「アメリカ流、子どもの個性を伸ばす声かけとは」アメリカ少年サッカー記30
オリンピックがはじまり、連日、様々な競技で熱戦が続いています。どの競技やどの国にも個性的な選手がいて興味深いです。発言やヘアースタイルで注目を集める選手もいれば、規律をしっかり守るタイプの選手もいます。こういった違いは、もしかしたら、選手に対するコーチングに違いがあるのかもしれません。
そこで今回は、アメリカでの子どもへのコーチングをご紹介します。こちらは、コーチをファーストネームで呼ぶほど、コーチと選手の関係はフラットです。そんな環境でのコーチングは、驚くほどシンプルな言葉を使います。そこから見える、子どもの個性を伸ばす声かけとは?
試合中にコーチがよく使う声かけは?
コーチングというと、例えば「何番にパスしろ」といったような具体的な指示を思い浮かべるかもしれません。しかし、そうした指示は試合中ではあまり聞きません。コーチングの目的は、選手に気づきを促すことであり、誰にパスあるいはマークするかを決めるのは、選手自身に任せることにあります。選手に選択権を与えることで、子どもの責任感や自主性を高め、様々な個性を持った選手の育成につなげていくようです。
具体的に試合中によく耳にするコーチングには、「Check your shoulder」と「Look around」の二つがあります。どちらも「周りを見ろ」というメッセージです。この声かけは、選手に自分の周囲に味方や相手選手がどの位置にいるかを確認する動作を促します。特に、スローインやゴールキックなど、時間に余裕のある場面でよく使われます。
また、パスを受けた選手の近くに相手選手が来ている時は、「Man on!」と言い、周囲の状況を知らせます。本来は選手同士で声を掛け合うべきですが、試合時間が進むにつれ子どもたちは疲労し、声を出せない場合もあります。そんな時は、コーチが外から声かけします。
攻撃時によく聞く言葉として、「Relax」 、「Easy」、「Simple」、「Take care of the ball」も挙げられます。「Relax」は、相手のプレッシャーがなく、時間に余裕があることを選手に気づかせます。「Easy」や「Simple」は、ボールを保持する時にかける言葉で、無理せず、シンプルなプレーで確実にボールをつなぐことを促します。また、「Take care of the ball」は自分のゴール近くでボールを失うリスクの高いプレーに対して、注意深くボールを扱うことを促す意味で使います。
逆に自分のチームが守備をしている時は、「On his touch」と言います。これは、相手のファーストタッチを狙え、という意味です。ファーストタッチは一番ミスしやすく、ボール奪還のチャンスが高くなります。また、自分のゴール近くでは、「No foul」や「Patient」なども頻繁に言い、「ファウルでボールを止めるな」や「辛抱強くいけ」と伝えます。実際、この声かけは、守備の時の不注意なファウルを減らす効果が期待できます。
子どもの個性を伸ばすには、シンプルな声かけを
こうして声かけのパターンをいくつか挙げると、「何をやっているんだ~!(What are you doing?)」と言った、ミスを咎める声かけが少ないことが分ります。これは、サッカーは足を使う競技で、ミスがあって当然だという考えに基づくのかもしれません。もちろん、同じようなミスが連続すると「Come on!」の嘆きは聞こえたりします。
ただし、全てのチームがこのような前向きなコーチング環境にあるわけではありません。過去のチーム経験から言うと、やはり保護者がコーチをするチームは、試合中の具体的な指示が多く、子どもたちを細かくマネージメントしがちです。サッカーで個性を伸ばしたいなら、専任のコーチが指導するチームの方が期待できるかもしれません。
これは親としての立場でも同じことが言えて、ペアレンツコーチと同様に、保護者は子どものプレーの一挙一動に反応し、間違ったプレーには全ての正解を教えたくなりがちです。ですが、そこはグッと我慢。コーチがシンプルな一言で子どもの理解を最大化できるように、一番気になるところだけシンプルに伝える方が効果的かもしれません。
ところが、息子にコーチがどんな言葉を試合中にかけているのか聞いてみると、「正直に言うと、ほとんど聞こえないんだよねぇ」と言います。実は、このコーチング、どれくらい注意深く聞くのかにも、子どもの個性が影響し、それがプレーにつながっているのかもしれません。