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DOGSO (ドグソ)決定的な得点の機会の阻止

今回は、最近、話題になったDOGSO (ドグソ)Deny an Obvious Goal Scoring Opportunity(決定的な得点の機会の阻止)を取り上げます。
その反則がなかったら、相手選手がゴールキーパーと1対1になるような決定的な得点機会となる状況で、守備側の選手の反則によってプレーができなくなった場合に適用されます。これは、得点の機会という状況で起こるもので、ファウルタックル・キッキングといった力の強さやシャツを引っ張るホールディングの悪質さがなくても、ちょっと足でつまずかせたような不用意なファウルにも適用されます。ですから、選手も観客も、あのプレーで退場か、盛り上がったいいゲームなのに残念だなあという印象はあるでしょう。しかし、サッカーの醍醐味である得点する機会を奪うことは許されません。
1990年のイタリアワールドカップにおいて、国際評議会は強制力をもつ指示を決定し、91年に競技規則第12条の公式決定事項に次のように追加されました。日本人で初めてワールドカップで笛を吹いた高田静夫さんが参加する2回目の大会で、約30年前です。「明らかに得点をあげられるような状況で相手ゴールに向かっている競技者が、相手競技者によって、故意の不法な手段、すなわちフリーキック(あるいはペナルティーキック)で罰せられるような反則で妨げられ、攻撃側の決定的な得点の機会が奪われたと主審が判断した場合には、著しく不正なプレーとして、その競技者に退場を命じる。」と記されました。
現在の競技規則では次のような条件が明記されています。(:以下は筆者による追記)
① プレーの方向:相手ゴールに向かっているかどうか
② 反則とゴールとの距離:反則が起こった場所からゴールまでの距離、すなわち、反則
が起きた場所から得点を狙うことができる距離かどうか、
③ 守備側競技者の位置と数:ファウルした選手以外の守備側の選手がカバーできる位置
にいるのか、追いつけるのかどうか、など
④ ボールをキープできる、またはコントロール出来る可能性:ファウルされた選手がボ
ールに触れた後、あるいは触れる時に、明らかにシュート、ドリブルができるかどうか、
など。
①~④のすべてが満たされると「決定的な得点の機会」と考えます。
レフェリーにとって難しいのは、ピッチレベルで、瞬間的に判断しなくてはいけないことです。ここでファウルが起こったらDOGSOの場面になるかもしれないと予測しておかなければなりません。そして、ファウルがあったとき、テレビのように空中からのカメラで見ることができず、(そのファウルの見極めも非常に判断に困るものもありますが、)瞬時に①~④、特に、③「守備側選手の位置と数」を目に焼き付けて、判断しなくてはなりません。どうしても、ファウルに集中すると、広い視野を得ることができなくなります。
ゴールに結びつくプレーは見ていて面白いし、やっていてワクワクします。それだけに、選手にはより高いスキルと戦術が求められます。そこに競技規則の知識理解が加われば、例えば、不用意なファウルで退場とならない、あるいは得点をとられるかもしれないが、仲間を信じてリスクをおかさない選択肢をとることができると思います。

WRITER PROFILE

小幡 真一郎
小幡 真一郎

1952年7月21日生まれ、京都府出身。元国際主審。
サッカーの競技規則の側面から、サッカーの持つ魅力、またはサッカーそのもののを伝えたいと思います。著書に7月21日発売『おぼえよう サッカーのルール』(ベースボールマガジン社)、『すぐに試合で役に立つ! サッカーのルール・審判の基本』(実業之日本社)、『失敗から学ぶサッカー審判の教科書 しくじり審判』(カンゼン)がある。