指導者の言霊「山本富士雄 桐蔭学園サッカー部監督」
子どもが自ら考え、サッカーを楽しむ 指導者はそれを日々、感じさせられるか
まず、大前提として子どもたちが“サッカーを楽しむ”ということが大切です。
特に小学生は、中学生や高校生と比べても、選手それぞれに体格差があります。それだけに成長が早く、強い子どもや速い子どもが力を発揮しやすい状況にありますが、指導者はそうした子ども以外へのアプローチを忘れないでほしいですね。今、その子に何ができて、何ができないのか。それをしっかりと見極め、説明してあげられる。そして、その子が自信を失うことなく、身体の成長を待てば、今できないプレーもできるようになるという希望を持てるように導いてほしいですね。たとえ下手でも、その子がサッカーを楽しんでいればそれでいいんです。継続してサッカーをやりたいと、その子が自ら思うことが大切だと思います。だから、周囲の大人たちは、その子がサッカーを嫌いにならず、楽しいまま、中学生、高校生へと成長していけるよう導いてほしいですね。
私は幼稚園児から高校生まで幅広い年代を指導していますが、個人的にジュニア世代では技術的な指導の優先順位は、2番目、3番目くらい。止めて蹴るというサッカーの基本、ここが徹底できれば、いいと考えています。むしろ大切なのは、先ほども言った“子どもたちがサッカーを楽しむこと”“子どもたちが自ら考えること”です。自分で見て、考えてプレーしている自覚を持たせる。自分で考えてプレーしなければ、それはサッカーではありません。自分でトライし、失敗を重ね、そして成功したときの喜びを経験させる。指導者はそれを日々、何度も感じさせてあげてほしいのです。
それだけにジュニア世代では、ただ走る練習は必要ないと考えています。とにかく、どれだけボールに触らせてあげられるか。子どもは集中力が続かないとは、よく言われることですが、楽しいことならば、いくらでも集中できるんです。例えば、シュート練習も1列に並んで順番に打てば、待っている、すなわち楽しくない時間は増えますよね。そうしたボールに触らない、何もしない時間を減らしてあげればいいんです。とにかくボールに触れる。それも自分たちで考えてプレーするような練習を、いかに工夫して増やしてあげられるか。そうしたところに、指導者の力は注がれるべきだと思います。
子どもは自らの特長に気がつく 個性は否定しなければ伸びる
ジュニア世代の指導者や両親に、私が伝えたいのは、“個性は否定しなければ絶対に伸びる”ということです。プロの世界で活躍する中村俊輔選手や中村憲剛選手は、まさに自分の特長を考え、そこをとことん伸ばしてきた選手だと思います。それはまさに今、彼らの個性となってピッチで発揮されています。指導者よりも、親よりも、子どもは自分のことを分かっているはず。極端に言えば、子どもが嫌だということを、こちらが押しつけても、それはその子の特長には決してなりません。周囲の大人は、否定せず、子ども自らが、自分の特長に気がつくのを待ってあげればいいんです。
今、言葉を発することで、子どもが成長するチャンスを奪ってはいないですか?だから、私はこの言葉を贈ります。
「待てば子供は育つ」
大人が言ってやらせることと、自ら導き出して答えを得ることは、大きく意味が違います。 自分で考えて試合や練習に取り組むことで、サッカーが子どもたちの楽しみになることが大切です。後々、大きく成長させたいのであれば、言いたいことを堪えて待っていてください。
自主性を優先すると、すぐに成果が出るわけではありませんが、中学、高校、そして大人になってからの成果につながります。目の前にいる子どものサッカーに一喜一憂して、「良いとか、悪いとか」を言うのではなく、今は伸び悩んでいても暖かく接してあげることが、何より大切です。
取材・構成/原田大輔(SCエディトリアル)
※この記事は2014年11月17日に掲載したものです。