指導者の言霊「池田伸康 浦和レッズ 強化部 育成 ユース(U-18)コーチ」
選手にあった指導はしない 子どもたち自身に考えさせる
選手たちは、活発な子もいれば、大人しい子もいますが、僕はその子に合った指導をほとんどしません。僕は、みんなに平等に伝え、その中で子どもたち自身に考えさせる指導をモットーにしています。ただ、指導者として、時には助け船を出さなければならない時もあります。そのために、常に子どもたちの表情や態度を観察して見極める。見抜くことこそが、指導者としての力量だと考えています。 アドバイスすることは簡単です。一方で多くを言わずに気づかせるというのはすごく難しい。でも、だからこそ、自分自身で気がついたとき、それは彼らにとって、大人になってからも生きる大きな財産になるのです。
僕は肩書きこそコーチですが、コーチにはなりたくありません。一般的にコーチと指導者を一括りにしがちですが、コーチとはサッカーを教える人、指導者とは文字が示すとおり、サッカーを通じて人間性を伝えていく人だと考えています。僕は自分自身を後者だと思っています。これまで指導者として、自分自身も勉強しなければならないことがたくさんありました。過去には躓きそうになったこともあります。純粋にサッカーについての引き出しを多く持とうと考えた時期もありました。でも、ある人に、「お前の色はなんだ?」「他の人と同じことを身に着けようとしてどうするんだ?」と言われ、考えた時に、自分の色を出そう、持とうと考えたのです。
自分の強みは、子どもたちに対しても真正面からぶつかることです。だから、小学生であれ、中学生であれ、一緒になってめちゃくちゃ遊ぶ時は遊びます。時には好きな子の話もしますし、プロレスもします。でも、一度、グラウンドに入れば、鬼のような指導をさせてもらっています。
僕は、怒る時は怒ります。たとえ、その子がその日、プレーできなくなったとしても。必要以上に怒るようなことはしませんが、僕の素直な気持ちをぶつけます。そこで言葉を選んでしまうと、自分の強みであったり、特長を消してしまうことになる。だから、素直に思いをぶつけます。言葉にすると、簡単に聞こえてしまうかもしれませんが、そこには、僕とその子との間に、それまでのストーリーがあり、絆が築けているからこそ、できることでもある。そして、それこそが指導者としての自分の色だとも思っています。
指導者として自分の色を大切にする子どもたちも色を大事にしてほしい
だから、指導する上でも、その子が持っている色を大切にしてほしいと考えています。例えば、ドリブルがうまい選手であれば、そこだけはなくさないように、しっかりとシールのように貼り、僕はそこにいろいろな模様をつけていく。その選手の魅力が技術ではなく、人間性だとすれば、そこを磨いてあげたい。僕自身も指導において自分の色を大事にしているように、選手たちにも一人ひとりが持つ色を大切にしてほしい。指導者が選手たちを一つの色で染めてしまうのは簡単。ですが、僕はともに過ごす時間で、その子の色であり、強みを伝え、教えていきたいんです。
また、「信じる」という言葉も大切にしています。例えば、今は力が足りないけれど、すごくいい目をしているし、チームのためにやってくれる。その時は、僕は迷わず、その選手を信じて起用します。信じることで、その子は結果を出そうとしてくれる。子どもたちにも信じている、信じられるという言葉はすごく重い言葉だと伝えています。自由ほど責任を問われることはなく、しっかり行動しなければ、信じてくれた人を裏切ることになりますからね。 だから、僕は常日頃から、選手たちを信じて、集合時間やミーティングをする時間も彼らに考えさせています。ジュニア世代を指導していたときも、試みていましたが、それができる土台があるかどうかは、ここでも指導者として見抜く、見極める力が必要になってきます。大人に言われたことしかできない子どもが増えている中で、子どもたちには自発的に考える力を養ってもらいたい。それが自分の指導者としての色でもあります。
取材/原田大輔(SCエディトリアル)
※この記事は2015年1月5日に掲載したものです。