指導者の言霊「古賀康彦 FCガレオ玉島U-15監督」
子ども一人ひとりが持つ感性に、寄り添うことから始まる指導
子どもたちの言葉を聞く。表情を見る。何を感じ、何を考えているのかを想像する―指導者として何より大切にしているのは、彼ら一人ひとりが持つ感性に寄り添うことです。
私は先天性心疾患のため、選手としてサッカーを続けることができませんでした。高校で理解のある先生に出会い、サッカー部に入りましたが、医師に止められ、引退せざるを得なかったのです。そのことを先生に伝えたとき、「指導者なら今からでも始められる」と声をかけてもらい、1年生の9月、16歳で指導者としての一歩を踏み出しました。関西外国語大学時代には高校サッカー部の監督を経験し、スペインへ留学してFC バルセロナなどに選手を送り出す育成現場で学びました。帰国後は早稲田大学大学院でサッカーを研究しながら、東京の高校でも指導。オーストラリアへの留学を経て、FC今治をはじめ複数のJリーグクラブで育成に携わり、現在はFCガレオ玉島で子どもたちと向き合っています。
20年以上、育成年代の指導を続ける中で変わらないことがあります。それは、子どもを子ども扱いしないこと。もちろん未熟な部分はあり、教えるべきこともあります。でも、一人の人間として対等に接し、大人と同じように向き合い、距離感を大事にしています。
FC ガレオ玉島では「エコロジカル・アプローチ」を基に指導しています。元々ヨーロッパで生まれた理論で、わかりやすく言えばストリートサッカーに近い考え方です。昔から「ストリートサッカーで育った選手は上手い」と言われてきました。でこぼこの地面で、年齢もバラバラの仲間とプレーし、空き缶やベンチをゴールにしたり、毎回ボールも違ったりする。そんなさまざまな“制約”があるからこそ、子どもたちは自然と考え、工夫し、環境に適応する力を身につけてきたのです。
私たちのトレーニングでは、それと同じように用具やルールなどで制約を設けています。子ども自身が環境に反応し、自分なりの解決策を見つけていくためです。これまで最も印象に残っているのは、中学生から本格的にサッカーを始めた選手がJクラブへ進んだこと。その子は感性が豊かで、とても素直でした。そして日々の練習で与えられる制約に反応し続けた結果、大きく伸びていったのです。その姿を見て改めて感じたのは「子どもは環境の中で育つ」ということでした。指導者の役割は一方的に教え込むことではなく、子どもが育つ環境を整えることだと考えています。
自分で決める力を育むために、大人が残しておくべき“余白”
子どもたちには、自分で決められる人になってほしいと願っています。選択肢の多い時代だからこそ、誰かに決めてもらうのではなく、自分の意思で決断し、その責任も引き受ける。そうした経験をサッカーを通して積み重ねてほしいと思います。練習でもできるだけ子どもが選び、決める場面をつくっています。彼らがそれぞれのタイミングで、自分の一歩を踏み出せるよう支えていきたいのです。
保護者の方々にも、子どもが自分で決める“余白”を残してあげてほしいと思います。プレーについて伝えたくなることもあるでしょう。でも大人がすべてを埋めてしまうと、子どもが考える時間は少なくなってしまいます。失敗を許容することも大切です。失敗しないように守ることよりも、「失敗しても大丈夫」と思える環境をつくることのほうが、子どもの成長につながるのではないでしょうか。大人が少し我慢して待つ。その時間にも、大きな意味があるように感じています。
「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。卵の中の雛が自分で殻をつつき、そのタイミングで親鳥も外から殻をつつく。二つが重なったとき、雛は生まれてきます。コーチングも同じです。どれだけ指導者が働きかけても、本人が殻をつつこうとしなければ本当の成長はありません。逆に、そのタイミングを大人が逃してしまってもいけません。だからこそ私は、一人ひとりと向き合い、その言葉や表情に耳を傾け、何を感じ、何を考えているのかを想像し続けたいと思います。
(2026年7月発行 soccer MAMA vol.58 「指導者の言霊」にて掲載)