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【全国注目校FILE】野辺地西高校(青森)王者・青森山田の牙城に挑む

[分類]私立
[所在地]青森県上北郡野辺地町
[設立]1973年
[部員]約40人(2018年度末時点)
[2019年所属リーグ]
1st/高円宮杯JFAU-18サッカーリーグ青森1部、2nd/高円宮杯JFAU-18サッカーリーグ青森2部
[選手権最高戦績戦績]青森県予選準優勝

監督に聞く!求める選手像と指導理念
三上 晃監督

「何か一つに特化するのではなく、全てをバランスよくできるようになろう」という方針で指導に当たっているのが三上晃監督。野辺地西を率いて15年になる。三上監督が高校サッカーで重要視しているのは、人間形成。「プレーヤーとしてもそうですが、一人の人間としても成長して野辺地西から巣立っていって欲しいなと思います。サッカーを続けようが続けまいが、大学行こうがプロになろうが、それぞれに成功できるように我々が教えられることは教えていきたい」と話す。裏を返せば、個の技術は勿論だが、一人の人間として地に足のついた選手へと成長していくことが求められる。全員がプロの道へ進めるわけではないため、それぞれに様々な道で成功して欲しいという強い願いと、選手たちへの大きな愛情。それが、三上監督の指導者像である。

野辺地西は1st、2ndともに開幕戦を白星スタート

野辺地西高校

県リーグは4月上旬に始まり、既に各リーグは開幕を迎えている。野辺地西1stは、3-0でブランデュー弘前FC U-18(新規参入)に3-0と開幕戦を快勝。2部を戦う2ndチームは、同じ系列校である八戸学院光星2ndに2-0とこちらも勝利。青森山田の記事でも述べたが、青森県は非常に特殊な地域。青森山田の1stと2ndはそれぞれプレミアリーグ、プリンスリーグ東北に参入しているが、3rdと4thも存在し県1部と2部に参入中。規定により、青森山田3rd、4thが上のカテゴリーへ昇格することができないため、1部、2部ともに青森山田が参入以来無敗優勝を飾り続けているのが現状だ。県内で青森山田に次ぐのは、野辺地西と八戸学院光星。「3rdに勝てなければ1stに勝てるわけがない」と話す指導者もおり、高校総体や選手権で全国を目指すチームにとっては、1部リーグで青森山田3rdを倒せるかどうかも一つの目標となっている。

また、今季、青森県ではヴァンラーレ八戸がJ3昇格を果たし、青森県初のJクラブが誕生。そのヴァンラーレ八戸には2015年、野辺地西から阿部稜という選手が加入している(現在は現役引退)。阿部の加入当時はまだJFLだったが、地元にJクラブができたことで、選手たちにとっても身近な目標として刺激になっていることは間違いない。

守備面で力を発揮、青森山田に迫った昨秋の選手権県予選

野辺地西高校

同校は最近の成長と活躍が目覚ましく、今でも鮮明に記憶されているのが、昨年11月に行われた選手権青森県予選決勝のvs青森山田戦。県内ではテレビ放送もされ、多くの人が青森山田の圧勝劇を想像しながら見ていたに違いない。予測通り、試合は青森山田の先制で動いた。しかしながら、その後、野辺地西は粘り強さを見せて同点ゴールを決めて1-1とし、絶対王者青森山田の牙城に迫った。最終的には、青森山田の追加点により1-2とされ敗戦となったが、野辺地西の戦いぶりは県内の高校サッカーファンの間でも話題に。実はこの10年ほど、青森山田が県予選で失点したことがなかったからだ。そんな絶対王者から1点を奪い追いついたという経験は、今の新チームの選手たちにとって一つの財産や自信となっているという。三上監督も、「守備で青森山田を相手にあれだけできたのは評価したい」と後に振り返っている。また、昨年はプリンスリーグ参入戦へも出場し、1回戦を勝利で飾るも、2回戦のvs学校法人石川戦では、ボールを握りながらもカウンターからの失点等で敗退を喫した。それでも、参入戦である程度戦える力をつけてきており、同リーグ参入まであと一歩のところまで来ている。こうした成長ぶりについて、三上監督は「何か特別なことをしたわけではなく、一歩一歩進んできた結果」と話す。全てをバランスよく取り組み、「打倒青森山田」のチャレンジ精神で挑んできた一歩一歩の積み重ねが現在の野辺地西の姿を作っているのだ。

優れたキャプテンシー、発言力、アイディアを備えた新キャプテン

花田 翔

DF 花田 翔(3年)
躍進中の野辺地西の新キャプテンは、DF花田翔(3年)。今年の野辺地西は更にパワーアップするかも知れないと思わされたのは、この花田の存在を知ってから。筆者の経験上、全国的な強豪チーム以外はあまり取材慣れしておらず、こうしたインタビューにも上手く答えられない選手が多いのだが、花田は違った。青森山田の選手にも全く劣らない受け答えぶりで、話す内容にも深みがある。下級生の頃からキャプテンとしての素質や統率力を備え持ち、チーム力の底上げに繋がるだろうという期待を持った。

というのも、花田からこんなエピソードを聞いたからである。野辺地西には、「幹部」と呼ばれるチームの規律を執る組織が存在する。それは7人ほどの3年生で構成されており、通常、下級生がそこに名を連ねることはない。しかしながら、花田は三上監督にこんな提案をした。

「2年生にも幹部を一人置いた方がいいんじゃないですか?」

下級生としては大胆な発言だったかも知れないが、三上監督はそれに賛同した。「それならば、君がやってみなさい」。そうして花田が2年生のリーダーとして幹部に加わり、新チームへの移行と同時にそのまま彼がキャプテンとなった。「キャプテンがいいところは、チームとしてもいい」と青森山田の黒田剛監督が話していたことを思い出す。優れたキャプテンシー、発言力、アイディア。花田はそれらを備えている。彼の存在は、野辺地西が脅威となるであろう理由の一つに感じた。

花田自身については174cm、68kgと選手としては細身の体型だが、ジャンプ力、スピード、バネの強さを持ち、身体能力の高さが売り。まだ高校生ということもあり、体作りの途中。「トレーナーと相談しながら増量にも取り組んでいる」という。ピッチ内外で存在感を放つ花田は、「今年はチーム力が売り。発言力のある選手も増え、良いところ、悪いところを指摘し合いながら組織力を高めています」と話す。そういうチームに成長していったのは、花田の影響もあるかもしれない。高校総体、選手権予選。野辺地西と青森山田が決勝に上がれば、という前提での話になるが、このカードが今年も実現したならば、青森山田の武田英寿のみならず、野辺地西の花田翔にも注目して欲しい。

質の高い経験を得た野辺地西。「打倒・青森山田」の目標に近づけるか

主将花田が話すように、今年の売りはなんといっても「チーム力」と「選手の発言力」。昨年の選手権県予選で青森山田といい勝負を見せたことや、プリンスリーグ参入戦での戦いぶりなど、質の高い経験値を得た野辺地西がそれを今季発揮できれば、「打倒・青森山田」の目標に近づけるかも知れない。ただ、青森山田はプレミアリーグで好発進をしており、今年も強敵であることは間違いない。県リーグで得た課題を修正しながら、高校総体や選手権にどれだけ生かせるかが鍵となりそうだ。

WRITER PROFILE

佐藤 梨香
1983年、青森県生まれのフリーランスライター。陸上、フィギュアスケート等様々なスポーツを経験し、2015年にはPUMA公式アンバサダーのメンバーPUMA Girlsとして活動。都内マラソン大会、駅伝、ホノルルマラソンなどに出場。サッカー好きが高じて、スポーツマガジンStandard専属ライターに。2019年からは、J3ヴァンラーレ八戸FC番記者として、エル・ゴラッソやJリーグ公式サイト、J’s GOAL向けにも取材、執筆中。サッカー以外にも、野球、陸上、バドミントン、相撲、柔道、レスリング、ウィンタースポーツ全般など多岐に渡るスポーツ取材をこなし、スポーツの現場から個々の「history/herstory」を伝える。