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今さら聞けない!?サッカールール「インパクト」

今さら聞けない!?サッカールール「インパクト」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は、サッカーのルールの中で疑問が多く寄せられる「オフサイド」について復習した後、オフサイドの状況に関わる「インパクト」について解説します。

01.なぜ、オフサイドを反則とするのか?

ボールがプレーされた瞬間に、そのボールより相手側ゴールラインに近い位置にいる選手のプレーを制限や禁止するために考え出されたのが「オフサイド」です。選手がボールより前方でプレーすることを反則とすることによって、ゴール前へのロングパスによる単純な攻撃を制限して、「より戦術や技術を高度化させ、不自由さを楽しもう」とするために作られたルールと言われています。ですからルール改正を行い、よりサッカーの面白さを引き出そうとしています。

02.オフサイドラインとオフサイドポジションとは?

 

【図1】をご覧ください。守備側の後ろから2人目の選手Xの位置にゴールラインに平行にかかれた赤い線をオフサイドラインと言います。このラインは架空のもので、守備側選手の位置、あるいはボールの位置によって変わります。攻撃側選手にとってオフサイドラインよりもゴールに近い位置が「オフサイドポジション」となり、選手Bはオフサイドポジションにいます。オフサイドポジションにいるだけでは反則になりません。

03.オフサイドの反則となるには?

では、オフサイドポジションにいる選手がどうなればオフサイドの反則となるかと言いますと、「いつ」「どこで」「何をしたか」という3つの条件が重なれば反則となります。

  • 「いつ」:ボールが味方選手によって、プレー(キック、ヘディング、トラッピングなど)された、あるいは触れられた(手や腕を除く身体の部分で)とき
  • 「どこで」相手陣地内で
  • 「何をしたか」:そのときのプレーにかかわっていると主審が判断した場合

 

【図2】の選手Bがボールを触る、ボールを触ろうと動くなど、プレーにかかわっていると主審が判断すればオフサイドの反則となります。

 

【図3】同じ状況で、選手Bは守備側の後ろから2人目のGKのオフサイドラインより前にいて、すなわちオフサイドポジションにいて、プレーにかかわるとオフサイドの反則となります。守備側の後ろから2人目の選手はGKにもなります。ゲーム中、副審には、GKがオフサイドラインになるという意識のチェンジを求められ、判断が難しい時があります。

 

【図4】同じ状況で、選手Bは守備側の後方から2人目の選手Xのオフサイドラインより前にいない・並んでいる、「オフサイドポジションにいない」ので、プレーにかかわってもオフサイドの反則となりません。

04.インパクトとは

オフサイドポジションにいる選手がボールに触る、あるいは触れようとするだけではなく、相手守備側選手のプレーやプレーする可能性に「影響」を与えることを「インパクト」と言い、相手選手のプレーを妨害するとオフサイドの反則となります。具体的には次のような条件のどれかがあてはまれば、「インパクト」があったと判断され、オフサイドの反則となります。

  • 近くにあるボールに明らかにプレーしようとしている
  • 相手に近い
  • 相手がボールをプレーする可能性に影響を与えるような行動をとる。例えば、近づく、ジャンプする、避ける、通り過ぎるなど

 

【図5】A,B,Cが攻撃側、Xが守備側の選手で、Bはオフサイドポジションにいます。Bはプレーにかかわるとオフサイドの反則となります。Bは立っているだけでは反則にはなりませんが、相手に「インパクト」を与えていると判断されれば反則となります。例えば、XがBとぶつかった、あるいは、ぶつかりそうになってスピードを緩めたならば、インパクトを与えたと判断されます。

 

【図6】XがAからのボールをキックしようとしたとき、BがXに近づいてキックの邪魔をすればXのプレーに「インパクト」を与えた、あるいは十分なキックできなかったならばプレーする可能性に「インパクト」を与えるような行動をとったと判断されればオフサイドの反則となります。

 

【図7】Aがシュートしたとき、オフサイドポジションにいるBがボールとGKの間に位置している場合、明らかに「GKの視線をさえぎったり」、「GKに近づいたり、避けたり」「ボールをよけたり、ジャンプしたり」など、GKのプレーに「インパクト」を与えていると判断されればオフサイドの反則となります。

一方、BがGKの視線を遮らず立っているだけ、さらにそのシュートコースから外れている、そしてGKとの距離が大きく離れている場合にはオフサイドの反則になりません。

 

【図8】Aがシュートしたとき、オフサイドポジションにいたBがボールに近づき、GKの近くでGKのプレーに「インパクト」を与えていたと判断されればオフサイドの反則となります。しかし、BがGKの近くにおらず、シュートがGKの左側、すなわちボールから遠い場合はオフサイドとはなりません。

 

【図9】Aがシュートしたとき、BがGKの背後にいた場合、その距離が近くでなく、GKのプレーに「インパクト」を与えていないと判断されれば、オフサイドとはなりません。

05.副審として

最終判断は全て主審が行いますが、試合では副審が判断して主審を援助しています。ある経験豊かな副審は、インパクトに関して、次のようなチェックポイントを示しています。※前提条件は、攻撃側の選手がオフサイドポジションにいる。

  • ボールが選手の近くを通ったか?
  • 相手選手との距離(ゴールエリアの長さ、5.5mを目安)は?
  • >選手のアクション(動き)は?

ワールドカップなどの大きな大会ではVARやAIによる3Dアニメーションが活用されていますが、それらは一部であり、平面では副審の判断に委ねられています。特に、【図8】のように、選手Bの位置を頭の中で3D化し、シュートの起点とその軌道、GKの位置、GKとBの距離、Bの動きを一瞬に判断しなければなりません。つねにピッチに正対してオフサイドラインをキープし、選手のプレーを予測し、いろいろな視点を持ち、感覚だけではなく論理的に主審に伝えなければなりません。

副審は、オフサイドの判断において、主審より責任の重い役割を担い、完璧さを追い求める技術・体力・精神力が高く評価されます。副審の難しさにやりがいや面白さを感じる審判員も多くおられます。皆さんも、副審の目線でゲームをご覧いただくと新しい発見があると思います。


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WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。