「鯛の尾より鰯の頭」子どもが健全に成長するための、中学生年代のサッカー環境選び【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】
サカママの読者の皆さん、こんにちは。大槻です。
日本中が盛り上がったワールドカップ。前回大会に続いて、今大会もグラウンドで成長を見てきた選手が日本代表として出場しました。彼がプレーする姿を見て、私たち指導者の日常があの舞台に続いているということをあらためて感じた大会でした。
さて、この時期になると、子どもたちの進路に関するご相談を受けることが増えてきます。
小学校高学年ともなると、一生懸命にボールを追う我が子の姿に頼もしさを感じる一方で、保護者の皆様の頭を悩ませる大きなテーマがやってきます。それが「ジュニアユース(中学生年代)のチーム選び」です。
進路について考える際、昔から「鯛の尾より鰯の頭」という言葉がよく引き合いに出されます。
皆さんはこの言葉に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。「大きな強豪チームでベンチにいるより、中堅チームでレギュラーとして試合に出たほうが良い」という、いわゆる“試合に出るための環境選び”のたとえとして使われることが多いように感じます。
しかし、私は少し違った視点でこの言葉を捉えています。
それは、サッカーのプレー環境という枠組みを超えた、「人間的な成長」という視点です。
「鯛」という華やかな高級魚の尾(巨大な組織の末端)にただぶら下がるよりも、「鰯」のような身近な大衆魚であっても、その集団の頭(先頭)に立ち、チームを引っ張る。自らが主体性を持ち、リーダーシップや責任感を肌で学びながら試行錯誤を繰り返す。その経験こそが、中学生という多感な時期において、大きな人間的成長をもたらしてくれるのではないかと考えています。
チームが「強いか、弱いか」ではなく、我が子がそこで「どのような立ち位置で、どう振る舞い、人として成長していけるか」。今回は、この本質的なテーマを軸に、子どもたちが健全にサッカーを続けていくための環境づくりについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
変化する中学生年代のサッカー環境
まず、現在の中学生年代を取り巻くサッカー環境を整理してみましょう。
近年、全国的に中学校の部活動は縮小・地域移行の傾向にあります。地方へ目を向けると、少子化によって学校単位ではサッカー部の人数を確保することが難しく、地域移行型のクラブが定着しつつある地域も増えてきました。一方で、首都圏においてはグラウンドの確保や指導者問題など、まだまだ課題も多く、過渡期の中で難しい舵取りが続いている状況です。
こうした背景から、サッカーを志す多くの子どもたちが「街のクラブチーム(タウンクラブ)」へと集まる傾向が強くなっています。
クラブ側に多くの子どもたちが集まることで、一つの学年に数十名が在籍するという状況も珍しくなくなりました。もちろん、現場の指導者の方々も、BチームやCチームのための大会にエントリーしたり、出場機会を与えるためのさまざまな工夫やアイデアを出して、子どもたちのモチベーションを保つために大変なご尽力をされています。
しかし、現実問題として、一つのクラブに子どもが集中すればするほど、「真剣勝負の公式戦」のピッチに立つハードルは高くなります。物理的に、試合になかなか出られない子どもたちが生まれてしまう構造があることは、進路を考えるうえで理解しておかなければなりません。

サッカーと勉強の両立の「真実」
ジュニアユース年代において、保護者の皆さんが最も気にかけるテーマの一つが「サッカーと勉強の両立」ではないでしょうか。
「サッカーが忙しくて勉強がおろそかになるのでは」「勉強の時間を確保するために、少しサッカーの負担を減らしたほうがいいのではないか」といったご相談をよく受けます。大人から見れば、サッカーに費やしている時間を削れば、その分を勉強に回せるはずだと論理的に考えてしまいがちです。
しかし、現場で子どもたちと接してきた実感として、現実は少し違います。
「サッカーを志す子どもたちは、サッカーが面白くないと、勉強にも集中できない」
これが、多くの子どもたちのリアルな姿だと私は感じています。
大好きなサッカーの練習に行き、ピッチで自分の成長を実感し、仲間と切磋琢磨する。そうしたサッカーでの「充実感」というエネルギーがあるからこそ、「よし、勉強も頑張ろう」と前向きに机に向かうことができるのです。
逆に、サッカーに充実感を見出せず、ただ義務感でグラウンドに通っているような状態では、家に帰ってから勉強に打ち込む気力など生まれません。サッカーと勉強は対立するものではなく、心の充実度において密接にリンクしているものなのです。
成長期・思春期を迎える子どもたちへの影響
中学生という年代は、体も心も劇的な変化を迎える、非常にデリケートな時期です。このタイミングでサッカー環境とのミスマッチが起きると、子どもたちの日常生活にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。
自己肯定感と「心のベクトル」
思春期の子どもたちは、周囲からの評価や自分が置かれている状況にとても敏感です。サッカーが充実していない状態が長く続くと、「自分は必要とされていないのではないか」と自己肯定感が低下してしまうことがあります。
自己肯定感が下がると、先述したように勉強にも集中できず、最悪の場合、満たされないエネルギーがサッカーや学校以外の方向へ向いてしまうことも考えられます。
「進路選択の三角形」と移動・睡眠の問題
もう一つ、環境選びで絶対に外せないのが物理的な距離の問題です。
私はよく「進路選択の三角形」という考え方を提案しています。これは、「学校」「クラブ(練習場)」「自宅」の3つの位置関係・距離のバランスを指します。
評判が良いからと、自宅や学校から遠く離れたクラブを選ぶケースがあります。しかし、毎回の練習場までの移動時間が長く、帰宅時間が夜遅くに及ぶようであれば、当然ながら勉強時間の確保は難しくなります。
さらに深刻なのが「睡眠時間の確保」です。
成長期の真っ只中にある中学生にとって、体を大きくし、ケガを防ぎ、脳を休めるために最も重要なのは睡眠です。この三角形のバランスが崩れ、移動に時間を取られすぎて慢性的な睡眠不足に陥ってしまっては、健全な成長を妨げてしまいます。
理想を言えば、移動時間は「片道1時間以内」に収まる三角形を描ける環境が、子どもへの負担を考えると望ましいのではないでしょうか。

「見極める力」を持つために
では、私たちはどのような基準でチームを選べばよいのでしょうか。
まず大切なのは、「強い・弱い」だけでチームを選ばないということです。
日本サッカー界にリーグ戦文化が定着したことは素晴らしい成果ですが、その反面、「〇〇リーグ1部に所属しているから良いチームだ」というように、上位リーグにいることが「良いチームの証明」であるかのように捉えられがちです。
たしかに、高いレベルのリーグに所属していることは一つの事実です。しかし、それが「本当に我が子にとって良いチームであるか?」という問いの答えとはイコールではありません。みんなが良いと言うから、強豪だからという理由だけで選ぶのではなく、我が子に合った環境をしっかりと見極める必要があります。
・「進路選択の三角形」のバランスは取れているか(移動時間の負担はないか)
・在籍人数は多すぎないか(我が子が公式戦を経験し、主体的に取り組める環境か)
・クラブの雰囲気や指導者の様子はどうか
指導者の方々も、日々全力で子どもたちと向き合ってくださっています。体験練習会などでは、そのクラブが持つ空気感やビジョンが、我が子の性格やプレースタイルとマッチしているかという点に注目してみてください。
「その先」にあるもの
「鯛の尾より鰯の頭」
この言葉が示すのは、決して「レベルの低いところで満足しなさい」ということではありません。
たとえ規模は大きくなくとも、自分の身の丈に合った環境で、先頭に立って引っ張る経験をする。仲間を鼓舞し、責任を背負ってプレーする。その充実した日々の中で培われるリーダーシップや主体性こそが、サッカーの枠を超え、今後の人生において大きな財産になるはずです。
中学生年代の3年間は、大人へと向かう大切な助走期間です。
世間の評価や目先の「強い・弱い」に惑わされることなく、子どもたちが心からサッカーを楽しみ、健全に成長していける環境づくり。それこそが、一番近くにいる保護者だからこそできる、最高のサポートだと私は考えます。
我が子にとっての「最良の場所」を、ぜひ一緒に探してあげてください。