京都サンガF.C.育成・普及部 部長 池上正さんに聞いた「夏合宿が大切な理由」
夏休み中、各チームで行っている合宿。なぜサッカージュニアにとって合宿は大切なのか、経験することでどのように成長するかなどを、これまで延べ40万人以上の子どもたちを指導してきた京都サンガF.C. 育成・普及部 部長の池上正さんにお聞きしました。
夏合宿は子どもたちが大人になっていくために必要な経験
夏休みは子どもたちが新しい経験をできる大切な時期。だからこそ、自分たちが好きなサッカーで仲間たちと寝泊りをする合宿は、意義のあるものにして欲しいと思うのです。
以前、イングランドのリバプールでプレー経験のあるコーチに子どもの頃のサッカーで印象的だったことを尋ねると、合宿だと答えました。しかも合宿で行ったサッカーの練習や試合よりも、夜、懐中電灯を片手にみんなで鬼ごっこをしたことがすごく楽しかったそうです。彼は私よりずっと年上で、リバプールのスクールにも所属していた方。つまり、サッカーの母国イングランドの名門チームでは、50年以上も前から合宿を行い、さらに子どもたちの思い出となる経験をさせていたということです。
私がジュニアユースのチームのコーチをしていたときは、夏合宿にギターを持って弾き語りをしました。子どもたちは、そんなことでさえワクワクするのです。また他のチームですが、合宿中の洗濯を手洗いで行い自立を促したり、6年生が1年生の指導にあたることで教えることの難しさを学ばせていたチームもありました。
合宿ではサッカー以外のことも数多く学べます。ぜひ、子どもたちに体験させてあげてほしいと思います。
もちろん合宿では、トレーニングしたことがしっかり身につきます。普段なら1週間に1~2回の練習を、合宿では短期間に集中して行うので定着しやすいからです。ただし、オーバートレーニングになってしまうケースもあるので注意することが必要です。
低学年のお子さんの場合、合宿がはじめて家族と離れる経験になり、お母さん方も不安になったりすることでしょう。けれど私は、子どもたちが年齢を重ねていけばいくほど、家族だけでサポートするのではなく、多くの人の手を借りて、ときに任せることも必要だと思います。だから、夏合宿は子どもたちが大人になっていくために必要な経験だと理解して応援してあげてください。そして合宿に行く際は「楽しんでおいで」と声をかけて、後押しをしてあげてほしい。帰ってきたら、子どもたちからたくさん話を引き出してください。私は合宿先で「一番大事なおみやげは、お母さんに合宿であったいろいろなことを話すことだよ」と子どもたちに伝えています。お子さんが楽しそうに話をしてくれたなら、きっと成長している証です。
夏合宿で成長させる!サカママとしての5つの心得
①合宿のお知らせがきたらキッズの気持ちを確かめる
夏合宿はサッカージュニアにとって確かにプラスになるもの。でも、キッズの気持ちを確かめないで“絶対に参加する“と決めつけるのはよくありません。参加したいかどうかを聞いて、不安そうだったり、あまり乗り気でなかったら「コーチに相談しておいで」と声かけを。それでも気持ちが変わらない場合は、無理に参加を強要しないことです。
②夏合宿に参加することがナイスチャレンジ!
子どもたちにとって親元から離れて滞在する合宿は、一つのチャレンジでもあります。とくに合宿初参加のキッズや低学年の子はなおさらです。ママもそう理解して、そのチャレンジを認めてあげ、応援してあげましょう。
③合宿帰りにカバンを持つのはNG!
合宿を解散するや否や、ママがキッズのカバンを持ったり、「疲れたでしょ~」と声をかけるのはやめましょう。キッズたちは合宿の間、自分のことは自分で行い、甘えることなく過ごしてきたのです。くれぐれも合宿前に戻るような声かけや行動はとらないように!
④合宿中に経験したことを家でも継続する
合宿では、荷物の管理や部屋の掃除、食器の後片付けなど、すべて自分で行うのが基本。また、多くのチームでは、出された食事はすべて食べなければいけないので、苦手な食べ物が克服できるキッズも多いようです。合宿で何を経験したかを聞いて、家でも継続するように心がけましょう。
⑤キッズから何を経験したのかを聞き出そう!
合宿から帰ってきたら、どんな体験をしたのかをできるだけたくさん聞き出しましょう。そして体験したことについて、楽しかったのか、大変だったのかなど、どう感じたのかも聞いてあげることです。子どもたちの話から、どれだけ成長したかが見いだせるはずです。
京都サンガF.C.のサッカースクールでは毎月1回合宿を実施!
京都サンガF.C.のサッカースクール(プレミアコース・プレミアクラス)では、毎月1回、宿泊プログラムを行っているそう。
「スクールの目的は人間教育。その一環としてキャンプ場にテントを張って、子どもたちで自炊も行っています。今年で3年目になりますが、子どもたちは兄弟のように仲良くなっています」(池上さん)
池上さんから指導者の方へ
「子どものハードルを見て、チャレンジしたことを認めてあげてほしい」
私が思う「チャレンジ」とは、変化するということです。たとえば合宿中の食事の際、トマトが嫌いな子どもに「コーチも嫌いなものにチャレンジする」と食べて見せるのではなく、「まずはチャレンジしてみよう」と促すことです。箸でちょっと触っただけでも「OK !ナイスチャレンジ」と認めてあげ、次のときに少しでも上回ることができればまた認めてあげる。一緒にやろうではなく、子どものハードルを見て、チャレンジしたことを認めてあげれば、子どもたちは成長していきます。
練習においてもそれは同じ。もし「やりたくない」「嫌い」と言ったならば、その理由を聞いてあげ、その上で何かできることをチャレンジさせてあげてほしいと思います。
写真協力/京都サンガF.C.、鈴鹿グローリィ