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今さら聞けない!?サッカールール「DOGSO(決定的な得点の機会の阻止)」

1993年のJリーグ開幕戦で主審を務め、審判界に多大な功績を残したレジェンド・小幡真一郎さんによるサッカールール解説シリーズ!
今回は「DOGSO」について。最近よく耳にする「ドグソ」という言葉。サッカーの醍醐味、得点チャンスの場面に関わるものですが、みなさんご存知ですか?

DOGSOとは?

最近、「ドグソ」や「スパ」という言葉をお子様から、あるいはメディアでよく耳にされるのではないでしょうか? 三重罰の軽減やVAR(ビデオアシスタントレフェリー)の導入などによって、退場に関わるDOGSO(ドグソ)、警告に関わるSPA(スパ)が取り上げられているように思います。

DOGSOとは、「Denying an Obvious Goal Scoring Opportunity」を略した言葉で、「決定的な得点の機会の阻止」という意味になります。

 

最近よく話題にあがるようになったDOGSOですが、その始まりは随分と前にさかのぼります。

1980年代、得点を妨げる目的で意図的にファウルする、いわゆるプロフェッショナル・ファウルと呼ばれるプレーが目立つようになります。サッカーは時間内に何点得点したかを競う競技ですから、これではサッカーの面白さが減退してしまいます。そこで、1990年のイタリアワールドカップから、競技規則に次の文が明記されました。

「明らかに得点をあげられるような状況で相手ゴールに向かっている競技者が、相手競技者によって、故意の不法な手段、すなわちフリーキック(あるいはペナルティーキック)で罰せられるような反則で妨げられ、攻撃側の決定的な得点の機会が奪われたと主審が判断した場合には、著しく不正なプレーとして、その競技者に退場を命じる。」

そして、2007年からは「決定的な得点の機会の阻止」という項目が独立し、現在はそれを略した「DOGSO」という言葉で広まりました。

そもそも、「得点」の阻止とは、ゴールに向かっているボールをゴールキーパー以外の選手が手で防ぐなどのようなプレーを指し、「決定的な得点の機会」とは、ゴールキーパーと1対1となるような状況を指します。ですので、選手の身体的能力や技術的能力などは考慮しないものです。あの選手は足が速いとか、左足が得意とかは考えません。

DOGSOが適用される条件

DOGSOは「決定的な得点の機会」という状況で起こると説明しましたが、現在の競技規則ではDOGSOが適用される条件が決まっています。

 全体的なプレーの方向:プレー全体が相手ゴールに向かっているかどうか

例)ゴールキーパーを抜こうとしてタッチラインの方向にドリブルしてもプレー全体がゴール方向と判断すれば適用されます。

 反則とゴールとの距離:反則が起こった場所からゴールまでの距離、すなわち、反則が起きた場所から得点を狙うことができる距離かどうか

例)ハーフウェーライン付近でファウルされた場合でも、独走して相手ゴールキーパーと1対1となる距離と判断すれば適用されます。

 守備側競技者の位置と数:ファウルした選手以外の守備側の選手がカバーできる位置にいるのか、追いつけるのかどうか

例)そのファウルがなかった場合でも、他の守備側の選手がカバーできる位置にいなかったり、追いつける動きをしていないと判断すれば適用されます。

 ボールをキープできる、またはコントロール出来る可能性:ファウルされた選手がボールに触れた後、あるいは触れる時に、明らかにシュート、ドリブルができるかどうか

例)攻撃側の選手がボールをトラップしてシュートしようとしているときに、ファウルされたことで体勢が崩れてシュートできなかったと判断すれば適用されます。一方、まだボールが空中高くにあったり、ボールの勢いが速くて追いつけそうにない時などは適用されません。

全てが満たされると「決定的な得点の機会」と考えられ、この状況で守備側の選手が反則となるプレーを行うと、DOGSOとなります。のどれか一つでも判断に迷うような場合は、決定的な得点の機会とは言えません

例えば、ファウルした選手以外にも守備側の選手がカバーできる位置にいれば、が満たされないことになりDOGSOは適用されません。その場合はSPAが適用されます

SPAとは?

DOGSOが「決定的な得点の機会」を阻止するファウルに対して適用されるものであるのに対し、「相手の大きなチャンスとなる攻撃を妨害、阻止する」反則をした場合は、「Stop a Promising Attack」、「SPA(スパ)」と判断されます。

 

SPAはDOGSOの一歩手前、DOGSOの適用条件の内、どれかが満たされない場合に適用されることになります。

DOGSOが適用されると退場になるのか?

 

以前は守備側の選手がペナルティーエリア内で「得点、または決定的な得点の機会」を阻止するファウルをした場合、相手チームにPKが与えられるとともに、その選手に退場が命じられていました。そして、退場となると、だいたいどの大会でも次の試合は出場停止となります。このように「PK・退場・次節出場停止」の3つの罰則が与えられることは、「三重罰」と呼ばれています。

しかし、PKによって実質的に得点の機会が相手チームに与えられ、その上で退場・次節出場停止は厳しすぎるという意見もあり、現在は退場が警告に軽減されています。これにより、相手チームにPKは与えられるものの、選手は減ることなく11人対11人のまま戦うことができ、警告なので出場停止にもならないという軽減措置になっています。

 
※PA…ペナルティーエリア

また、SPAに関しても今まではPKと警告が与えられていましたが、ひとつ軽減されてPKのみとなりました。

ただし、ペナルティーエリアの内外にかかわらず、ファウルが次の4つに当てはまる場合は、「決定的な得点の機会を阻止した」として、これまで通り退場が命じられます

  • 相手競技者を押さえる、引っぱる、押すなどのホールディング、プッシングの反則
  • 手や腕でボールを扱うハンドの反則
  • ボールにプレーしようとしていない、ボールに挑む可能性がない(無謀なプレーなど)
  • フィールドのどこであっても退場で罰せられる反則(乱暴な行為など)

つまり、ペナルティーエリア内で、相手の決定的な得点機会をPKとなる反則によって止めた場合、その反則の種類によって退場が命じられるということです。ハンドリング、プッシング、ホールディングなど手や腕を使い相手選手にプレーさせないようなずるい反則、また、ボールにプレーできない、プレーする可能性がないのに無謀に行うファウルタックルなどの反則は退場になります。ボールに挑もうとプレーしようとした結果、不用意に反則(トリッピング、キッキングなど)した場合は警告(反スポーツ的行為)となります。

現代のサッカーは選手がタフに闘う場面が多く、身体接触が増えていますが、ずるいファウルか危険なプレーかどうかの区別をしてサッカーの楽しさを失わないように競技規則も毎年修正されています。


 

得点の機会はサッカーにとってワクワク、ドキドキする瞬間であり、いろいろな駆け引き、戦略が見られます。特に、ゴールキーパーにとっては大きな見せ所、活躍の場であり、審判の判定にも注目されることになります。映像で見れば、全体が見え、スローモーションやコマ送りで何回も見直すことができますが、審判は広い視野を保ちながら、説得力のある位置で、瞬時にファウルかどうか、さらにDOGSOか、SPAかどうかを判断することが求められています。そのためのいろいろなフィジカル、スキル、メンタルなど判断を高めるトレーニングを日常化することの必要性を強く感じる場面です。これを機会に、皆さんもご自身でどう判断するかという楽しみを味わっていただけると嬉しいです。

WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。