【創刊10周年記念インタビュー】権田修一(清水エスパルス)
10年前、人気連載「Jリーガーの原点」に登場してくれた権田修一選手。soccerMAMA創刊10周年を記念し、再び権田選手へのインタビューが実現。日本代表のゴールキーパーとして活躍する今、これまでの思いや変化、成長したことなどを大いに語ってくれました。
父親になり、経験してきたチームスポーツの大切さを痛感
―「Jリーガーの原点」で権田選手にインタビューしたのは2012年。10年前と大きく変化したことはありますか?
「サッカー選手兼、サカパパになりました(笑)。息子は今8歳で、静岡でサッカーをしているのですが、“権田の息子”というプレッシャーは感じてほしくないと思っています。僕がどこまで伝えるべきか、チームの指導者との関わり方なども考えますね。子どもを持ったことで視野が広がりましたし、息子がわかる言葉やスピードを意識して話すので、コミュニケーション力は著しく向上したと思います」
―権田選手は、お母さんの勧めでサッカーを始められたとのことでしたが、お子さんにもサッカーをやってほしいという思いはありました?
「僕の両親と弟は、バスケットボールをしていましたし、家族みんながチームスポーツから得た経験をそれぞれの人生の中で活かしてるんですよね。チームスポーツは、自分よがりにはなれないし、相手の気持ちを考えられるようになったり、同じ目標の中で一緒に何かをやり遂げる経験ができたり。息子に何かスポーツをさせたいと思った時に、そういう経験はすごく大事だと思いました」
―息子さんは、サッカー以外のスポーツもやっていますか?
「個人競技で自分を極めることや、自分のために課題をクリアしていくことも必要だと思って体操を習わせています。本来、強制はしたくないんですけど、体操はやりなさいと。というのも、僕自身、小学生の頃、マット運動も器械体操も全くできなくて、要は身体のバランスが悪かったんです。でも、子どもの頃に体操をやっていたら、もっと可能性が広がったんじゃないかと思うことが正直あって。それが確信に変わったのは、元日本代表の福西崇史さんと一緒にプレーした時です。福西さんは、身体のバランスや使い方がとにかく上手いんですよ。聞くと体操をやっていたと! だから、サッカーをやるなら体操がプラスになると思って、セットで習わせています(笑)」
―今、サッカーに求められるスキルは多種多様ですからね。
「運動神経は子どもの頃から高めておくことが大事だと思います。うちの子は、たまたま体操ですけど、バスケットボールやバドミントンをやれば空間認知能力が上がるかもしれないですよね。今、Jリーグで、身長が高くなくてもヘディングが強い選手の中には、バスケットボール経験者が多く、子どもの頃のスポーツ経験が関係しているなと感じることは多々ありますね」
「何があっても止める」という使命感は昔よりも研ぎ澄まされている
―FC東京から海外へ移籍と、この10年間でチャレンジも多かったですよね。
「目の前にチャンスがきたらチャレンジするというのは絶対決めていますし、チャレンジしたことはよかったと思っています。ただ、FC 東京に残らず海外へ移籍したのは、目の前の壁を乗り越えることができなかったからというのもあります。あの時の思いが、サッカーを続けている中で一つのモチベーションにもなっています。SVホルン、サガン鳥栖、ポルティモネンセSC、清水エスパルスという道は、ベストではなかったかもしれないですけど、自信を持って言えるのは、僕にはこの道しかなかったということ。だから、もっとこうしておけばよかったという思いはないですね」
―その中でも海外での経験は大きかったですか?
「海外では割り切らなければいけないことも多々ありました。例えば、日本なら試合前に前泊して食事が用意されているのが当たり前ですけど、海外では3時間バスで移動して、食事は移動中のパーキングエリアで済ませ、そのまま試合をして、その後すぐにバスで移動したり。いろいろな経験をすることで、余裕が出たというのは、自信を持って言えますね」
―幾度となく日本代表にも選出され、今、カタールW杯アジア最終予選の守護神としても期待されています。
「2014年のブラジルW杯では、チームに全く貢献できなかったという思いがあります。カタールW杯アジア最終予選は必ず突破し、W杯に出場できた時は参加するのではなく、しっかり日本代表に貢献したいと思っています。今はどの試合においても『僕が1点も取られなかったら今日の試合は勝てる。何があっても止める』という使命感が、昔よりも研ぎ澄まされているかもしれないですね」
※本インタビューは2022年2月に行いました。
子どもは可能性のかたまり。感覚を奪うのはもったいない!
―この10年で成長したと感じることはありますか?
「十人十色の人生、考え方があっていいと理解できるようになったことが、一番成長したことだと思っています。Jリーグで優勝したいと思ったら、日本のトップを目指さないと勝つことはできないので、エスパルスの選手たちには『みんな、日本代表を目指そうよ』と伝えてはいるんです。その中で、僕の考えを聞きたい人には話しますけど、それはあくまでも僕自身の感覚。選手それぞれ感覚や捉え方は違うので、目指し方や方法はさまざまでいいと思っています。また、10年前は、自分がして欲しいことを伝えるのが正しいと思っていましたけど、十人十色の意見を一つにまとめることが一番大切だと感じるようになりました」
―ピッチの上での変化は?
「ピッチの上ではもちろん『今、寄せてくれないと守れないわ』と要求はします。でも、それは守るための責任があるから、サポートしてほしいだけのこと。逆に寄せなくてもいい方法があれば聞き入れますし、それが大事なことだと思っています。だから、高卒1年目の選手から学ぶこともありますね」
―人それぞれの感覚や捉え方を大事にするというのは、子どもに対しても言えますよね。
「子どもは可能性のかたまりだからこそ、その時の感覚を大切にしてほしいと思います。例えば、今、サッカーをやっている子でも野球をやりたいと感じたなら、チャレンジさせたほうがいいなと。それで、サッカーが好きならまた戻ってくるだろうし。保護者はその時、野球をやっていた時間がなかったら…と思うかもしれないですけど、それがその子の道であると思うし、マイナスなことはないですから。子どもの感覚を奪うことは、可能性を狭めてしまうことにもなるので、もったいないと思いますね」
―ここまで10年間の変化をお聞きしましたが、逆にジュニア時代から変わらないことはありますか?
「今でも練習が楽しいんですよね。上手くなるための練習をしている時間が一番のストレス発散という感覚です。ちょっときつい練習であっても、上手くなるためには、そのテンションでやるからこそ意味があると思っています。中学時代、素走りのトレーニングでいつも一番後ろだったんですけど、高校2年の時、トップチームの練習に参加するようになると『ここではトップの選手と同じだから、恥ずかしいことはできない』という思いがでてきて、結局走れるようになったんです。要は、この練習は嫌だと思ったり、やらされている練習では、意味がないということ。それは歳を重ねて、改めて思います。子どもたちも、指導者のちょっとした工夫で『この練習が楽しい』と感じれば、身の入り方や習得できるものが違ってくると思いますね」
写真/清水エスパルス