「負けてもいい試合なんてない」けれど——勝敗の先にある“サッカーを通じて子どもを育てることの本当の価値”とは?【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】
サカママ読者の皆さん、こんにちは。大槻です。
新学期がスタートしたと思ったらもう夏休みも終盤です。大人になると時間の流れの早さを感じてしまいますね…とはいえ、子どもたちはいずれ離れていってしまいます。子どもたちのサッカーに関われる時間も限られていますから、この時間を楽しいものにしていきたいですね。
子どもたちのひたむきなプレーに胸を熱くしたり、思うような結果が出ずに親子で落ち込んだり…ジュニア年代のサッカーと向き合う毎日は、感情が揺さぶられます。
現場で多くの保護者の方々とお話しする中で、よく耳にする悩みがあります。
「せっかくやるなら絶対に勝たせてあげたい」
「でも、勝ち負けばかりに一喜一憂している子ども(あるいは自分自身)に、ふと疑問を感じてしまう」
勝利を目指すことと、勝ち負けだけに囚われないこと。この2つのバランスをどう捉え、家庭で子どもにどう声をかけるべきなのか。今回は、サッカースクールや現場での指導経験を通して私が感じている「勝利の価値」と「人間性の育み」について、深く掘り下げてお伝えしたいと思います。
「負けてもいい試合」なんて1試合もない
まず最初にはっきりとさせておきたい大切なポイントがあります。それは、「ジュニア年代だからといって、負けてもいい試合なんてひとつも存在しない」ということです。
時折、「小学生のうちは楽しむことが一番だから、勝ち負けなんてどうでもいいんだよ」という意見を耳にすることがあります。しかし、子どもたちにとって、目の前の試合はいつだって真剣勝負です。「勝ちたい!」という強い情熱を持ってピッチに立ち、ボールを追いかけています。
その情熱に対して、大人が安易に「負けてもいいんだよ」と言ってしまうのは、少し違うのではないかと私は考えています。
勝ちを目指して本気で走るからこそ、相手との駆け引きが生まれ、限界を超えたプレーが飛び出し、成功したときの爆発的な喜びを味わうことができます。また、本気で勝ちにいったからこそ、負けたときの悔しさが涙となって溢れ出ます。
勝利を目指すという大前提を放棄してしまっては、サッカーというスポーツが持つ最高の教材としての魅力が半減してしまいます。目の前の勝利に全力を尽くすこと。これはプロの世界であっても、8歳のキッズの試合であっても、一切変わらないスポーツの根幹です。

勝ち負け“だけ”で子どもの価値をはかると、負けたときに何も残らなくなってしまう
しかし、ここで非常に重要な「落とし穴」が存在します。それは、「勝ち負けという『結果』だけで、子どもやチームの価値を決定づけてしまうこと」です。
もしも「勝つこと=善」「負けること=悪・無価値」という価値観で子どもと接してしまうと、一体どうなるでしょうか。
サッカーは、相手がいるスポーツです。自分たちがどれだけ素晴らしいプレーをしても、相手が一枚上手であれば負けることがあります。運や不運、一瞬の判定で結果が変わることも日常茶飯事です。
もし勝ち負けだけを価値基準にしてしまうと、負けた瞬間に子どもたちの努力や成長のすべてが否定されたような錯覚に陥ってしまいます。「負けたから、今日の頑張りはゼロ」「負けたから、自分はダメな選手だ」。そう思い込んでしまった子どもは、失敗を恐れてチャレンジしなくなり、果てはサッカーそのものを楽しめなくなってしまいます。
保護者の皆様にも胸に手を当てて振り返ってみていただきたいことがあります。週末の試合後、車の中や帰り道で、子どもにどんな言葉をかけているでしょうか?
「もっとガツガツ行かないと!」
「今日は負けたから、全然ダメだったね」
もし結果だけを追及する声かけになってしまっていたら、少し立ち止まる必要があります。勝利は追い求めるべき目標ですが、子どもの人間性や取り組みの価値そのものではありません。結果にしか価値を見出せないスポーツの関わり方は、敗北の瞬間に子どもたちの心を深く傷つけ、成長の糧を奪ってしまうのです。

「勝ち続けること」よりも大切な、日常の「向き合い方」と「取り組み」
では、試合の勝敗以上に、私たちが保護者・指導者として見守り、評価してあげるべき価値とは何でしょうか。
それは、日常の「サッカーに対する向き合い方」であり、「日々の取り組みの姿勢」です。
試合で負けた次の練習に、どんな気持ちで臨んでいるか。
スタメンから外れてサブになったとき、ベンチから仲間を全力で応援できているか。
用具を大切に扱い、挨拶や準備・片付けを自分から進んでできているか。
自分の思い通りにいかないプレーがあったとき、他人のせいにせず自分に向き合えているか。
こうした日々の行動の積み重ねこそが、子どもの「真の価値(=人間性の土台)」を作るのではないでしょうか。
試合の結果は、時に運に左右されます。しかし、「真摯に取り組んだ過程」と「逃げずに立ち向かった経験」だけは、誰にも奪うことのできない子ども自身の財産になります。
たとえ試合に負けたとしても、「今日のあのカバーリング、最後まで諦めずに走っていて良かったよ」「試合に出られなくて悔しいのに、チームのサポートしっかりできていたね」「負けても相手チームにしっかり挨拶できたね」と、取り組みの姿勢を認めてあげること。それこそが、敗北を次への糧に変える最高のサポートになります。
「グッドルーザーであれ」
たとえ試合に負けても、相手や審判への敬意を忘れずに、潔く結果を受け入れる「良き敗者(グッドルーザー)」であるべきです。
不満を口にせず品位のある態度を保つ姿勢は、勝敗以上に子どもの心を大きく成長させてくれるものです。大人が、「試合に負けたときにどのように振る舞えば良いのか?」について教えてあげることはとても大切です。

「取り組む姿勢を育てること」が「勝利を手繰り寄せることにつながる」のか?
ジュニア年代の育成に携わる中で、私はこの問いに対して明確な確信を持っています。それは、取り組む姿勢を育てるからこそ、選手としての成長と勝利を手繰り寄せる可能性を高めるということです。
たしかに、「勝つ体験」が子どもを成長させる側面はあります。勝つことで自信がつき、心に余裕が生まれ、周囲を思いやる優しさが身につく——「勝ちが人を育てる」という現象も一見すると存在するように思えます。
しかし、それが「勝っている間」限定になってしまってはいけません。
勝利という結果だけに頼った人間性は、連敗したり、強い壁にぶつかったりした瞬間にもろくも崩れ去ります。負けが続いた途端に味方のミスを責めたり、審判に不満をぶつけたり、コーチの指示を無視したりするチームを、私はこれまで何度も見てきました。勝っているときだけ態度の良い選手は、本当の意味で「人間性が育っている」とは言えないのではないでしょうか。
一方で、「人間性の土台」がしっかりとできている子どもやチームは違います。
ここでの「人間性が良い」とは、単におとなしくて礼儀正しいという意味ではありません。「苦しい状況でも前を向く強さ」「自分の非を認めて改善する謙虚さ」「仲間のために走れる献身性」「ルールや仲間をリスペクトする誠実さ」を持っているということです。
サッカーの試合中、ピンチは必ず訪れます。失点したとき、疲労がピークに達したとき、人間性の土台がある子どもたちは崩れません。お互いに声をかけ合い、誰かのミスをフォローし、最後まで諦めずに足を動かし続けます。
だからこそ取り組む姿勢を育て、「人間性の高さ」という土台を作ることが、困難な状況を打破し、最後に勝利を手繰り寄せることができるのです。

明日からできる! 保護者のための「子どもを成長させる」関わり方のヒント
では、私たち大人は家庭で子どもたちとどのように接していけば良いのでしょうか。明日からで実践できる、3つのステップをご提案します。
① 試合後の問いかけを「結果」から「プロセス」に変える
試合直後、「勝った? 負けた?」「何点決めたの?」と聞くのを少しお休みしてみましょう。
代わりに、「今日はどんなプレーにチャレンジできた?」「一番楽しかった瞬間はどこ?」と問いかけてみてください。子ども自身の「取り組み」に意識を向けさせる問いかけが、主体性と向き合う姿勢を育てます。
② 「負けたときの振る舞い」を褒める
試合に負けてしまったときこそ、成長のチャンスです。悔し涙を流しながらも相手にお礼を言えたこと、ベンチで声を出し続けたこと、最後までボールを追ったこと。結果以外の「振る舞い」をしっかり見逃さずに褒めてあげてください。「結果に関わらず、あなたの姿勢を大人は見ているよ」というメッセージが、子どもの安心感と自己肯定感につながります。
③ サッカー以外の日常生活と地続きで捉える
「ピッチの姿は日常の鏡」です。整理整頓、挨拶、感謝の気持ち、靴を揃えること。一見サッカーとは関係のないような日常の習慣が、じつはピッチ上での「自己統制力」や「周りを見る力」にそのまま直結します。サッカーを頑張りたい子どもだからこそ、日常の人間性を磨くことの大切さを親子で会話してみてください。

サッカーという大冒険を通して、一生モノの「心の強さ」を
勝利を目指して全力を尽くすこと。これはサッカーを楽しむうえで絶対に譲ってはいけません。サッカーという競技の中で「負けてもいい」試合なんて、子どもの世界にも存在しません。
しかし、どうか勝利という結果だけで子どもたちの価値が決まるわけではないということも同時に考えてください。
勝った喜びも、負けた悔しさも、すべては子どもたちが将来、社会に出てたくましく生きていくための「人間性を磨く材料」です。
勝つから素晴らしいのではありません。
泥臭くサッカーに向き合い、仲間を大切にし、負けても立ち上がろうとするその「姿勢」があるからこそ、子どもたちは成長していくものです。
週末、グラウンドでボールを追うお子さんの姿を、ぜひ温かい目で見守ってあげてください。結果の向こう側にある「心の成長」に拍手を送れる保護者でいられるよう、私たち大人も一緒に成長していきましょう!