"親子の距離感"で大切なこと
「子どもとの距離感って難しい・・・」と思ったこと、ありませんか? 親子の距離が近すぎると、サッカーに影響を及ぼすことも。そこで、延べ50万人の子どもたちにサッカーを教えてきた池上正さんに、サカママが知っておくべき親子の距離感についてお聞きしました。
当たり前になっている、親の過保護や過干渉
「試合を見にこないで」―お子さんに言われたことはありますか?私が指導し始めた頃は、親にそんなふうに言う子も多く、それは子どもが大人になっていく道筋にあるべき姿だと思います。でも今は「親についてきてほしい」「試合を見にきてほしい」という子どもが増えています。
また、忘れ物をしても平気で親のせいにする子もいるものです。それは、親子の距離が近すぎて、過保護や過干渉が当たり前になってきているからだと思います。そのため、子ども自身も親から離れない、親に面倒をみてもらって当然だと思っているのです。
サッカーの練習について、勉強しようとしていませんか?
サッカーに関しても過保護になってしまうがゆえ、「サッカーのことを勉強しないといけない」と思っている親が多いように感じます。サッカー経験のないお母さんたちが、たくさんサッカーの本を読んで、どんな練習が必要 なのかを知ろうとしているのです。でも、本によって書かれている内容は異なり、何が正しいかは難しいものです。
また、試合や練習を撮影して、親子で見るという家庭も多いでしょう。でも、親はどうしても子どものマイナス面ばかりに目がいくため「もっとこんなことはできないの?」と口にし、褒めることをしないのではないでしょうか。 とくにサッカー経験のあるお父さんはそうなりがちです。
親がサッカーに関して色々と口を出してしまうと、子どもは親の目ばかりを気にし、コーチの言うことを信用しなくなってしまいます。実際に、親からサッカーのことを言われていた子が、ハーフタイムに入る時にベンチに戻らず、お父さんの元へ行くということがありました。私自身、親から言われたことばかりを信用していた子に「あなたは、どのチームに入っているんですか? チームに所属しているということは、そこで学ばなければいけない。お父さんの言うことだけを聞くなら、お父さんのチームに行ったほうがいい」と言ったこともあります。サッカーに関することは、コーチに任せることが何よりも大切なのです。
ただ、チームメイトに関することは、1人の大人として親がアドバイスしてあげればいいと思います。例えば、子どもがチームメイトと上手くいってないと言ってきたら、親はサッカーには関係のない、これまで自分が経験した友人との話などをしてあげるといいでしょう。サッカーとは別の視点から、大人になっていく子どもをサポートしてあげることが大事です
試合をしている子どもと、見ている親の気持ちは違う
私が指導していたチームでは、試合後、子どもたちが並んで親と対面した際、子ども全員に試合の感想を述べさせていました。すると、例え0対10で負けた試合後でもネガティブな言葉はなく、「ワンツーができた」「ボールがよくとれた」といった感想が出てくるのです。
その時、親の顔を見ると「負けているのに、それはないだろう・・・」といった表情をしている方が大半です。ですので、私は親の気持ちを代弁するように「子どもたちは、試合でできたことを言っていますが、親からみるとそうはみえないですよね。でも、子どもたちの気持ちはそういうことなんです。試合をしている子どもの気持ちと、見ている親の気持ちは違うのです」と伝え、その後、「私が指導者として、勝つためにどうすればいいかを考えます」という話をして終わるようにしていました。
親の気持ちはよくわかります。我が子しか見えないことも。けれど、試合全体を見て、子どもたちがどう考えているかということに耳を傾けることが大事なのです。そうしたことを指導者が親に伝えていけば、親自身の成長にもつながっていくと思います。
互いに考えや思いを言い合い、一人の人間と人間の関係に
私自身、子育てをしていた中で、今でも大きな汚点だったと思うことがあります。
次女が小学3年生の頃、いじめられたことがありました。でも、強くなってほしいという思いもあり、無理に学校へ行かせたり、娘と向き合おうとしなかったんです。その後、娘が高校生の時に、「お父さんとお母さんは私をどうせ信用してないよね」という言い方をしたことがありました。娘の気持ちに寄り添えなかったことが、彼女の心にずっと残るものになってしまったんです。ただ親子なので、その後、時間をかけて修復することはできました。
そうした経験からも、日頃から子どもと向き合い、どう考えているのか、どうしたいのかをしっかり聞いてあげることが大事だと思います。また、親の考えや思いは押し付けないこと。ただし、親の気持ちを「お父さんとお母さんは、こんなふうに考えている」と伝えることは大切です。
親であれば、子どものことはある程度想像できるので、「その結果、こんなことが起きるかもしれない」と思うことは伝えてもかまいません。でも「そうなるから、やめておきなさい」とは口にしないことです。子どもと親が互いに考えや思いを言い合うことが大切なのです。それが、一人の人間として子どもを見るということにもつながります。
思春期になっても、親がいつまでも子どものまま接していると、子どもはそれが嫌で親と話をしなくなったり、別の世界に逃げてしまったりするのです。つかず離れず、「子どもがどう思うのか」という会話を増やしていけば、親と子ではなく、一人の人間と人間の関係になっていくと思います。
子どもを自立させるために、大人に仕向けていく働きかけを
子どもを一人前の大人に育てるためには、日頃から子どもの様子を見て、「自分でできるようにするために、どうしてあげればいいのか」を考えることです。また「我が子を大人に仕向けていく」という意識を持つことも大事です。
時には、大人に向けての課題を子どもに与えるのもいいでしょう。例えば、小学6年生なら家庭科で調理実習を経験しているので、「お昼ごはん自分でつくって食べて」と、わざと子どもに仕向けるのです。できない場合は、最初は教え、その後は「自分でやってね」と働きかけていけば、家の中でできることが増えていき、自立につながっていきます。
また、サッカーに関して上手くいかないことを相談してきた時には、子どもの話をしっかり聞いたうえで、自分で解決するように促すことも、自立につながるでしょう。
指導者は、子どもたちにスポーツを通して、自主性や主体性を身に付けてほしいと、試行錯誤しています。けれど、親が過保護や過干渉になっていると、子どもは自立できません。家庭の中で子どもを自立させるように仕向けていただけたら、指導者と親の両輪で子どもが育っていくと思います。
サッカーにおける親子の距離感【3つの心得】
1サッカーのことはコーチに任せ、親は口を出さないこと
子どもは親の影響を受けやすいので、親がサッカーに関して色々と言ってしまうと、コーチの言うことを信用しなくなってしまいます。また、「あのコーチは駄目だ」などの批判は、口にしないことです。子どもがコーチを信用しなくなるのはもちろん、指導者にプレッシャーを与えてしまうことにもなるのです。
2チームメイトに関する話は、親がアドバイスしてOK
チームメイトに関することは、親が一人の大人としてアドバイスしてあげるといいでしょう。大事なのは、サッカーとは関係のない視点で話をすること。「チームがごたついている」など、チーム全体の話をしてきた場合は、親子の問題にせず、「コーチに聞いてみたらどう?」と、チームの問題として促すといいでしょう。
3子どものサッカーの試合を楽しんで見ること
親は自分の子のプレーだけに目を向けず、子どもの試合を楽しんでみることが大切。我が子に限らず、いいプレーが出た時は「ナイス」、ミスした時は「惜しい」「次、頑張ればいいね」というような気持ちで見れば、サッカーというスポーツを楽しんで見ることができるはずです。