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今さら聞けない!?サッカールール「新型コロナウイルスによる規則の改正」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は、「新型コロナウイルスによる規則の改正」について。スポーツ界にも大きな影響を及ぼしている新型コロナウイルス。サッカーもその例外ではありません。感染拡大を防ぐため、競技規則にはどのような改正が加えられたのでしょうか?

コロナウイルスの影響で競技規則にも変化が

 
photo:Getty Images

この1年半は、新型コロナウイルス感染拡大によって、今まで当たり前のことや普通だと思っていたことが、実は非常に貴重でかけがえのないことだと気づかされました。皆様のお子さんも、ゲームの中止や延期など、サッカーの活動に制限が加わり、これまでのスタイルが一変したのではないでしょうか。
IFAB(国際サッカー評議会)は、選手、スタッフ、ファン・サポーター、そしてスポーツ文化を守るという視点から、新型コロナウイルス感染症に対する対策・対応を考え、競技規則の暫定的改正を行っています。今回は、その暫定的改正と関連事項を取り上げていきます。

交代の最大数について

昨年は新型コロナウイルスの影響により、各国でリーグが中断されるなど、大幅な日程変更がありました。リーグ再開後は、過密日程による選手の疲労などが懸念されたため、交代要員の数を最大3人から5人とする改正がされました。

この改正を詳しく見てみると、次のように示されています。

交代要員の数は、公式競技会のいかなる試合でも最大で5人までとし、その数はFIFA(国際サッカー連盟)、大陸連盟、または、各国サッカー協会が決定する。ただし、トップディビジョンにおけるクラブのトップチーム、あるいは各国の「A」代表チームが出場する男子および女子の競技会では、交代は最大で3人までとする

「トップディビジョンにおけるクラブのトップチーム」はクラブワールドカップ、「各国の「A」代表チームが出場する男子および女子の競技」はワールドカップが例としてあげられます。
これらの大会では、従来通り交代は最大3人までと示されてはいるのですが、選手のコンディションを考慮し、次のように暫定的措置がとられています。

  • 各チームは最大5人の交代要員を用いることができる。
  • 試合が途切れる回数を減らすため、試合中の交代は各チーム最大3回とする。加えて、ハーフタイム時にも交代することができる。
  • 両チームが同時に交代した場合は、各チームそれぞれ3回のうちの1回の交代回数を使ったとして数える。
  • 試合中に使わなかった交代、また、残りの交代回数は延長戦に繰り越す。
  • 競技会規定で、延長戦にさらに1人の交代要員の追加を認めているのであれば、各チームはもう1回の交代を行うことができる。加えて、交代は延長戦の始まる前、また延長戦のハーフタイムにおいても可能である。

最大5人交代要員を用いることができますが、交代の回数は最大3回までという点は気を付けなければいけません。5回交代できるわけではないので、1回の交代で1人しか交代しない場合は5人の交代要員を使い切ることができない、というわけです。

交代数・回数は大会、試合によりけり

ここまで読んできて、「この前見た試合では、6人交代していたような…?」と思った方もいるかもしれません。実際に、6月11日に行われた国際親善試合の日本対セルビア戦では、日本代表は6人の交代を行っています。

実は、親善試合などの国際「A」マッチでは、最大12人の交代要員が届けられ、最大6人までの交代が行うことができる、となっています。国内では、それぞれ大会ごとに競技会規程に基づき決められています。例えば、5人の交代を5回まで、あるいは後半は3回まで、延長戦では回数を使い切ったら追加できない、などと示されている大会もあります。

尚、これらの暫定的措置の適用期間は2021年12月31日前に終了予定の競技会とされていましたが、期間が再度延長され、2022年12月31日までに終了を予定している競技会にも適用できる旨の回状第23号が6月1日に発信されました。

飲水タイム・クーリングブレイクの設定

 

新型コロナウイルス感染防止のため、これまでフィールド外に置かれていた飲水ボトルの共用が禁止されています。その結果、十分な水分補給の機会が見込めないため、WBGT数値に関わらず、飲水タイムが前後半1回ずつ設定されるようになりました。ただし、両チームが合意しているのであれば、実施しないことも認められます。

飲水タイムの際も感染対策を意識して行動する必要があります。例えば、選手が口を付けてフタをしたボトル等をクーラーボックスに戻すことは絶対に避けなければなりません。たとえ飲む際に口が直接触れていなくても、唾液が飛んでいる可能性があり、感染の危険性があるためです。
チームによっては、選手個人の名前を記載したマイボトルを用意し、持ち運び可能なケースに入れ、飲水タイムにはそれを飲むようにしています。

尚、飲水タイムは作戦タイムではないので、作戦ボードを使った指示はしないようになっています。とはいえ、この飲水タイム後にゲームの流れが大きく変わることもあるので、主審は飲水タイムをとる時間帯やゲームの流れ、再開方法、場所などにも気を配っています。時間帯は前後半の半分くらい、ベンチ前のスローインが最良のタイミングですが、なかなかそのようにいかないことも多いです。

また、暑い時期のゲームでは、飲水タイムに加えてクーリングブレイクを設定します。クーリングブレイクでは氷水にスポンジを入れて体を冷やすことが認められていますが、その際はスポンジで顔を拭わないように心掛けなければなりません。飲水タイム同様、クーリングブレイクの間も感染対策を意識した行動が必要です。

飲水タイムとクーリングブレイクの詳しい解説はこちら

ベンチでも感染対策を意識

ベンチでは、社会的距離(できれば2m、最低でも1m)を保つことが求められています。そのため、1席空けて座るようにし、入りきらない場合はベンチを増やしたり、主審および両チームで事前に合意した場所で待機するといった対応をしなければいけません。

他にも感染対策のため、下記のことが定められています。

  • ベンチの選手およびチームスタッフは、マスクを着用する。ただし、テクニカルエリアで指示を送る際は、マスクを外してよい。
  • 不要な会話、接触は控える。
  • 指笛は禁止。

あるチームは交代して退いた選手に対して、マネジャーがビブス、マイボトル、マスクをセットにして渡していました。非常に準備が行き届いた対応だと思います。

選手、スタッフ、関係者、そして観客も感染対策を

 

感染対策の観点から、下記のような要請も出ています。

  • 来場する選手・チーム関係者すべて、試合の2週間前から検温等体調管理を行い、試合当日はその体調管理報告をしなければなりません。
  • チームの集合写真撮影は認められますが、掛け声、肩を組むことは禁止とし、隣や前後の選手同士がぶつからないように注意します。(マーカーで立つ位置を示しているチームもあります)
  • コイントスは主審および両チームキャプテンにより実施しますが、社会的距離を保つこととし、挨拶だけですませます。(肘タッチも接触しないように心掛けている選手もいます)
  • ピッチ上で円陣を組むことは行わないことになっています。

また、観客に対しても、社会的距離を保つこととともに、次のような行為をしないようにお願いしています。

  • 応援の扇動
  • 歌を歌うなど声を出しての応援、指笛
  • タオルマフラー、大旗を含むフラッグなどを"振る"もしくは"回す"行為
  • トラメガを含むメガホンの使用
  • ハイタッチ、肩組み

尚、太鼓、応援ハリセン等、自席で叩ける鳴り物の使用は、ホームチームが使用可否を判断します。ただし、メガホンの使用は不可です。また、スタジアム備品を叩く行為も認めていません。
観客の皆さんのご協力により、多くのゲームで拍手や手拍子による応援がされています。統率のとれた手拍子はゲームを盛り上げる大きな力になっています。

以上、守らないといけないことや行ってはいけないことなどの制約が多いのですが、その日の試合で感染者を出さないためにも、主催者、チーム・選手、審判、運営スタッフでしっかり情報を共有しておく必要があります。

医療従事者はじめ、多くの人の協力があって初めて大好きなサッカーをする、みる、支える、集まるということができるんだということを感じたいと思います。

WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。

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