたらやる気や調子の波がなくなりますか?」
トップのアスリートでも、こういった波をなくしていきたいというご相談はよくあります。今回はA君の経験から、どのようなことが原因でやる気や調子の波が出てくるのかを考えてみたいと思います。
まずは、なぜやる気が落ちてきているのか聞いてみました。
A君:「以前はスタメンになることが目標で、やる気に満ち溢れていた気がします。練習量も多くこなしていて満足感もありました。そこから実際にスタメンになることができて嬉しかったのですが、そこで少し安心してしまったのか、練習量が減ってしまいました。やる気を出さないといけないと思ってはいるのですが、なかなか身が入らず、結果的に調子も落ちてきています」
ということでした。やる気が落ち始めたタイミングとして、スタメンになった後という明確なきっかけがありました。
最近の練習について聞いてみました。
A君:「前よりあまり貪欲にボールに絡みに行けていない気がします。少し軽いプレーが増えてしまって、コーチからももっと厳しく行けと言われることもあります」
やる気があったときと、あまり出ていない状態で、練習中の感情に違いはありますか?
A君:「やる気があったときはすごく満足感があって、プレーを評価してもらったときもすごく嬉しいというか喜びはありました。最近は練習きついなと感じてしまうことも多いし、褒められても前のような喜びより安心感みたいなもののほうが強い気がします」
今、A君の練習での満足度は何%くらいですか?
A君:「60%くらいですかね。もっとやれるとは思っているのですが、最後まで100%でやりきれていないプレーが多い気がします」
目標のゴールテープ
ここでA君の現状を考えてみると、2点考えられる原因がありました。
まず1点目は、すでに目標というゴールテープを切っているということ。そのことに気づかずに取り組み続けていると、何のために取り組んでいるのかわからなくなることがあります。A君はスタメンになるという目標を達成したことで、すでにゴールテープを切っています。そのまま進み続けた先にどんな自分がいるのかが見えないまま取り組んでいても、やる気が育ちづらくなります。
そして2点目は一時的な安心感で満たしているというところです。こんな質問をA君にしてみました。
安心するとやる気がなくなった経験はありますか?
A君:「テスト勉強をしているときに、よくできていると褒められたので、もっと勉強しておいたほうがいいのに安心して『これくらいでいいか』と最後までやりきらなかったことがあります。安心するとこれくらいでいいやと考えることが多いかもしれません」
つまり安心感が出てくると、限界はもっと先にあるのにその手前でやめてしまうということです。安心感を得たタイミングで行動がストップしてしまうことで、成長している実感が薄れているようでした。
この2点を踏まえ、まずは目標の再構築をしました。“スタメンに定着してトレセンに選ばれるために、シーズンで5点取る”ことを目標として、一時的な安心感ではなく本来の目的で満足感を得ることを意識して練習に取り組むことにしてもらいました。
このように、何かに取り組んでいるとき、気づかぬうちにゴールテープを切っていることがあります。目標設定は一度すれば終わりではなく、常にブラッシュアップしていくことが大切になります。お子さんのやる気を育てるために、目標の再設定をお手伝いしてあげてみてください。