自分の体質を見極める!今、注目の方法とは?
「遺伝子検査」って、聞いたことありますか? 筋肉の付き方、瞬発力や持久力など自分の体質を知ることができることから、今、アスリートはもちろん、育成年代の間でも注目を集めています。そこで、順天堂大学でスポーツ医学を専門とし、いわきFCのチームドクターも務める齋田良知先生に、運動能力と遺伝子の関係や、遺伝子検査の活用方法についてお聞きしました。
運動能力に遺伝子が関係している!?
―まずは、運動能力と遺伝子の関係について教えてください。
「遺伝子が1人ひとり違うことはご存知ですよね。遺伝子にはいくつかのタイプ(遺伝子多型)があって、1つの遺伝子の中で配列が変わってくると、あるタンパクが作れたり、作れなかったりするんです。例えば、アルコールを飲める人と全く飲めない人がいるのも、遺伝子のタイプによって、アルコールを分解する酵素(タンパク)が作られる人と、そうでない人がいるからです。運動能力もいくつかの遺伝子が関与していると言われ、例えば、速く走るのに有利なタンパクを作れる人、作れない人がいるんです」
―それは、両親の遺伝子に関係するのでしょうか?
「一般的に、運動能力の66%は遺伝的要因で決まると言われています。とはいえ、遺伝子タイプは、陸上のようなコンマ何秒を争う競技では関係してくるかもしれませんが、Jリーガーや日本代表などは、どんな遺伝子タイプであっても達成できると言われています」
―では、なぜ遺伝子検査を受けているアスリートが増えているのでしょうか?
「遺伝子検査から様々なことがわかるのですが、その1つに筋肉構造があります。筋肉と筋肉を結びつける部分に『αアクチニン3遺伝子』というタンパクがあって、これを作れる人は筋肉を早く収縮することができるので、効率的に筋力を発揮できるというわけです。
同じトレーニングをしても筋肉がつきやすい人と、そうでない人がいますよね。その際、体質だから…と簡単に片づけてしまいがちですが、実は先にあげたようなタンパクが作れるかどうかというのが関わっているかもしれないんです。そうすると、これまでいくら努力しても筋肉がつかなかったのは努力不足ではなく、体質に合ったトレーニングなど工夫が足りなかったということになるわけです。遺伝子検査は、自身の体質を知る指標になるので、結果を自分の能力を最大限に引き出すために使っている選手が多いと言えますね」
遺伝子検査は身体と向き合うきっかけに
―具体的に遺伝子検査はどのように活用されているのでしょうか?
「2017年、いわきFCのチームドクターに就任した際、選手全員に遺伝子検査を行い、遺伝子の特徴に分けたトレーニング方法に変えたんです。というのも、どうしてもチームスポーツの場合、平均的な人に合わせてトレーニングをすることが多いですよね。でも、個人に合わせてトレーニングを行えば、トレーニングの効率が上がるので、選手それぞれの成長につながり、チームとして強くなるんじゃないかと思ったからです。遺伝子別に3タイプに分け、トレーニングの強度や負荷を変えたところ、ほぼ全員の筋力、スピード、俊敏性が上がりました。体脂肪も減って、アスリートの身体としてすごくよくなりましたね。以降、いわきFCでは、遺伝子別のトレーニング方法を取り入れています。こうした取り組みも後押しして、クラブ創設6年目となる今シーズン、Jリーグに昇格できました」
―今、遺伝子検査は、育成年代でも注目されているのでしょうか?
「遺伝子検査をすることで、遺伝子の特徴に合わせて効率的にトレーニングできたり、ケガの予防などにも応用できることから育成年代でも注目されています。子どもの頃に自分の身体としっかり向き合うことはあまりないと思うので、遺伝子検査はそのきっかけづくりにもなるかもしれないですね」
スポーツドクター齋田先生!遺伝子検査のコト、教えてください!
Q.遺伝子検査から、どんなことがわかるのでしょうか?
A.瞬発力や持久力、スポーツ障害なども!
検査方法にもよりますが、例えばスポーツに関連した遺伝子であれば、筋線維※、瞬発力、持久力、筋トレ効果、スポーツ傷害(筋損傷、疲労骨折、靭帯損傷など)、睡眠の質・リズムなどを知ることができます。その他、メンタル・ストレス、体脂肪、血糖、血圧、骨、頭髪、シミ・そばかすなどの体質もわかります。
※筋線維とは、体を動かす時に使う骨格筋。収縮速度や特性により「速筋」と「遅筋」に分けられ、速筋が多いと瞬発力、遅筋が多いと持久力が優れていると言われています。
Q.遺伝子検査の方法は?
A.唾液をとって検査します
検査方法は簡単で、唾液でサンプルをとって検査します。費用は3万円~が一般的。遺伝子は一生変わらないので、人生で一度検査を行えば大丈夫。いわきFCでは、検査結果から医師や栄養士がアドバイスし、トレーナーがフィジカルトレーニング指導を行っていますが、一般の方の場合は、検査結果をもとに栄養士などの専門家がアドバイスしてくれるケースが多いようです。
Q.サッカージュニアが自分の遺伝子情報を知ることの良さとは?
A.壁にぶち当たった時に、手掛かりの一つになる!
遺伝子検査をすれば、自分の体質の強みや弱みなどがわかります。サッカーを続けていると、どうしても伸び悩むことがあると思うのですが、そんな時に、自分の遺伝子情報を知っていれば、それを参考にトレーニング方法を変えたり、食事内容を見直したりもできると思います。
また、遺伝子的に優れた部分がわかれば、それに特化して強く鍛える方法もありますし、反対に、弱い部分を強化していくこともできます。例えば、中盤でボールをさばくのが上手な選手が、スプリントタイプ(瞬発力に優れている)の遺伝子を持っていたとします。このような選手はスピードトレーニングを強化することでスピードが向上する可能性が高いので、もともとしなやかで上手いうえに、速さが加わるわけです。遺伝子結果を踏まえた最適なトレーニングを行えば、効率的に能力を伸ばすことができると言えるでしょう。
Q.遺伝子検査はケガ予防につながりますか?
A.日頃からケアをしっかり行えば将来的に役立つことも
サッカーで多いケガは、肉離れと靭帯損傷です。遺伝子検査では、ケガに関連することも知ることができるので、検査結果をもとに日頃からケアをしっかり行うことが大切です。肉離れになりやすいタイプだとわかれば、柔軟性をよくしたり、疲労を溜めないことが必要ですし、靭帯損傷になるリスクが高いとわかれば、片脚のスクワット動作を安定化させる訓練を行いケガの予防を図ります。
遺伝子検査を体験!その感想は?
「数字で確認できたことで対策ができる」
サッカーを頑張る息子のために、遺伝子分析という科学的な根拠を基に「適切な努力」を促したいと思い受けてみることにしました。瞬発系が得意だと思っていたものの、筋繊維は持久系に向いていることがわかったので、今はスピードで勝負していますが、それが通用しなくなった時、次の展開・対策が立てられるのはとても大きいですね。正直、遺伝子分析の数値だけだとマイナスの想像が先行し、知る恐怖もあったのですが、体質に合った入念なメンテナンスをすることで、ケガの予防ができることも分かりました。