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勝つ=成長する?勝ち負けの捉え方【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

サカママ読者の皆さま、こんにちは。大槻です。
早いもので2023年がスタートして1か月が過ぎようとしています。年末年始は各カテゴリーで全国規模の大会が開催されていましたね。各メディアを通して試合結果などに注目していた方も多いのではないでしょうか。

大会となると勝ち負けだけがクローズアップされがちですが、育成年代にある子ども達はそれ以上に考えなければならないことがあるように思っています。そこで今回は、「育成年代における勝ち負けの捉え方」をテーマに、勝つことを目指す上で忘れないでほしいことについて考えていきます。

勝っているチームに入れば上手くなる、と思ってない?

日本のスポーツの歴史はメディアと共に成長してきました。箱根駅伝、甲子園野球、高校サッカー選手権など多くの注目を集める学生スポーツの大会もまた新聞社と共に成長してきた背景があります。近年はスマートフォンの普及もあって、メディアの在り方も変わってきましたが、その影響は変わらずに絶大です。そして、スポーツイベントは多くの人の関心を集めるものですから、メディアが注力するのも自然なことで、それにより多くの人が注目するチームやスター選手が生み出されてきた側面もあるでしょう。

近年のサッカー界においてもメディアの在り方は変わってきました。育成年代を取り上げるメディアが増えてきたこと、また、試合のライブ配信が定着したこともあり、育成年代であってもその試合結果や注目選手などに関する報道を目にする機会が増えてきたように感じます。それと同時に、勝てば注目が集まり、負ければその逆といったように、勝ち負けだけでクラブの価値が決まるような風潮ができつつあるのではないか、と疑問に思うこともあります。

ここで問題なのは、勝っているチームに入りさえすれば上手くなれるという考えに繋がってしまうことがある、という点です。確かに成績はチームを判断する一つの指標にはなりますが、それ以上に重要なのはそのチームが本人に合っているかどうかだと思います。勝つことで得られるものもありますが、チームの結果が直接的に子どもの成長に繋がるとは私は思いません。上手くなる、強くなるということは、あくまでも日頃の取り組みの先にあるものだと思うからです。チームが上手くしてくれる訳ではないですし、単純に強いチームに入れば上手くなるという訳でもありません。イメージだけで物事を判断し、チームを選んでしまうのは少し危険ではないかと思うのです。

育成年代では「勝つこと」よりも「勝つために全力で準備すること」が大事

 

とはいえ、スポーツの世界では勝ち負けが必ずあります。ただ、育成年代に関して言えば、「勝つこと」以上に「勝つためにどのような準備をしてきたのか?」ということが大切だと私は思っています。これはプレーの良し悪しよりも大切なことです。

「勝つこと」と「勝つために準備すること」、似ているようで大きな違いがあります。例えば、一生懸命練習もせず、適当な準備しかしなかったけど勝ててしまった、そんなこともありますよね。もしこれを「勝ったから良し」としてしまうと、チームにとっては勝ちが良い方向に働くことはないでしょう。なぜなら、「頑張らなくても勝てる」という意識に繋がってしまうからです。
逆に一生懸命練習して、全力で準備をしたけど負けてしまったということもありますよね。その時に、一生懸命に取り組んだ姿勢を評価せずに、「負けたから悪い」という評価だけをしていたら、「頑張っても意味がない」という思考に繋がっていくかもしれません。これでは育成年代の子ども達にとってプラスにはならないでしょう。

「勝つために全力で準備する」そんな姿勢を育てることができれば、サッカーだけではなく、どんな困難にも一生懸命に取り組める子どもが育つはずです。そして、この姿勢を育てるためには、勝ち負けとは別の基準がチームに必要です。これはサッカーの技術や戦術の話でもなく、「チームとしてこれはやろうね」という行動基準のことです。この基準はチームによって違ってくるかもしれませんが、子ども達のサッカーに対する姿勢をどのように育てていくのか、という視点を大人達がしっかりと持っておく必要があると思います。そして、この行動基準や日々の取り組みの先にあるものが勝ち負けだということを忘れてはいけません。

「頑張っているから負けてもいい」「勝つためなら何でもしていい」ではない

ここで一つ気をつけて欲しいのは、取り組む姿勢を育てると言っても、「頑張っているから負けてもいいよ」ではないということ。あくまでも「勝つために」準備をするのです。子ども達は勝ちたいと思っていますし、大人が本気になって勝利を目指す姿勢があるからこそ、子ども達もまたそこに本気で向き合うようになっていくものだと思います。もちろん、大人の歪んだ感情や行き過ぎた欲求はNG。何をしても勝てば良いという考えは子ども達への教育という意味では悪影響ですから、そこの線引きはしっかりと意識しつつ、大人もまた本気で勝ちを目指し、そのために取り組む姿勢を見せることが必要です。

前回のコラムでも書きましたが、「勝利に対してどのような姿勢と態度で向かっていくのか」もまたサッカーをする上で大切な要素です。周囲の大人が横暴な態度で試合に臨んだり、審判へ過度な抗議をするようなことがあれば、それはそのまま子ども達にも伝わっていくものです。試合中には思い通りにいかないこともあると思いますが、相手に対する敬意を忘れず、切り替えて懸命にプレーを続ける。そんな姿勢に人は心を動かされるものですし、選手、見守る大人も含め目指すべきはそういった姿勢なのだと思います。

サッカー人気が上がりつつある今こそ、振り返りを…

 

日本における育成年代のサッカーは、これまでとはまた違った勝利至上になってきている傾向を感じています。これには、日本サッカーを取り巻く構造的な問題も内在しているのかもしれません。例えば、リーグ戦文化の定着化。これには対戦機会が増えるといった利点もある一方で、クラブの格付けを生み出しているような側面もあると思います。それに加えてクラブの収益構造や、指導者の雇用問題、先に述べたメディアによる報道の在り方も影響しているかもしれません。この問題は色々な要素が関係しているのです。

カタールワールドカップを経て、日本のサッカー人気はまた一段と高まったように思います。サッカーの社会的な価値が高まってきている中で、サッカーを取り巻く我々大人もまた少し違った角度でサッカー界を見ていく必要があるのかもしれません。勝ち負けがあらゆる取り組みの先にきてしまっているようであれば、先に述べたクラブとしての「行動指針」を今一度考えてみるのも良いかもしれません。
そして、保護者の方は子ども達のチームを選ぶ時に、成績だけではなく、チームが大切にしている基準や活動の雰囲気などが我が子に合うのか、力を発揮できる環境なのか、ということも考えてみてほしいなと思います。

 

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WRITER PROFILE

大槻邦雄
大槻邦雄

1979年4月29日、東京都出身。
三菱養和SCジュニアユース~ユースを経て、国士館大学サッカー部へ進む(関東大学リーグ、インカレ、総理大臣杯などで優勝)。卒業後、横河武蔵野FCなどでプレー。選手生活と並行して国士舘大学大学院スポーツシステム研究科修士課程を修了。中学校・高等学校教諭一種免許状を持ち、サッカーをサッカーだけで切り取らずに多角的なアプローチで選手を教育し育てることに定評がある。

BLOG「サッカーのある生活...」も執筆中
★著書「クイズでスポーツがうまくなる 知ってる?サッカー

株式会社アクオレ株式会社ティー・パーソナル