今さら聞けない!? サッカールール「サッカーのコモンセンスがあれば」
1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ! サッカーには、ルールで定められた約束事以外にも持っておきたい精神=「コモンセンス」が存在します。今回は、サッカーの試合をフェア(公正・公平)に、円滑に進めるために心がけたいコモンセンスについて考えていきます。
サッカーにおけるコモンセンスとは
サッカーの競技規則は1~17条で構成されており、条文自体は140ページと薄いです。VARの導入で以前より詳細になってきましたが、実際の試合中には、この条文に記載されていないことが起こることも多々あります。
そのようなときには、サッカーという競技の「精神」、競技規則の「精神」に基づいて解決することを求めています。いわば、約束事以外の「精神」=「コモンセンス」であり、今回はその「精神」について述べていきます。
先日、ある試合を見ていると、攻撃側の一人の選手が相手守備側の選手のビルドアップ(組み立て)のパスを追いかけるとき、いつも声を出していました。相手の選手はとくに困った様子もなくプレーをしていましたが、そのことに気づいた主審はハーフタイムにその選手に「“プレー中、または再開のときに言葉で相手を惑わす”声はだめだから止めようね」と伝えていました。後半に入ってからは、その声は全く聞こえなかったようです。
相手を惑わせていると判断されれば、反スポーツ的行為として警告に値します。さらに、相手がパスを受ける瞬間に「スルー」などと言ってマイボールにすることは明らかに相手を惑わしているので、反スポーツ的行為となります。
反スポーツ的行為は、元来非紳士的行為(アンジェントルマンリービヘイヴ
「競技規則に書いていないから何をしてもよい」は正しい?
では、その「精神」は何かというと、競技規則の『サッカー競技規則の基本的な考え方と精神』において「フェア(公正・公平)が美しい試合にとって極めて重要な基盤であり、不可欠な要素であり」、かつ「競技者の安全・安心、快適なプレーに競技規則は寄与しなければならない」と述べられています。1863年にイングランドで競技規則が成文化されましたが、この「精神」を忘れてはなりません。
その「精神」を理解していれば、「競技規則に書いていないから何をしてもよい」「ルールとして審判が決めてほしい」などという声が聞こえてくるのが不思議でなりません。サッカーの試合は、勝利することを目指して個々の選手やチームが全力でプレーしますが、相手がいることが大前提であり、自分たちだけでなく相手も安全に、快適にプレーするための「精神」を大切にしたいものです。
具体的に起こっている事象で言えば…
・寒い時期での試合中、暑くなったので脱いだ手袋を相手チームのベンチに向けて投げるのではなく、自分のベンチ側に投げたいです。
・ゴールキーパーが体や手袋の汚れを拭くためのタオルをネットにかけるのではく、ゴールの横に置いておきたいです。
・アウトオブプレー中に、ベンチからペットボトルをピッチの遠くまで投げ入れずに、タッチライン上で渡して飲水してもらいたいです。
・PKを蹴るときに、ボールについた汚れをとるためにペットボトルの水で流すのは良いと思いますが、わざわざ水をかけるのは止めたいです。
・雨の日、スローインの際にボールを拭いて滑らないようにしたいですが、相手ベンチ前をさけて、飛ばされてピッチに入らないように気をつけてビニール等にタオルを入れて置いておきたいです。
・相手のチームのタオルには触らないでもらいたいです。
終わりに
競技規則には明記されていませんが、審判が指示したり判定したりするのではなく、選手やベンチ役員がフェア(公正・公平)であるサッカーの「精神」、競技規則の「精神」、「コモンセンス」に従って判断、行動してもらいたいです。
これまで述べてきたように、「コモンセンス」とは常識、良識という意味ではなく、「精神」の理解と実践ではないでしょうか。「相手(選手・審判)」がいないと試合は成立しませんので、常に「相手」をリスペクトすることがフェアプレーの基盤であり、1863年にイングランドで競技規則が成文化されたころに最も重要視されたのはジェントルマンシップ(紳士・淑女)の涵養だと考えます。
ドイツの古い諺ですが、「サッカーは子どもを大人にし、大人を紳士・淑女にする」が今でも通用すると信じています。決して、野蛮な人たちが紳士・淑女を装ってプレーしていると言われないようにしたいです。
審判員もいろいろ起こる行為を見つけて、反スポーツ行為による警告、イエローカードで対応するのではなく、「精神」に基づき選手にコミュニケーションをとって事前に防ぐという気づきが求められていると思います。「美しいサッカー」を選手・ベンチ役員と一緒に実現したいものです。
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