【中央大学商学部で学ぶ スポーツ・ビジネスの最前線】「セントウ」モードで目指す地域貢献とは?!
毎回斬新な企画で注目を集める中央大学商学部の取り組みを追う連載企画第7弾。今回は、コロナ禍による3年ぶりの実習となった東京23FCホームゲーム集客の施策についてレポ―トする!
※本記事は2022年11月発行footies!58号に掲載されたものです。
江戸川区の“銭湯”文化とスタジアムの“戦闘”文化の融合!?「セントウ」モードで目指す地域貢献!
中央大学商学部の学生がサッカークラブ経営に参画する演習科目が、コロナ禍を経て3年ぶりに帰ってきた。2015年から続く東京23FCとの取り組みでは、過去にシーズン最高の観客数を動員し、世界的イラストレーターである久保誠二郎氏によるクラブ公式キャラクター『エディ君』を創り出した。画期的な施策は数々のメディアで取り上げられ、その活動は広く知れ渡っている。今年、プロジェクトで中心的役割を果たした西山蒼生さん(3年)らは、かつての先輩たちの活躍に憧れ、中大商学部の門を叩いた世代だ。 「今年の企画はこれまでと一線を画すアプローチ方法だった」と語るのは同演習科目を立ち上げた渡辺岳夫教授。これまではホームゲームの集客のみを目標としてきたが、西山さんら学生たちはスタジアムに足を運んだ観客の試合後の送客をも視野に入れた。
着目したのは“銭湯”。東京23FCの拠点・江戸川区は全国で2番目に銭湯が多い地で知られる。銭湯の利用者は高齢者が多く、クラブのサポーターはファミリー層がメイン。互いの顧客層の融合を考え、銭湯とスタジアムの「相互送客」を狙ったのだ。
企画に賛同した銭湯組合からの全面協力を得て、江戸川区の各銭湯にチラシ、観戦チケットを配布しスタジアムへ誘導。会場では銭湯の入浴料の特別割引チラシを撒き、ファミリー層の銭湯利用を促した。
この他にも三大養殖地である同区の金魚祭りの一部再現、国産として唯一アーチェリーのハンドルを制作する地元企業の協力を取り付け実現したパラアーチェリー体験会など、共生社会の実現に資する江戸川区の取り組みにちなんだ企画で、ホームゲームを大いに盛り上げた。
台風14号の本土上陸が懸念された大会当日だったが、学生たちの想いが届いたか奇跡的にも大雨は回避され、金魚すくいはイベント終了まで家族連れが賑わう盛況ぶりとなった。先輩たちの意思を受け継ぎ、年々アップデートを続ける中大商学部のビジネス・チャレンジ。一過性のものではない、この長年の積み重ねが、クラブ、そして地域社会の貢献につながっている。
江戸川区の「ストロングポイント」をプッシュする企画の数々「セントウモード」とは??
「江戸川区が誇る特徴を多くの世代に体感してもらいたかった」
スタジアムへの“集客”という目的そのものを大胆に見直し、来場した観客を地元産業に還元するというプランを考案した西山さんは、今回の取り組みの実質的なリーダー。日本で2番目に銭湯が多いという江戸川区の“ストロングポイント”を活用し、浴場組合を巻き込み、点在する銭湯にチラシ、無料観戦チケットの配布に奔走した。観戦チケットの原資は協賛を取り付けた地元金融機関のスポンサー収入から賄い、高齢者をスタジアムへと誘導した。 「意気込み・気持ちは絶対条件。ただし、行政や企業を説得するにはスキル、計画性、客観性、論理的な思考がもっと必要だと思い知らされました」と西山さん。3年ぶりの実習とはいえ未だコロナ禍の根本的な解決はないまま、夏はリモート環境に終始し、メンバーのモチベーションを保つのも苦労したという。
そもそも中大商学部への進学は企画を立案し実現してきた先輩たちの取り組みに共感し「自分もやりたい!」という思いからだった。同大学の実学の精神をモットーに、1万部近い宣伝しチラシ、数百の観戦チケットを配布し、SNS告知も怠らなかった。結果、台風の影響もあってかスタジアムと銭湯の相互送客は目標数にこそ達しなかったが、浴場組合長からは「スタジアムからの流入は確実にあった」と感謝の言葉をもらったという。「この大学、この講座だから経験できた」と振り返った西山さん。最終学年となる来年はグローバル・ビジネスチャレンジでドイツに渡る予定だ。
「生き物を扱うことに十二分の対策をした」
「江戸川区は金魚の名産地で日本三大産地(奈良県の大和郡山、愛知県の弥富)の一つとされてきました。しかし50年続いた金魚祭りはコロナ禍で3年連続中止、養魚場は最盛期に20件あったのが今では2件になってしまいました。金魚のふるさとでもある江戸川区で触れ合いの機会をつくりたい想いで、東京都淡水魚養殖漁業組共同組合の協力を得られることになりましたが、クラブ側からは生き物を扱うことに対して幾度も指摘を受けました。そこでメダカすくいの催しを行なっていたJリーグクラブを現地調査し、持ち帰った金魚の飼い方とまとめた同組合の冊子を作成して、懸念点を一つずつ潰して実現にこぎ着けました。鑑賞用の高級金魚、備品の用意から運搬まで協力してくれた堀口養魚場さんには感謝しています」
「パラスポーツ、そして共生社会がテーマ」
「共生社会の実現は江戸川区が掲げている取り組みの一つです。そこで日本で唯一アーチェリーのハンドル部分を製造している江戸川区の西川精機製作所さんにご協力いただき、パラアーチェリーを体験してもらうと企画しました。矢を射ることに対してスタジアムから同意を得るにはいくつものハードルがありましたが、中大のアーチェリー部の指導のもと、車椅子からみた視点を体感いただき、パラスポーツを体験してもらうきっかけづくりができたと思います」
結果そのものではなく、プロセスが大事
東京23FCスポーツダイレクター 原野大輝
1977年、山梨県出身。中央大学を卒業後、JFL の佐川急便東京SCに加入。2003 年東京23FC の前身となる東京23SCを設立以降、東京23FCの要職を歴任。中大商学部の渡辺岳夫教授の理念に共感し、2015年から本プログラムにクラブとして協力している。
「江戸川区はSDGsを含めて共生社会の実現に資する取り組みを行っています。その流れに沿ったいろんなアイディアが学生たちからは挙がりました。私たちでは発想しないようなことにチャレンジしてくれます。金魚すくいに関しては、生き物を扱うことのリスク、課題を学生たちに与えましたが、彼らはそれを全て乗り越えてきました。その行動力は賞賛に値します。今年の「セントウモード」の企画の根幹となった江戸川区浴場組合とのつながりは、昨年度に高齢者コミュニティ「くすのきクラブ」との交流から生まれました。先輩たちの積み重ねを受け継ぎ、さらにその上を目指す彼らの姿勢には毎年驚かされます。彼らにとって結果そのものではなく、プロセスこそが大事なのだと私は思っています。それを理解し、やり切ってくれることが、この取り組みの正解なのだと思っています」
写真/野口岳彦