「整った環境」は子どもにとって良い環境?【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】
サカママ読者の皆さま、こんにちは!大槻です。
少しずつ空気がひんやりとしてきました。冬の到来が目前といったところでしょうか。規制緩和に伴い試合の観戦が出来るようになってきましたから、防寒対策はしっかりとしておきたいところですね。
さて、今回は“子どもにとっての良い環境”について考えていきたいと思います。何でも整った環境は、果たして子どものためになるのでしょうか?
サッカーをするなら環境の良さは重要?
育成年代では土のグラウンドや学校施設を利用しているクラブが多いですが、近年は人工芝のグラウンドも珍しくなくなってきました。中には、ロッカーやシャワーが完備された、いつも清潔に保たれている施設を使っているクラブもありますよね。
どちらが良いかという問題とは別として、物理的な環境の良さは誰もが羨むものです。ただ、時に環境の良さは子ども達にとって弊害になることもあるのではないかと思います。
環境が整っていると忘れがちになってしまうものとは
少し自分の話をさせてください。大学生の頃、私は土のグラウンドで練習をしていました。中学高校と人工芝の整った環境下でサッカーをしていた私にとって、これは大きな変化でした。練習前には“とんぼ”でグラウンド整備をし、水溜りがあればスポンジなどを使って水を抜く作業をしなければいけませんでした。
大変だったグラウンド整備ですが、仲間といっしょに色んな話をしながら準備をした記憶があります。正直言ってポジティブな感情で取り組んでいた訳ではありませんでした。しかし、やっていると面白いもので、拘ってグラウンド整備をするようになっていったのを覚えています。グラウンドの凹凸を丁寧に均したり、水溜まりを綺麗に整備出来ると嬉しかったものです。
決してポジティブではなかったグラウンド整備ですが、続けている中で準備の大切さを感じることが出来るようになりました。「感謝をしなさい」と口で言っても、中々伝わらないこともあると思います。しかし、実体験をするからこそ、感謝の意味を知ることが出来るのだと私は思っています。
今はそんな風にグラウンドを整備したり、ラインを引いたり、準備や片付けをすることが少なくなってきています。恵まれた環境が当たり前になってしまうと、子ども達が物事への感謝を感じにくくなってしまうのではないでしょうか。
また、今はとても便利な世の中ですから、サッカーに限らず“良い環境”が昔より多いと思います。その分、自分で考える機会も減っているのではないかと思います。
サッカーは状況に応じて自分自身で考えて、決断をしていく力が求められます。周囲のアプローチを含めて、全てが整った環境の中で生活をしていると、そういった力はなかなか身に付けることができないでしょう。ただ、今の子ども達にとっては整った環境は当たり前のことでもあるのです。だからこそ、子ども達が自ら考えて行動出来るように、大人の働き掛けが必要になってくるのです。
土・人工芝の違いは技術向上に影響する?
環境の話に関連して、よくグラウンドの違いが技術向上に影響するのか?といった質問を受けることがあります。
決まって同じようにお答えしているのですが、総合的に考えると大差はないように思います。凸凹すぎるグラウンドは問題ですが、よくある学校の校庭や土のグラウンドであれば気にすることはないとでしょう。(洗濯は大変ですが…)
芝のグラウンドは、芝の摩擦で土よりもボールが転がらないので多少コントロールは楽になるでしょう。ただ、そういった感覚は多くの経験をしたからこそ分かるもので、それが普通になっていれば何も気にする必要はありません。芝の方が技術の向上には優れていると言われていても、サッカーはそれだけでは物足りません。最も重要なことは、どんな環境であっても力が発揮できることであって、それは大人の働き掛けによって育つ要素が大きいものだと思います。
まとめ
子ども達にとって『何でも整った環境』は、『良い環境』とは言い難い一面があります。しかし、どんな時でも大人の働き掛け次第で子ども達の姿勢は変わってくるものだと私は思います。
どんな環境であっても、それをポジティブに考えること。そこにいる人や物に対して感謝の気持ちを持って接すること。そして、子ども達に考える機会を作ってあげること。こういったことを子ども達が実体験を通して気付ける環境を用意してあげたいですね。
どちらが良いという話ではなく、それぞれの環境でどんな風に働き掛けていくことが子ども達にとって大切なのか?考えるきっかけになれば嬉しく思います。