自分が求めている姿と周りから求められている姿を考える
元プロサッカー選手で現在はメンタルトレーナーとして活動する山下訓広さんによる連載第32回目。サッカーなどのチームスポーツで試合に出るためには、選手同士やコーチ、監督との信頼関係がとても重要になります。今回のコラムでは“信頼関係を築く”ために重要なことをお伝えします。
試合に出られずに気持ちが落ちてしまう
中学2年生のA君からこんな相談がありました。
A君:「サイドハーフでプレーしているのですが、今はスタメンではなく途中から試合に出ることが多いです。試合に出るために得意のドリブルでアピールしていますがなかなかスタメンで試合に出られず、気持ちが落ち込んでしまいます。アピールを続けているのですが出られない現状が苦しいです」
試合に出られずに落ち込んでしまう。誰しもがそのような経験があるかもしれません。こんなときは自分が求める選手像と監督から求められる選手像を整理していくと、より具体的に何を努力するべきなのかが見えてきます。
まずはA君にこんな質問をしてみました。
どんな選手になりたいですか?
A君:「ネイマールのようなドリブルができる選手になりたいです。サイドからドリブルで相手をかわして得点に絡める選手を目指しています。なので毎日ドリブル練習をしていて、試合でもチャンスがあればドリブルで相手を抜いてアシストなどはできています」
監督はどういう人ですか?
A君:「すごく優しい人です。褒めてもらうこともあるしアドバイスもくれます。マナーには厳しくて、挨拶や準備などをやらないと注意されることがあります」
それではどんな選手が試合に出ていますか?
A君:「人それぞれ違いますが、僕のポジションで出ている選手はスタミナがあって走れる選手です。あとは明るい性格なので盛り上げる声も出している気がします」
監督から求められていることはありますか?
A君:「もっとボールを呼び込めと言われています。あとは裏を狙って行けとも言われます」
信頼を積み重ねる
サッカーは監督が選んだ選手が出場し、その選手たちが評価をされるスポーツです。またチームで勝利を目指すスポーツになります。これは育成年代だけではなくプロの世界でも同じです。そのなかで試合に出るためには、何が求められているのかを明確にしていくことが大切になります。
A君は試合に出たいという気持ちを持っており、自分が求める選手像もはっきりとしています。求められている姿を明確にするということは、自分自身が求めている姿を目指してはいけないということではありません。ですが監督が選手を選ぶとき、信頼関係が重要になってきます。試合に出るためには「この選手を出せば大丈夫」という監督からの信頼を積み重ねる必要があります。
信頼を積み重ねるには、求められていることを整理していくことが大切です。監督が求めている人間性(マナー)、スキル(声を出すこと、裏に抜けること)この2つを積み重ねていこうと伝えました。
A君:「わかりました。挨拶と準備は意識して取り組みます。呼び込む声も意識して裏抜けからドリブルで仕掛けることをやってみます!」
1カ月後、A君からこんな報告がありました。
A君:「スタメンで出られるようになりました! ドリブルもいろんな場面で仕掛けられて、最近は得点も増えてきています。監督と話す時間も増えて信頼されている気がするので、楽しくサッカーに取り組めています!」
サッカーのようなチームスポーツでは、信頼関係を構築することが重要なポイントとなります。チームメイトやコーチ、監督と信頼関係を築けると、何をより努力していくべきなのかを明確にして取り組んでいけます。
先ほどもお伝えしたように、自分の求める姿を目指してはいけないわけではありません。チームスポーツの中で監督が安心して任せられるような選手になるには、求められている姿も理解しておくことが重要で、結果的にそれが個人の成長にもつながりやすいということです。
自分が求めるベクトルとチームから求められているベクトルの2つの方向から物事を整理していくと、目標までの行動を整理しやすくなるので、ぜひ参考にしてみてください。