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「DV7」ディレクターに訊く スペインサッカーにおける”中学年代”で大事なことは?

スペイン代表歴代最多得点の記録を持ち、日本のヴィッセル神戸でもプレーしたダビド・ビジャさん率いるサッカーアカデミー「DV7」が日本でついに開校! 同アカデミーでディレクターコーチを務めるアレックス・ラレアさんにスペインにおける中学年代の育成についてお伺いしました。日本の中学年代にとっても参考になる話がたくさん飛び出しました。スペインの中学生はよく学び・よく練習し、よく休む? 

中学年代はプロになるかの一番大事な時期

スペインの年代別カテゴリー

-日本のサッカーの年齢によるカテゴリー分けは、学校教育に紐づいてU-12(小学生)、U-15(中学生)、U-18(高校生)となっていますが、スペインではどのようになっているのですか?

「スペインでのカテゴリーは、U-11,12がアレビン、U-13,14がインファンティル、U-15,16がカデーテと言います。そこから上のU-17~19から上はフベニールと言って日本のユース・高校生と同様です」

-使用するボールやルールについては?

「U12までは4号球の8人制のサッカー(バスク地方では)となり、裾野が広くいろんな子どもがサッカーにチャレンジできる環境となっています。アレビン(U-11,12)からプレーしている子が上に上がっていき、インファンティル(U-13,14)から5号球を使用した11人のサッカーへと移行します。もちろん例外はありますが、インファンティルからサッカーを始める子は稀なケースだと思います。試合時間はアレビン(U-11,12)が30分ハーフ、インファンティル(U-13,14)が35分ハーフ、カデーテ(U-15,16)が40分ハーフ、フベニール(U-17~19)は40分ハーフとなります」

-日本では中学の部活動とクラブチームでそれぞれ活動していますが?

「スペインでは学校教育の部活動としての活動はアレビン(U-11,12)までです。インファンティル(U-13,14)からはクラブチームで活動していくことになります。この年代からラ・リーガの下部組織に所属するエリート選手たちは、月謝等を払う必要がなくクラブが負担してくれます。例えばイニエスタ選手はアルバセテの下部組織から12歳でバルセロナに引き抜かれましたが、そこで家族を説得する条件が提示されたことは容易に想像がつきます。スペインではカデーテ(U-15,16)の期間でプロになるか、ならないかを判断するのが通例です。だからこの年代はスカウトの動きも活発で、先日もバルセロナがレアル・ソシエダの15歳の選手と契約をしました。もちろん、年齢分けは絶対的なわけではなく、飛び抜けた能力を持つ選手は、飛び級によって一気に上位カテゴリーへ昇格することもあります」

-つまり日本の中学生年代に相当する12~15歳が一番成長する時期と捉えられている?

「そうです。グラウンドやルールも変わり、スペインではプロになる一番大事な時期と言えます。グラウンドが大きくなることで、この年代はスペースの把握と使い方、チームをどうオーガナイズするのか、といった戦術面に重きを置くようになっていきます。小学生年代で足元の技術ができている子たちが、プロと同じ大きさのグラウンドで、どうやって最大限能力を発揮できるようになるのか。より高いレベルでプレーできるかの分岐点だと思います」

スカウトが注目するのは特別なビジョンを持っている選手

 
Photo:Getty Images

-アレックスさんが13~16歳の育成で気をつけていることは?

「ゲームのあらゆる場面で選択肢を持てるようになること。つまり大きなグラウンドでは選択肢が多くなるということをまず理解する必要があります。そして自分が持っている選択肢の中から、チームにとって最適な答えを素早く導き出せるよう、決断力を養うことが重要だと考えています。トレーニングはその繰り返しになると思いますが、それがサッカー選手にとって非常に重要な素養だと思います。もちろん、その選択肢を実行できる技術の向上も必要ですから、その両方を上げていくことが大事だと思います」

-スカウトはカデーテ(U-15,16)のどこを注視するのでしょうか? 判断スピード、フィジカル、色んな要素があるとは思いますが?

「技術面はあるのが大前提。その上で『こんなところにパスを通すんだ』という意外な発想を持っている、つまり特別な視点を持っている選手は重宝されると思います。技術も持ちながら、他の選手とは違ったビジョンが見え、それを表現できることが大事だと思います。ポジショニングが優れているということは、スペースを把握できているということですからね。あとはチームを鼓舞し、けん引できる選手であったり、あえて難しい局面で勝負して打開することができるなどでしょうか。要はサッカーの文脈の中で、上手く表現できる選手が特別なのではないかと思います。それはメンタルの強さなのかもしれません。だから、練習だけではわからない。ゲームにおける状況判断能力をスカウトは見ています」

「失敗を恐れない」環境づくりが選手の特別な才能を伸ばす

-そういった創造性のある選手は「出る杭」とも捉えられかねません。監督の懐の深さもも必要になりますね。

「その通りです。失敗を認めてあげる、選手が失敗を恐れない環境を作ってあげることが必須だと思います。だから、難しいプレーをして失敗したからって監督が叱っているようでは、選手の成長を妨げることになりかねません。もちろん、そんな特別な選手は全体の中で一握りの存在ですが、サッカーを理解し、プレー判断の質が高まっている段階の選手の成長を潰さないようにすることは、指導者の務めだと私は思います」

-成長期特有の悩みは世界共通だと思いますが?

「中学年代はカラダが大人になっていく段階であり、それに伴う身体的・精神的な変化があることを理解しなくてはいけません。成長痛などの身体的な病もありますが、一番難しいことは急激なカラダの成長に感覚が追いつかないことです。認識しているカラダと現実のカラダの差にズレがあり、バランスが取れなくなる。小学生の時にできなかったことができたり、逆にできていたことがカラダの成長によりできなくなる。そのギャップを埋めていく作業はどの国でも必要だと思います」

休むことは練習するのと同じくらい大事

 
Photo:Getty Images

-日本との練習量の差はいかがですか?

「スペインでは大体一回1時間半の週3回のトレーニングと週末の試合だけですね。あと、夏場は一切練習をしません。6月末くらいにシーズンが終わるのですが、そこはエリートの子どもたちも例外なく休みます。ケガをしてプレシーズンに入ってポジションを失いたくないですからね。夏にサッカーをすることを禁止している地域もあるほどです」

-禁止というのはすごいですね!

「スペインでは練習量によって上達するという哲学は存在しません。いかに適切な量、時間で効率良く成長していくかにあります。つまり休むことも練習と同じくらい大事なことであると認識しています。スペインでプロになるような選手で一番大事なことは、『いかに休んでこられたか』ということです。エリートチームは年間スケジュールを組んで、トータルの練習時間を計算しています。合間に補完トレーニングのようなこともさせません。そこは徹底されています」

-日本では成長期のトレーニングはケガと隣り合わせという認識もあります。

「スペインではその認識はないですね。十分に休んでいるからケガもしないのではないでしょうか? 週3の練習も、それぞれフィジカルトレーニング、戦術トレーニング、試合前の準備練習と目的が明確です。子どもたちのカラダの付加を考慮して、何時間練習するかを週ごとに細かく設定し、シーズンを過ごしていくのです」

幼い年齢であってもゲームで必要な技術を養うことが大事

-12歳までは一人でも多くボールに触れて技術を磨き、それ以降は戦術も取り入れたトレーニングをしていくことが効果的と考えていますか?

「たしかに12歳以降では戦術トレーニングの比重が多くなりますが、私の考えはちょっと違います。サッカーでいう『技術』とは一人でボールを触って磨くものではなく、グラウンドで自分、見方、対戦相手、そしてスペースがある中でボールを受けて行うものだと考えています。だから『ジュニア時代にたくさんボールを触って技術を上げたら次のステップに行く』ではなく、可能な限り幼い年齢であっても、ゲーム状況を想定したトレーニングをしていくことが、サッカーの上達につながると考えています。つまりサッカーは一人でやるスポーツではないと認識させることが大事だと思います」

-学業との両立については?

「選手のサッカーのレベルによると思いますが、クラブから特別な待遇を得ているような子は勉強へのプライオリティが下がって当然かもしれません。しかしプロになれる選手はほんの一握り。多くの場合は高校生まで勉強することに比重をおくことになります。私自身、教育が何よりも大事であると考えています。中学年代の成長期にサッカー偏重になることは非常に危険だと思います。いつか終わるであろうサッカー人生に区切りがついた時、次に進むためにも勉強に比重をおくのは何よりも大事です。豊かな人生を歩むことは誰にとっても難しいことです。一つでもできることを増やす必要があるから、絶対に勉強を疎かにしてはいけません。ただ、これは私見であって、スペイン人がみんなそうしているかは別の話ですよ(笑)。日本の中学生プレーヤーも、しっかり休んで、勉強にもサッカーにも一生懸命励んでほしいと思います」

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