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岡崎慎司が伝えたいこと 「MEISTER PRESS」Vol.2 佐藤由紀彦さんを尊敬する理由

岡崎慎司選手のオフィシャルWEBの中で実現した、尊敬する先輩、佐藤由紀彦さん(元Jリーガー、現FC東京サッカースクールコーチ)との対談。その中から、岡崎選手が由紀彦さんから学んだことや、子どもたちにむけた想いを紹介します。

由紀さんのように、泥臭く 、もがく姿を子どもたちに見せていきたい

多くの先輩から話を聞いて吸収しようと懸命だった

僕と由紀彦さん(以下、由紀さん)が出会ったのは、高校を卒業して清水エスパルスに入団した頃。初めて会話したのはクラブハウスでした。僕がお風呂から出ると、下半身の衣類がなくなっていたんです。慌てて上だけ着て、下を隠しながら探しまわ っていたら、由紀さんは「クラブハウスの人?」なんて、真顔で話しかけてきて。結局、僕の衣類を隠したのが由紀さんで、由紀さんは僕の滑稽な姿を見て「こいつはたいしたもんだ」って思ったらしいです(笑)。そのあと、食事会で一緒になったときに「お前、もってるかもしれない」と言われて、意味もわからず、ただこの人についていこうって思いました(笑)。

当時、僕はサッカーに関してほとんど無知だったんです。高校時代はがむしゃらにサッカーをやっていただけだったから。でも、プロになった途端、練習にしても体づくりにしても、サッカーに関する情報量が半端ないし、知らないことだらけでした。だから、いろいろな先輩と出かけては、ひたすら話を聞いたんです。ある先輩と温泉にいって話を聞いた同じ日に、また違う先輩と食事にでかけたり。それくらい、いろいろな先輩から話を吸収しようと懸命でした。

何も知らない僕にとっては、どの先輩の話も興味深かった。同時に、人それぞれで意見がこんなにも違うんだってことを知りました。だから、先輩たちから聞いたことは全部一通りやってみて本質を理解して、その上で自分に合っていることを少しずつ取り入れるようにしたんです。当時の僕は無知すぎて意見もなかったから、先輩たちが言うことをなんでも素直に受け入れることができたんだと思います。もしも、へんなプライドがあったら、自分の意見を押し通してしまったり、やりもしないで自分には合わないって決めつけていたかもしれないですからね。

自然とやる気にさせてくれた由紀さんの姿

いろいろな先輩がいた中で、由紀さんはギャップのある先輩でした。プレースタイルは華麗で、ルックスもかっこよくお洒落。けれど、それとは裏腹に、泥臭くて、若い奴にも関係なくガンガンに攻めていく。ベテランなのに練習中に答えがみつからないと、何度も何度も挑戦し続け、もがいている姿もだしていくんです。試合に出れないときも、いつも練習は100%、一切手を抜かない。当時、エスパルスはフィジカルトレーニングもきつかったけれど、由紀さんは文句を言いながらも一生懸命やって、さらに筋トレまで加えたりして、その向上心もすごかった。僕よりも10歳以上も年上の先輩がこんなに頑張ってるんだから、僕も頑張ろうって、そんなふうに思わせてくれる存在でした。

それに、誰よりもサッカーに熱い。毎日、毎日、冗談を言いながらもサッカーについて語ったのを今でも覚えています。そんな由紀さんを僕はかっこいいと思ったし、プロになった当初に出会えて本当によかったと思っています。

ミスが起きたら次にすべきことをいつも想定している

僕の根底には、弱い気持ちがあって、常にミスは起きるものだと考えているんです。サッカー=(イコール)ミスのスポーツだと思ってるくらい。だから、ミスが起きたら次にどうすべきかをいつも想定しているし、準備もしている。ミスが起こったときのリアクションが早いから、プレーに波がないように見えるのかもしれない。負けたときにすぐに気持ちを切り替えることができるのも、いつもその準備をしているからです。ケガが少ないのも、自分の気持ちをわかっているから。気持ちがのってないときは、体が無理になるほど全力でやるのではなく、そのときの体調の中で最大の頑張り方をしています。

それと、僕はスランプだと思うことがないんです。他人からは全然駄目だって思われてるかもしれないけれど、僕自身は駄目な部分も、それに対して何をしなければいけないのかもわかっている。その答えがみつからないときは、がむしゃらにもがけばいいだけです。とにかくもがくことが大事だってことを、由紀さんを見て教わりました。

僕は「全力で頑張る」ってことを言い続けています。プロになった当時は、今、身に着けなきゃいけない、やらなきゃいけないっていう気持ちが100%だったから、目の前のことに全力でした。だから、子どもたちにもまずは目の前のことをとにかく頑張ってやってほしい。地味なことでも努力して続けていれば、大切なことがそこにはあると思うから。がむしゃらに、もがいて、一生懸命やることは、決してかっこわるいことではない。むしろそのほうがかっこいいって考えられるようになったら、どんな状況でも諦めない、より世界に近づける選手に育つと思います。僕はそんな選手が一人でも多くでてくるために、由紀さんが僕に見せてくれたような、泥臭く、もがく姿を見せていきたいと思っています。

※この記事は過去に読者のみなさまから反響の多かった記事を厳選し再録したものです。(2016年5月2日掲載)