日本代表キャプテン・吉田麻也からの警鐘「日本はまだカラダづくりの意識が低い」
日本代表の精神的支柱としてDFリーダーとして、文字通りチームを支えている吉田麻也。トップレベルで安定したパフォーマンスを続ける日本代表キャプテンは、いかにして世界と戦える肉体を手に入れたのか?
カラダを大きくしてスピードも上げる
-日本代表キャプテンとして守備陣を統率する吉田選手ですが、この10年で体格も大きく変わりましたよね。
「やっぱり厳しい環境に身を置いてきたからこそだと思います。僕は2012年にイングランドのサウサンプトンに移籍してから意識を大きく変えました」
-当時の体重は?
「78kg(現在は87kg)くらいしかなかったんですが、イングランドに渡る前のオランダ(2010年、2011年にVVVフェンローでプレー)でも身長の大きい相手に競り勝てていました。でも、サウサンプトンに移籍して2試合目のアストン・ビラ戦でクリスティアン・ベンテケとマッチアップしたときに完全に力負けしたんです。ベルギー代表のマルアン・フェライニとかにも、ちゃんと跳ばないと競り負けてしまう。『このままではまずい。早く何かトライしないといけない』と思いました」
-何から着手したのですか?
「サウサンプトンではスポーツ栄養士さんとかリハビリ担当の人もいれば、ジムセッション担当の人もいて、分析の方とか、スタッフがものすごく細かくわかれているんです。専門的なノウハウを持っている方がたくさんいたので、その方たちとうまくコンタクトしながら知識を広げていきました」
-最初に取り組んだことは?
「カラダを大きくしつつスピードを上げることですね。カラダだけ大きくして鈍くなったら意味がないですから。前線の選手なら速ければ軽くてもいいと思うけど、DFのポジションはそうはいかない。大きくても出力が出せるカラダにしなくてはいけません」
-どのぐらいの月日をかけて変化を実感しましたか?
「4カ月、5カ月はかかりました。もともとの筋量がヨーロッパの選手と比べて多くないので、やらなければ萎んでしまうんです。カラダを大きくして、それをキープしてさらに筋肉量を上げて出力を上げる必要がありました」
-日本のチームの体制・意識は、海外と比べるといかがですか?
「最近ようやく改善されてきたけど、やっぱりまだプレイヤーズファーストが染み付いていないと思います。A代表とかは差がなくなってきましたが、育成年代ではやっぱりそういうところがちょっとまだ感じられます。選手が実力を出すために、何をしなきゃいけないか、何を優先しなきゃいけないか。それ を主軸として考えて、動かなきゃいけないなっていうのはありますね。代表でもやっぱりそういう環境を自分たちで作り上げていかなきゃいけないし、選手たちも自分が海外に移籍してそういうところに身を置くって大事だし、小さいことの積み重ねだと思います」
もっと早くフィジカルに取り組むべきだった
-カラダづくりの根本的な考え方とは?
「まずはトレーニング、栄養(食事)、休養の3つに分けられます。このトライアングルが枝分かれしていくイメージです。トレーニングであれば、ボールを使ったもの、カラダのバランスや可動域を出すエクササイズ、パワーアップするジムセッションといった具合です。休養においては、睡眠はもちろん大事ですけど、クライオセラピー(冷却療法)やリカバリーソックス(着圧ソックス)とか、いろいろと枝分かれしていくわけじゃないですか。それらはもう、トップスポーツでは当たり前になりつつある。日本も世界のスタンダードに追いついていかなきゃいけないと思います」
-トップアスリートだと専門のスタッフがいて、そのサポートがあるからこそできることもあると思います。アマチュア、高校生ではそれが家族か指導者になると思いますが、あらゆる情報をどう取捨していけばいいと思いますか?
「まずトライすることじゃないでしょうか。自分に合う合わないって絶対あると思います。例えば代表チームでもクライオセラピーを取り入れていて、マイナス120度のところに入って、瞬間的に冷やして毛細血管を刺激し、リカバリーを促す。そういうのが僕は大好きですけど、大嫌いな選手もいるわけですよ。アイスバスは風邪をひくから嫌いだっていう選手もいるし、リカバリーソックスは圧迫されて寝れないから嫌だっていう選手もいます。クライオセラピーは高校生では使えないと思いますが、氷の水風呂は用意できますよね。だから選手はやれることをトライして、指導者はそれに対してベストを尽くしてあげるのが、当然のことだと思います」
-もしタイムスリップすることができれば、いくつからそういう意識を持ちたかったと思いますか?
「やっぱり筋力トレーニングをもっと早く始めたかったですね。僕はプロに入った時はマッチ棒みたいだったんですよ(笑)。ただ身体的な能力は恵まれていたので、カラダは細いけど強かったし、ジャンプも高く跳べた。恵まれたカラダ、恵まれた環境でたまたまプロになれたけど、フィジカルの取り組みに対してもっと早い段階でアプローチできれば、カラダができた状態でヨーロッパにチャレンジできたと思います。イングランドでカラダ作りに使った時間をもっと違うことに使えたかもしれない。それにサウサンプトンでチームメイトだったファン・ダイクは21歳でカラダが出来上がっていた。そういう意味では最初の段階でフィジカルの差は圧倒的ですよね」
-海外ではサプリメントも早い段階から取り入れている?
「チームで取り入れているところがほとんどなので明確ではないですけど、サウサンプトンでは16歳、17歳でプロに入ってくるので、その時には間違いなく摂っていると思います。ただファン・ダイクはナチュラルであれなんで(笑)。僕はサッカー専用のプロテインやサプリメントを摂っていますが、インフォームドスポーツ(INFORMED SPORT=アンチ・ドーピング認証プログラム)の認可をパスしているものを使用しています。僕らは絶対にドーピングに引っかかるわけにはいかないので、そこがクリアになってることが大前提となります。スポーツ栄養学と、それに基づいたトレーニングは日々アップデートされていくので、自分もそれについていかなきゃいけない。そこは大変ですね」
-日本にいる時も栄養には気を付けていましたか?
「僕だって小学生の頃はおやつ食べまくりでしたよ(笑)。でも、名古屋グランパスのジュニアユースに入ってから、合宿で栄養士さんが座学でいらっしゃって勉強する機会をいいだいてから変わりました。なぜ炭酸飲料がダメかを勉強して、そこからですね。プロになりたいと決意したタイミングでもあったので、そこからファーストフード、スナック菓子、炭酸飲料も一切止めました。家族もサポートしてくれて、ちゃんと栄養を考えて調理したものを作ってくれた。でもそれはやっぱり手間と時間とコストがかかると思うんですね。だからできる範囲でいいと思うんですよ。サプリメントだけ摂ってもダメだし、食事をしっかり食べること。栄養素を摂り切れない部分はサプリで補う。高校生もまずはトライして、早い段階からカラダづくりの意識を高めていってほしいと切に願います」
78㎏→87㎏。10年をかけて臨んだ肉体改造
(2011年)オランダのVVVフェンロー時代の吉田は78kg。上背のある選手に競り負けることもなかったというが、全体的に線が細い印象だ。
(2019年)屈強なプレミアリーグでの戦いを経て、サウサンプトンでは10㎏以上も体重が増加。スピードを維持しながら、肉体改造に成功した。
(2021年)強さと速さを兼ね備え、イタリア・セリエAのサンプドリアでトップコンディショニングをキープしている。
写真/Getty Images