中野ジェームズ修一さんに聞いた 子どもの運動能力について知っておくこと
近年言われている、小中学生の運動能力の低下。そんな話を聞くと、サッカーを頑張ってはいるものの、運動能力は……と気になるサカママも多いのではないでしょうか。そこで、日本を代表するトップアスリートなどのフィジカルトレーナーである中野ジェームズ修一さんに、サッカージュニアの運動能力を伸ばすために知っておくべきことを伺ってきました。
赤ちゃんの頃から骨格を作るトレーニングが始まっています!
小中学生の「全国体力テスト」の結果などから、今の子は運動能力が低下していると言われていますが、一概には言えないと思っています。体力テストは、一度経験したことは次の年にやり方を覚えていたりしますし、各団体によってデータも違いますよね。子どもたちの体力や運動能力のレベルを測るのはすごく難しいものなのです。ただ、今の子たちは、①スポーツを全くやらない子、②学校の体育の授業や部活動でいい成績を出せる子、③スポーツをやりすぎている子の3つの層があるように感じています。サッカーをやっている子は、比較的②が多いのではないでしょうか。この層の子は、もっと上を目指そうとした時にケガをしてしまったり、伸び悩んでいるように感じています。
それは、運動能力のベースとなる骨格形成が要因の一つと言えるでしょう。丈夫な骨格づくりは、実は赤ちゃんの頃から始まっています。人は四肢(両手、両足)を動かしながら発育・発達をしていきますよね。赤ちゃんは仰向けで泣いてお腹を動かし、うつ伏せになってハイハイしたり、その後、膝で歩いて、つかまり立ちをして立って歩き出し――。この過程は全部、人間の骨格を作るトレーニングになっているのです。けれど、今の子は、マンション暮らしなどの住環境や、危険だからといって親がサークルの中で過ごさせたりするなど、明らかにこの期間が短く、身体がしっかりと動かせていないのです。それが、骨格が弱くなってしまう要因になっているのです。
トレーナーの立場からすると、骨格が安定していないと、いくらスポーツ選手としていい素質を持っていても、伸ばしてあげることは難しいものです。ですので、3歳~12歳の間に、しっかりした骨格や強い身体をつくっておくことが大切です。
子どもの身体は、常に成長しているので、発育・発達にともなった身体づくりが重要です。とくに運動能力を伸ばすには、いろいろな動きが身につく3歳~12歳の間が大切。中でも9~12歳はゴールデンエイジと言われ、脳神経機能が急速に発達します。理屈(=頭)ではなく、身体で動作を習得していく、要は「ものまねが上手」な貴重な時期だと思ってください。そのため、あーだこーだと理論で説明するのではなく、上手なプレー、いい動きを見せればいいのです。そうすれば真似ができるようになり、運動能力向上につながっていきます。
子どもが試合でミスをしてしまった時、その動画を見せていませんか?ミスしたプレーを見せて反省しようと促しても、サッカーの上達にはつながらないのです。それよりも、指導者や保護者が手本を見せたり、上手い選手の動画を見せることが大事です。
9~12歳の年代は、筋力は50%程しか成長しないので、筋肉骨格系のトレーニングを行ってもあまり効果はありません。ただ、昔は遊びを通して、自然と筋肉や骨への刺激があったのに対し、今の子は明らかに少なくなっているため、ある程度の筋トレは必要。とはいえ、大人がするような筋トレではなく、フォームや強度に気をつけながら、筋肉の収縮能力の向上や神経機能の向上を目的とした筋トレを行うことです。また、筋トレはケガ予防やパフォーマンスアップにつながるものだと伝え、好きになってもらうことも大切です。
“筋トレ”といっても、ダンベル運動など大人がするような筋トレは不要!
すべての筋肉は骨に付着しています。そのため、急激な骨の成長(骨が長くなっていく)に筋肉の成長が追い付かないと、筋肉が引っ張られて身体は硬くなってしまうのです。実は柔軟性があるかどうかは、筋肉の長さが左右し、筋肉が長ければ柔軟性が高まります。ストレッチを続ければ、筋肉が長くなると言われているので、ストレッチを継続して行うことが大事。とくに太もも前の筋肉(大腿四頭筋)が硬いと、サッカージュニアに起こりやすいオスグッド病の原因にもなってしまいます。予防するためにも、日頃からストレッチで柔軟にしておきましょう。
ジャンプやダッシュ、ボールを蹴る動作を繰り返すことで起こりやすいのがオスグッド病。太もも前の筋肉が、成長中の軟骨に強く引っ張られ、炎症が起こります。膝のお皿の下の部分(脛骨粗面)が痛くなり、進行すると膝の骨が突き出ることも。
公園の遊具の中で、運動能力を伸ばすためにオススメなのがジャングルジム。ジャングルジムの上り下りには、両手・両足を使うので、全身の筋肉を鍛えることにつながります。また、バランス感覚や空間認識能力も養えるものです。高学年になるとゲーム的な要素もプラスしてジャングルジムで遊ぶようなりますよね。いろいろ考えながら身体全身を動かせるので、高学年でもとてもいい運動に。
子どもは骨が成長段階にあり、骨端軟骨部(骨幹と骨端の間にある軟骨の層)が弱いので、長時間、負荷をかけすぎるトレーニングや間違ったトレーニングをしてしまうと、スポーツ障害をおこす原因になってしまいます。例えば、その場でジャンプを繰り返すトレーニング。高回数行うとオスグッド病を引き起こす原因になってしまいます。また、2人1組で足を持ってもらい、反動を使って行う腹筋運動は腰椎の負担にも。脚頚椎や各関節、じん帯に負担がかかるようなストレッチも避けることです。
- ×階段ダッシュ
- ×その場でジャンプを繰り返す
- ×プッシュアップ(腕立て伏せ)
- ×2人1組で足を持ってもらい、反動を使う腹筋運動
- ×2人1組で反動を使って背中を押す開脚ストレッチ
- ×正座から身体を後ろに倒すストレッチ
参考文献「医師も薦める子どもの運動」徳間書店 中野ジェームズ修一著 佐藤和毅・田畑尚吾監修「子どもの運動神経をグングン伸ばす スポーツの教科書」ベストセラーズ 中野ジェームズ修一監修