指導者の言霊「平塚次郎 湘南ベルマーレ アカデミーダイレクター兼U-18監督」

自分で問題を見つけて解決できる力。遠藤航は“乾いたスポンジ”だった

　湘南ベルマーレのアカデミー指導者になって20年。「子どもたちの未来に触れている」という責任と、「クラブの歴史を築いてきた方々の想いをリレーしていく」という意識を常に持ち、選手一人ひとりの5年後、10年後を見据えた指導に取り組んできました。

　サッカーに関する情報量が格段に増えた昨今は、指導者側が試されていると感じています。選手と対等な関係性を築き、納得する伝え方をしないと、彼らはこっちを向いてくれない。その点で私は、湘南のアカデミーとトップチームで長年指導された曺貴裁（チョウキジェ、現京都サンガF.C.監督）さんから多くのことを学びました。曺さんは選手との対話にすごく時間をかける方で、子どもに火をつけるのが本当に上手でした。選手が今何を感じているかを日々観察し、その子に合ったタイミングでその子に合ったアプローチをしてあげる。我々も裸になって向き合うことが大切で、選手からも気兼ねなく意見できる関係づくりを日頃から心がけています。

　監督を務めるU-18の選手には「湘南地域をリードする存在になってほしい」と伝えています。そのためには自分で問題を見つけ、解決できる力が必要。『そこに落ちているゴミを拾える人間に』というのが我々の合言葉なのですが、次のステージで活躍するには言われたこと以外にも気づいて、主体的に行動できる人になってほしいというメッセージです。その好例が遠藤航（現リバプール）で、湘南アカデミー時代の彼は1を言ったら10返ってくるような選手でした。足が速いわけでも身体が大きいわけでもないけれど、指導者の言葉を自分なりに理解し、判断して行動を起こし、乾いたスポンジのように何でも吸収する傾聴力と伸び率には驚かされました。

彼のような自立した選手を育てることを目的に、今年から「ベルトレ」という試みも始めています。小学生の強化特待クラスからU-15、U-18、ガールズ（女子中高生）までの選手を集めて一緒に練習させる強化策で、年齢や性別の垣根を越えて非日常の環境を味わい、そこで得た刺激を自分のカテゴリーに持ち帰って還元してもらいたいと。また、高校生が小中学生の指導者役になるというのもポイントです。その経験を通して、U-18の選手にはリーダーシップが出てきたり、下の年代の選手はU-18の練習から競争意識を吸収したりと、早くも効果が表れていますね。

自分でやらせる、全員を応援する…。子どもの「人間性」を育む親の姿勢

　こうした人間的な成長を促すためには、親御さんのご協力も欠かせません。子どもに対して、身の回りの準備や整理整頓など自分のことは自分でやらせる。物を大切にさせる。さらに、サッカーの指導はコーチに任せてチームの批判はしない。試合では自分の子だけでなく、チームメイト全員を応援する。保護者がそうあることで、子どももチームを愛するようになります。試合に出られなかったり、苦しいことも必ずあるでしょう。でもそのときこそ、逆境を乗り越える力をつけさせるチャンスだと考えています。指導者も保護者も目先の結果にとらわれず、長い目で見守ってあげること。子どもに過度な期待をかけると、ワンプレーごとに大人の顔色を見る習慣がついてしまいます。練習や試合では相手に向かっていかねばならないのに、我々の評価を気にしてしまうのです。湘南アカデミーで育ち、現在プロで活躍する遠藤、田中聡、石井久継、小杉啓太（現ユールゴーデン）らはみな当時から自分のことは自分で決断できる選手でしたし、彼らを支えていた親御さんはその距離感が非常によかったと思います。

　プロ選手になりたい、成功したいのならば、人間性が一番大事だと選手にも伝えています。なぜなら私は「成長し続けられる選手」がプロになれると思うからです。今うまい選手がプロになれるわけではない。うまくいかなくても問題を見つけて行動し、今日の努力を積み上げられることが次の結果に結びつくので、目の前の出来事に一喜一憂せず、成長を諦めない選手になってほしいですね。