コーチ、トレーナー、スタッフが語る「なでしこジャパンの魅力」とは?
7月20日から開催される「FIFA 女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド 2023」。そこでなでしこジャパン(日本女子代表)を支えるコーチやトレーナー、スタッフにインタビュー。チームを支えるうえで大切にしていることや、なでしこジャパンの魅力、さらにサカママへのメッセージも伺いました。
Photo:MS&ADカップ2022 10月9日 対ニュージーランド女子代表戦 先発メンバー ©JFA
若い選手も経験値は豊富。W杯の大舞台で活躍できると思います!
なでしこジャパンコーチ 宮本ともみ
1978年生まれ、神奈川県出身。相模原SCから高校卒業後にプリマハムFCくノ一(現・伊賀FCくノ一三重)に入団。16年間プレーし2度のベストイレブン受賞。日本女子代表(なでしこジャパン)で3度の女子W杯、2004年アテネ五輪にも出場した。結婚、出産を経て26歳で現役に復帰し、日本で初めて母親として日本女子代表に選出。2012年に現役を引退し、年代別代表のコーチを務め、2021年よりなでしこジャパン(日本女子代表)コーチを務める。JFA A級ライセンス取得。
私が出産したのは、アテネオリンピック(2004年)のすぐ後。25歳という年齢で、サッカーの成熟度と体力もピークにあったので、妊娠中から「復帰したい」という気持ちは強かったんです。家族のサポートもあって27歳の時に現役に復帰しました。2007年のW杯の時は、長男を帯同して大会に臨んだんです。日本サッカー協会がベビーシッターをつけてくださったりと、日本の女子アスリートの中では画期的だったと思います。今の日本女子代表は、当時よりさらに環境がよくなり、スタッフの人数やキャンプ・遠征の数など、すべての面で整備されていると思いますね。
女性のコーチングスタッフは私だけなのですが、選手との距離は近くになりすぎないように気をつけています。若い選手が多いので、彼女たちが伸び伸びとプレーできるように常に心がけていますね。サッカーについてはあまりないのですが(笑)、悩みを相談されることもあります。私たちの時代は、働きながら日本女子代表としてプレーしていた選手もいたんですよね。それに比べると、今の選手たちは時間がたくさんある分、フリーの時間の使い方に悩んでいる選手もいるんですよね。私自身、出産前は今の選手たちと同じように、自由な時間もサッカーに費やしていないと不安だったんです。
でも、子どもができてサッカーをする時間が減ったからこそ、トレーニングに対する集中力がアップしましたし、子ども中心だった毎日の中で、30分だけでも自分だけの時間ができたことで気持ちにも余裕ができたんですよね。子どもに対してすごく優しくなれたり、家族に対する感謝の気持ちを持てるようになったり。何より、サッカーが本当に楽しいということを改めて実感しました。そんな自分の経験などを伝えながら、選手たちの力になれたらいいなと思っています。
なでしこジャパンの技術力は、私たちの時代とは比べものならいないほど上がっていますし、いろいろな戦術に対応できる選手が揃っています。若い選手の中には、海外のチームでプレーしている選手や、アンダーカテゴリーの代表を経験し、世界大会で結果を残している選手も多いんですよね。若いながらも、海外や世界での経験値は高いので、W杯の大舞台で活躍できると思います。
私自身、悩むのが嫌いで、自分がやりたいことは素直に1回やってみようと思う性格なんです。結果、サポートしてくれる人たちに恵まれて、今では大きな壁だったと思うことも乗り越えられたなと。選手たちにも、やりたいことがあれば、とりあえずチャレンジしてほしいと思っています。
サカママへメッセージ
私の子どもも小学生の頃サッカーをやっていたので、試合を見にいくと「もっと走れー」「いけー」「そこでシュート!」と、アツく応援しているお母さんたちをよく見かけたものです。でも、子どもたちは、言われなくてもみんな本気で頑張っているんですよね。だからこそお母さんたちにも一度、ボールを蹴ってもらいたいと思うんです。そうすると、応援の視点が変わって、子どものサッカー力もアップするはずです。また、サッカーのルールは奥深いので、そこも知ってもらいたいですね。お母さんがサッカーという競技を経験し、より理解することで、家族みんながハッピーになると思います。
ゴールを守り攻撃にも長けた、なでしこジャパンのGKに注目してほしい
なでしこジャパンGKコーチ 西入俊浩
1977年生、東京都出身。東海大学卒業後、社会人として企業に勤めた後、母校の東海大学菅生高校サッカー部GKコーチに。東京電力女子サッカー部マリーゼなどを経て、2006年よりJFAナショナルトレセンコーチ(女子GK担当)を務める。各年代の日本女子代表GKコーチを歴任し、2021年よりなでしこジャパン(日本女子代表) GKコーチを担当する。JFA A級ライセンス取得、JFA ゴールキーパーA級ライセンス取得。
ゴールキーパーはミスが失点や敗戦につながってしまい、どうしてもその部分がフォーカスされやすいものです。本当にむずかしいポジションでありながらも「自分がゴールを守る」という醍醐味もあるんですよね。それがゴールキーパーの魅力ですし、なでしこジャパンのゴールキーパーになるような選手は、みんなその楽しさを追求して今があると思います。
昔ならばゴールキーパーはゴールを守るだけでよかったのですが、今は多岐にわたった役割が求められます。チームの最後尾として攻撃の起点となり、最近はプレイエリアも広がったことで、足元の技術も要求されるようになりました。海外に比べて身体的に小柄な分、繊細な技術や日本人特有の良さを伸ばして、世界で戦える選手を育成していきたいと思っています。
女子の育成を担当する中で思うのは、小・中・高校年代で積み上げていくことが大事だということです。日本女子代表のゴールキーパーは、アンダーカテゴリーの頃から、所属しているチームやJFAの活動などを通して成長している選手が多いので、世界の中でも戦っていけると感じています。また、育成年代の頃から知っている選手たちと一緒にW杯に臨めるのは、コーチとして幸せなことだと思っています。
W杯という素晴らしい舞台で、選手たちが自信を持って、それぞれのポジションを楽しむことができるようにサポートするのが私の一番の役割です。また、どんどん変化する女子サッカーの中で、池田太監督が掲げるコンセプトに合ったゴールキーパーのタスクを選手たちに伝えながら、勝利に結びつけることも大事だと思っています。そのためにも、世界のトレンドや各国のリーグ、過去の大会を見ながら傾向を考え、今のチームに必要なことを伝えています。
2011年のW杯で優勝したなでしこジャパンがみせた、ゴールキーパーも含め11人で世界を相手に戦っていくというスタイルが日本の良さであり、それを今もなお継承しながら進化しています。その中で、チームの勝利のためにプレーするゴールキーパーのポジションにも注目して見てもらえればと思います。なでしこジャパンのゴールキーパーの中には、ゴールを守るだけではなく、攻撃に長けている選手もいるので、ゴールキーパーがどのようにチームに関わっているかなどもW杯を通して、知ってもらえると嬉しいですね。
サカママへメッセージ
サッカーにおいてゴールキーパーは一人だけユニフォームが違い、グローブをつけ、手を使用できる反面、チームのゴールを守る最後の砦という責任を背負います。ですので、ゴールキーパーを子どもにやらせたいという親御さんは少ないかもしれません。でも、本当にむずかしいポジションでありながらも、それを上回る楽しさがあり、大きな魅力がゴールキーパーにはあります。一人でも多くの子どもたちが「ゴールキーパーをやりたい!」と思ってもらえればと思います。
スタッフを含めて壁がない、言いたいことが言えるフラットなチーム
アスレティックトレーナー 中野江利子
1979年生、群馬県出身。高校時代に陸上部のマネージャーを務め、アスレティックトレーナーになることを志す。国際武道大学に進学し、同大学院で運動生理学について学ぶ傍ら、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースでトレーナーを担当する。陸上の実業団チームに就職した後、2011年から年代別の日本女子代表アスレティックトレーナーを務め、その後なでしこジャパン担当として女子W杯にも帯同。現在現代表には育成年代当時から担当していた選手も多く、厚い信頼を寄せられている。
2011年から日本女子代表の育成年代のトレーナーを務め、2013年以降は、なでしこジャパンのトレーナーを担当しています。当時、中学3年生、高校1年生だった選手が今のチームにはたくさんいるので、本当に長い付き合いになりますね。育成年代だった頃に負傷をした箇所や、選手ごとのケガの癖や傾向などは把握できています。鍼灸師の資格を持っていて、選手たちの治療はマンツーマンで行うことが多いんですね。当時ケガをしてしまった悔しい思い出などの昔話をしたり、悩み相談を受けたり、たまには愚痴を聞くことも(笑)。何より彼女たちがリラックスできることが一番だと思っています。
なでしこジャパンは、本当にみんな仲が良く、フラットな関係が築けていると感じています。スタッフも含めて壁がないですし、監督も各専門分野のスタッフをリスペクトしてくださったり。選手もスタッフも自分のやるべきことをひたすらやり、年齢に関係なく言いたいことが言い合える、本当にいい組織になっていると思います。
トレーナーとして心がけているのは、まずは選手の話をしっかり聞くことです。私は選手のことを心からリスペクトしているので、彼女たちの考えを聞いて、尊重したいという思いがあるんです。その上で検証し、プロの目から見て、今、何が必要なのかを提案するようにしています。私にとって次のW杯は3度目。これまでの経験から失敗したことや良かったことなどを踏まえ、現段階では100%の準備ができています。ただメディカルの領域はここからイレギュラーなことがたくさん起こってくるので、それに対していかに動じず、いつも通りに心がけることができるかが大事になってくると思っています。W杯のような大舞台は、勝ち進んでいくことで観客の数もメディアの注目もより大きなものになっていきます。選手たちが過酷な戦いからメディカルルームに帰ってきた時に、家に帰ってきたような、いつも通りの雰囲気・環境を提供できるようにしたいと思います。
なでしこジャパンの選手たちは、オンザピッチはもちろん、オフザピッチでも、色々なところに目が行き届いていると感じています。率先して掃除をしてくれたり、用具の片付けや準備を手伝ってくれたり。そうしたオフザピッチでの気配りが、プレーにも活きているんだと思います。
サカママへメッセージ
子どもは痛みがあっても試合に出たいという気持ちが強いですよね。その分、親御さんは一歩引いて、休むべきかどうかの判断をお子さんと話し合ってほしいです。子どもがケガをしたり、痛みを口にした時は、一度立ち止まり、子どもと一緒にケガと向き合ってもらえたらと思います。また、バランスのいい食事をとるなど、規則正しい生活習慣が子どもの身体づくりにとって一番重要なので、そういった面でもサポートしてあげてください。
選手たちはもちろん、スタッフもすごくいい雰囲気です!
チームスタッフ 山本りさ
1985年生、東京都出身。元女子サッカー選手。東京電力女子サッカー部、ASエルフェン狭山FC、ベガルタ仙台レディースに所属し、2015年に現役引退。2017年から公益財団法人日本サッカー協会でなでしこジャパンのチーム総務担当を務め、縁の下の力持ちとして日本女子代表を舞台裏から支えている。
なでしこジャパンの総務の仕事は、国内合宿や海外遠征などの交通手段や宿泊施設の手配、大会のレギュレーション確認、対戦相手との調整を含めた全体のスケジュール管理など多岐にわたります。国内はもちろん、海外の現場にも帯同し、現地でもチーム周りの調整を行う等、内容は多岐にわたります。海外遠征が多い代表チームの選手を、無事に日本の自宅に送り届けるのが私の仕事になります。選手たちは大きなプレッシャーを背負って試合に臨まなくてはいけないので、試合以外のストレスをなるべく取り除いて、ピッチに集中させてあげたいという気持ちが常にあるんです。今は、なでしこジャパンがW杯で躍動するための最善の準備をして、選手、スタッフを含めたチーム全員がピッチだけに集中できる環境を作ることが、使命だと思っています。
私はなでしこジャパン専任の総務なので、誰よりもチームのスケジュールが頭に入っていますし、過去に起こったあらゆる事象を鑑みて対処法をイメージするようにしています。ただ、何が起こるかわからいなので、常に不測の事態も想定して事前準備をしています。その準備のためにも事前に様々な情報の共有を心がけていますが、池田監督もそれをポジティブに受け止めてくださるのですごく助かっていますし、ありがたいです。
先日、20個もの荷物が届かないというトラブルが発生したんです。深夜にも関わらず、スタッフみんなが一丸になって助けてくれて。選手たちはもちろん、スタッフもすごくいい雰囲気だと感じています。
W杯のために準備をして、スタッフみんなで一生懸命頑張ってきたので、初戦の国歌斉唱を聞くときは、目頭が熱くなる気がします(笑)。試合が始まると「やっと準備ができて、チームをここまで連れて来れた」と思える、一番ホッとします。その瞬間が待ち遠しいです。
サカママへメッセージ
私自身、本当に両親には感謝しきれいない気持ちでいっぱいですし、なでしこジャパンの選手たちがご両親をよく試合に招待しているのも、感謝の気持ちがあるからだと思います。子どもたちは、サッカーの送迎や水筒・お弁当の準備など、いつも保護者の方がしてくれくれることを、今は当たり前だと思っているかもしれません。でも、いずれそのありがたさがわかり、感謝する時がくるので、楽しんでサポートしてもらえればと思います。
★4人の単独インタビューはMS&ADインシュアランスグループサイト「歩みをとめない者たち」で掲載中。ぜひ一読を!
★7月14日(金)に、なでしこジャパン国際親善試合「MS & ADカップ2023」を開催。女子W杯の前に、チェックしておこう!
写真/内田智之