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グリーンカード

今さら聞けない!?サッカールール「グリーンカード」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は「グリーンカード」について。どんな場面で出されるのか?グリーンカードが持つ意味とは?

グリーンカードはフェアなプレーに出される「嬉しいカード」

グリーンカード

ゲーム中にグリーンカードが出された場面を見たことはありますか? 「イエローカードやレッドカードは知っているけど、グリーンカードとは?」と、疑問符が頭の上を舞っている方もいるかもしれませんね(ちなみにレッドカードが正式に使われたのは1968年メキシコオリンピックから)。今回は、このグリーンカードについて述べたいと思います。

イエローカード、レッドカードがともに警告、退場を表すものであるのと対称的に、グリーンカードは"フェアなプレー、リスペクトのある行為"に対して出される、嬉しいカードです。
グリーンカードは、U-12(4種)年代以下の大会を対象にフェアプレーを推奨するために2004年度からJFAによって導入された制度で、レフェリーはフェアプレー精神(リスペクト)を発揮した選手に対してグリーンカードを示すことにしています。つまり、「いまのはいいプレー、行為だったよ」と言ってあげるための重要なアイテムがグリーンカードなのです。私は、レッドカードやイエローカードとは違ってグリーンカードは掲げるのではなく、その選手にプレゼントするように出していたように思います。

実際にグリーンカードが選手に示される例ですが、みなさんが見たことがあるのはこんな場面ではないでしょうか。

  • ケガをした選手への思いやり
    倒れた選手を起こしたり、ケガをした選手を思いやったりする行動をとった選手に。
  • 意図していないファウルプレーの際の謝罪や握手
    勢い余って体をぶつけてしまった、足がかかってしまった。わざとではないけどファウルになってしまったとき、素直に謝る選手に。
  • 自己申告
    スローイン、コーナーキック、ゴールキック、ゴールなど、ボールがラインを越えたとき、正直に言った選手に。
  • 問題となる行動を起こしそうな味方選手を制止する行為
    熱くなっているチームメイトに一声かけて、チームワークを大切に戦っている選手に。
  • 警告も退場も受けず、ポジティブな態度を示す
    選手だけではなく、チームベンチに。

こういった場面以外にも、JFAはグリーンカードの精神として施設や用具を大切にする、会場のゴミを拾う、家での目標を達成したなどのピッチ外での過ごし方も例に挙げています。育成年代では、ポジティブな行動を褒めてあげることが大切な指導の一つとされているのです。

「良い選手」とはどんな選手?

ここで、違った側面から「良い選手」について考えてみたいと思います。皆さんは、どんな選手を思い浮かべるでしょうか?
ゴールに結びつく素晴らしいスキルを魅せる久保建英選手?どんな相手にも果敢にチャレンジするフィジカル・メンタルを備えた長友佑都選手?味方選手を鼓舞しリーダーシップを発揮する吉田麻也選手?
こうした選手の特別な能力は「良い選手」に求められる一つの条件です。ですが、それだけではなく、そのプレーや行為を通じてサッカーというスポーツの価値を高めることのできる選手、チームメイトだけではなく、相手チームの選手やサポーターからリスペクト(尊敬)される選手こそが「良い選手」ではないでしょうか?

会場でゲームを観ていると、「敵にボールをとられるな」「敵をやっつけろ」と声高な叫びを耳にするときがありますが、相手チームの選手は「敵」ではありません。以前に述べたように審判も含めて同じスポーツを楽しむ大切な「仲間」なのです。仲間であれば、相手をリスペクトし、全力で勝利を目指して良いプレーを競い合うことに集中してもらいたいです。それが、サッカーという競技の価値を自然に高めることに繋がるのです。ネガティブな「サッカーって、…」あるいは「サッカーをしている人は…」という声を聞くと、まだまだサッカーがスポーツとして成熟していないような気になり、残念になります。サッカーの価値を高めようとする「良い選手」が増えれば、こういった声も少なくなるのかなと思います。

グリーンカードの理解を深め、良い選手を育てていきましょう

 

育成年代の子どもたちは、サッカーのスキルを教わるとともに、「してはいけないこと」も伝えられているかと思います。その一方で、「正しいこと」が教えらえることは意外にも少ないのではないでしょうか。「してはいけないこと」を理解するのも大切ですが、子どもたちがポジティブなこと、正しいことをしたら、賞賛や感謝を示したいものです。JFAはグリーンカードの意味を次のように示しています。

  • それは良いアクションである。その調子で続けなさい。
  • ポジティブなアクションを再確認・再強化する。
  • ポジティブな教育である。
  • 認め、感謝し、もっとやるよう励ます。
  • 他の人が見本とすべき手本である。
  • ファンやオフィシャルもあなたのアクションを認め評価している。

皆さんもグリーンカードの意味、リスペクトの精神について理解を深め、子どもたちがフェアなプレーや行為(リスペクト)をしたら、それに気づいて褒めてあげてください。それもサッカー上達の大切な要素の一つなのです。そして、多くの「良い選手」を育てましょう。

最後に、2016年10月9日イタリアのコッリエレ・デッラ・セラ紙が報じた記事を紹介して終わります。(フェアプレー精神を発揮した選手への奨励賞であるグリーンカードを出されたことを報じるものです)

イタリアのセリエBのクラブ「ヴィチェンツァ」に属するクリスチャン・ガラノ選手が「ヴィルトゥス・エンテッラ」との試合の後半、同選手はシュートを試み、レフェリーからコーナーキックを与えられた。しかし、彼自身が相手は誰もボールに触っていないのでコーナーキックではないと申告。25歳の同選手はレフェリーからグリーンカードを与えられた史上初の選手となった。

WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。