アメリカ少年サッカー記20「親が知っておきたい、子供のヘディング」 | サカママ メインコンテンツに移動
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アメリカ少年サッカー記20「親が知っておきたい、子供のヘディング」

「ヘディング」といえば、サカママにとって最もやって欲しくないプレーではないでしょうか。アメリカンフットボールで、脳震盪のリスクがニュースに取り上げられた時、多くの母親は、サッカーのヘディングが子供の脳に及ぼす影響も懸念するようになり、その動きは全米に広がりました。その結果、アメリカのユースサッカー協会は、2016年から、U12以下の選手のヘディングを全面的に禁止しました。このルールは、試合だけでなく、練習にも適用されました。もし試合中にヘディングをしてしまったら、例え偶然であっても、ハンドボールと同じ扱いで、相手のフリーキックとなり、ペナルティエリア内であればPKにもなります。

このヘディングのルールが改正したのは、息子がちょうどU10に上がる時でした。それまでは、試合でもコーナーキックからボールに合わせてヘディングして得点を取っていたので、ルールが変更された当初、子供達はかなり混乱しました。特に、試合中では、浮いたボールをどう処理をしたら良いかで子供達は判断を迷い、癖になっていたヘディングをやめて、胸や足元でトラップするように意識を変えるまでに1年ほど時間がかかりました。それでも、ヘディングが及ぼす子供の脳震盪のリスクや、大人になってからの認知症への影響が報告されるようになってきたので、このヘディング禁止措置に対する周囲の親の反応は、概ね好意的でした。

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いざヘディング解禁で起きたこと

ところが、U13に上がり、選手のヘディングが解禁されると、ここでもまた子供達の混乱が起きました。数年間、練習ですらヘディングが禁止されていたのですから、U13からいざヘディングしようとしても、そのやり方をすっかり忘れてしまい、急にはできません。息子も、コーナーキックで飛んでくるボールに対して、どう飛んでヘディングするか、そのタイミングを忘れていました。極端な場合には、親からヘディングのリスクを散々聞かされたせいで、ヘディングを避ける選手も出てくるほどです。本来なら、コーナーキックは得点のチャンスになるところですが、U13では、誰もヘディングで合わせることができず、ボールが頭上を虚しく通過して、そのまま、うっかり相手のカウンターでピンチになるほどでした。ヘディング禁止のルールが導入された当初、ヘディングが下手になってしまうのではないか?という一抹の不安がありましたが、目の前の惨劇を見ると、不安が的中したことを痛感しました。

そこから、時代の逆行をいくようですが、我が家では少しずつヘディングの練習を始めました。プレミアリーグのヘディングの影響の調査では、調査対象者がプロ選手としてプレーしていた、50年以上前の時代に、ボールが重かったことが認知症の原因の一つとして考えていました。現在は、当時のボールの素材と比べかなり軽量化されているので、ヘディングの影響は当時より軽減されているかもしれない、という考察もありました。その点を考慮して、家ではサッカーボールより軽いバレーボールを使ったヘディングの練習を週に1回ほど行っています(それでもヘディングの回数は10回ほどです)。この練習を導入したきっかけには、全くヘディングをしないでいきなり試合で強いボールをヘディングした時に、首などに強い衝撃を受けてしまう不安もありました。ヘディングをちゃんと合わせられるように体が覚えることで、不意打ちの衝撃を受けないトレーニングになれば、という考えがありました。

ヘディング苦手チームがとった発想の転換

息子のチームは、U14になりました。ヘディング解禁から1年が経ち、2年目に突入しています。ところが、チームは生まれ月の遅い子が多く、身長も低いので、セットプレーやコーナーキックで、大型選手のいるチームに対してヘディングでなかなか競り勝てません。

そこでコーチが、ヘディングをしないで、セットプレーやコーナーキックを確実に得点するアイディアを提案しました。コーナーキックは、ショートパスをして、ゴールラインをゴール目掛けてドリブルし、最後、中央に待ち構えている選手の足元にパスをしてゴールを狙うスタイルです。これが、想像以上に機能して、5回中1回くらいは、得点できるようになってきました。これまでは、普通にコーナーキックを蹴って、ヘディングをやろうとしても、誰もボールに触れず、逆にカウンターのピンチを招いていたので、シュートが打てるだけでも、かなり有効的な作戦です。このプレーでの鍵は、ゴールラインをドリブルで抜けるドリブラーですが、それをドリブル大好きな息子が担当しています。コーチには、「この場面は、やりたいだけドリブルしていい瞬間」といわれて、目一杯ドリブル。息子のアシスト率も挙がりました。

 

ヘディングのリスクは、まだまだ多くの議論がされていますが、今年からは、イギリス、スコットランド、北アイルランドのユースサッカーもU11以下の練習中のヘディング禁止ルールをスタートさせたようです。年齢が低い選手のヘディング禁止が発表された時、こんなことを試みるのはアメリカらしいな、という風潮があったのですが、もしかしたら今後このルールは他の国も追従するかもしれません。そういうトランジションの中で、子供達はヘディングとどう向き合っていくのか、この問題はこれからも問われそうで、また母親の心配も続きそうです。

 

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WRITER PROFILE

近本 めぐみ
近本 めぐみ

日米で色々な大学、研究所を渡り歩く理系研究者。現在はアメリカ在住、在米歴と息子のサッカー歴が8年のサカママ。サカママWEBでのコラムを通して、アメリカならではのサッカー育成の面白いところ、興味深いところを発信していきます。

★外部ブログ「アメリカ発少年サッカーの育成事情」でも執筆中