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その不安は消せるもの?消せないもの?

元プロサッカー選手で現在はメンタルトレーナーとして活動する山下訓広さんによる連載第5回目。
今回のテーマは「不安の考え方」。不安をなくすために練習を重ねたのに、試合で結果が出ない…。そもそもその不安は練習で消せるものでしょうか?

不安に飲み込まれて結果が出ない!

本番で結果を出したい!そのために努力を重ねているはずなのに、なかなか結果に結びつかない…なんてことはありませんか?
どんなに準備をしていても、本番を前にして不安な感情に飲み込まれると本来得たかった結果からブレてしまうことがあります。これはサッカーに限らず、学校のテスト、試験など様々な場面で起こりえることです。そもそも、不安とはどんな感情なのでしょうか?

 

「消せる不安」と「消せない不安」

「不安」と一口に言っても、実はその種類は2つあります。それは、「消せる不安」と「消せない不安」です。

「消せる不安」は準備不足から来る不安です。例えば、翌日サッカーの試合がある場合、試合のために色々な準備をしますよね。ストレッチを入念に行ったり、晩ご飯をしっかり食べたり、試合の持ち物を忘れないように準備したり、当日は油ものを食べないなどなど…。それぞれに準備の仕方はあると思いますが、それを怠ってしまうと当日試合に対する不安が増幅しませんか? こういった不安は準備をしっかり行えていれば消せるものです。

もう一つの「消せない不安」は、結果から来る不安です。例えば、受験で合格できるか不安だったときを思い出してみてください。その不安はいつ消えましたか? 前日は当然不安だったと思いますし、試験当日もまだ不安だったでしょう。試験終了後は少し和らぐかもしれませんが、合否が分かるまではまだ不安だったのではないでしょうか。そして、不安が完全に消えるのは試験の結果が出たあとだったかと思います。こういった結果から来る不安は、結局のところ結果が出るまでは消えないものなのです。

「消せない不安」を無理に消そうとしてないか?

 

人間には防衛本能がありますから、不安という感情が出てくると、この不安をなくしたい、手放したいという心理が働きます。でも、「消せない不安」は結果が出るまで消えないもの。これに飲み込まれてしまうと、結果のための努力ではなく、不安を消すための努力をしてしまうことがあります。

例えば、試合の前日は練習が終わったらコンディションを整え、翌日に備えますよね。でも、「いいパフォーマンスを出せるかな…」「点を取れるかな…」といった不安が襲ってきて、追加で100本、200本とシュート練習をしたとしましょう。さて、これは本当に結果を出すための努力と言えるでしょうか?

一見、たくさん練習をしているのだから結果のために努力しているように見えるかもしれません。でも、前日に100本シュートを打ったからといって、急にシュートが上手くなるでしょうか? そんなことはないですよね。大切なのは日々の積み重ねであって、たった1日で急激にシュートが上手くなるということはないのです。むしろ前日に過度な練習をしたことで、試合当日に疲労が残ってしまい、いいパフォーマンスが出せないかもしれません。
このときに働いているのは「不安でいるのが嫌」「不安を消したい」という心理であって、この努力は結果のためというよりも、不安を消すためのものになってしまっているのです。

もっと分かりやすい例を出してみましょう。私は子どもの頃、こんなことがありました。 大事な4教科のテストを控えた前日、いい点が取れるか不安になって友達に「勉強してる?」と電話。「あんまりしてないよ」との友達の返事を聞いて、一安心したのですが…。冷静に考えてみると、テストでいい点を取りたいなら、友達に電話をしている時間がもったいないですよね(笑)。その時間があれば、少しでも勉強ができるはずです。

不安を受け入れられるような声掛けを!

このように、不安に巻き込まれると人は本来得たかった結果のためではなく、不安を手放す努力をしてしまうことがあります。これはお子さんだけではなく大人、もちろんプロ選手でも起こり得ることです。
私も実際に不安に飲み込まれ、怪我や本番で実力を出しきれずにいる選手をたくさん見てきました。プロであればそこからある程度自分で対処法を見つけ出せるかもしれませんが、ジュニアアスリート世代ではまだ不安との向き合い方が難しく、結果を出せず苦しむことがあります。

 
私も現役時代、公式戦の前は不安になることがありました。

大切な試合や試験の前は、お子さんの行動をよく観察してみてください。繰り返しになりますが、消せない不安は結果が出るまで消すことが出来ないものです。もしお子さんが消せない不安に飲み込まれていると感じた場合は、不安を感じることは当たり前で、その不安を受け入れられるような声掛けをしてあげましょう。「たくさん練習したんだから大丈夫!明日に備えて今日はゆっくり休みもう!」そんな風にお子さんの背中を押して上げられれば、いいパフォーマンスに繋がっていくはずです。

WRITER PROFILE

山下訓広

1986年5月29日、千葉出身
流通経済大学付属柏高等学校、流通経済大学卒業後、J2 ロアッソ熊本に入団。
ロアッソ熊本退団後、シンガポール、ミャンマー、インドネシアと東南アジアでプロサッカー選手として活躍し11年間のプロ生活を経て、現在は株式会社43Labに所属しメンタルトレーナーとしてトップアスリート、ビジネスマン、ジュニアアスリートに向けたメンタルトレーニングを行っている。

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