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本番でいつも通りのプレーをするための、『緊張』との向き合い方

本番でいつも通りのプレーをするための、『緊張』との向き合い方

元プロサッカー選手で現在はメンタルトレーナーとして活動する山下訓広さんによる連載第21回目。普段の練習ではできることが試合になると緊張でできなくなってしまう。今回のテーマは、そんな「『緊張』という感情の中で練習どおりのパフォーマンスを発揮するために心がけること」についてです。

本番で普段の力が発揮できないのはなぜ?

「大事な場面で実力を発揮できない」

以前、中学2年生のお子さんからこんなご相談がありました。「緊張で本番のPKを外してしまう」ということです。練習では誰よりも決定率が高く、キックの精度もチームの中では1、2を争うほど自信があるということですが、本番のPKになると枠を外してしまったり、練習ではありえないようなキックミスをしてしまったりする。

このようなことはプロアスリートでもよくあることです。いつもなら決められる技術を持っているのに本番でその技術を出し切れない場合は、メンタル的な要因があるかもしれません。こちらについてより深く聞いていくことにしました。

 

実際の心理状態を言語化

本番のPKではどのようなことを考えているのか聞いてみると、「緊張があるといつも通り蹴れなくなってしまうので、『とにかく落ち着こう』と考えています。監督やコーチからも落ち着いていつも通りにやれば大丈夫と言ってもらっているので。」

次に、そのように考えて落ち着いてボールを蹴れたことはあるか聞くと、「落ち着かないです。助走をしている間により緊張が増しているようにも感じます」ということでした。

彼の言う通り落ち着いているときはうまく蹴れるので、まずは落ち着くことが大事なように思うでしょう。しかし実は人の感情はコントロールできません。『緊張するな』と考えればなくなるものではなく、『落ち着け』と念じれば落ち着くわけでもありません。

人間の感情は無意識に出てくるものです。感情というものは自然と湧き出てくるものなので、誰しもが様々な場面で感じることになります。

『緊張=失敗』ではない

これまでの話だと、緊張が原因で実力が発揮できていないように感じるかもしれません。しかし、実際に考えてみると、『緊張する=結果が悪くなる』ということは絶対でしょうか?皆様の経験の中でも、緊張してもいい結果が出たことはありませんか?緊張したからと言って必ず結果が悪くなるわけではないのです。感情は結果を決めません。

緊張しているから結果が悪くなるわけでもなく、メンタルが弱いなどということでもないのです。あくまでこの緊張をどのように扱うことがいいかということが重要になります。

緊張に対して『落ち着け』と考えることは、脳にとって非常にストレスになります。なぜならコントロールできないことを頭の中で繰り返している状況だからです。脳がストレスを感じている状態だと、体が思ったように動かなくなります。この時重要なのは『落ち着け』ではなく緊張を受け入れることです。そして緊張している中でもどのようなことに意識を置き、どのような行動をとるのか整理しておくことが重要なのです。

 

成功するときの行動パターンを分析

さらに、練習などでPKをうまく決められているときはどんな行動をしているのか聞いてみると、「まずは蹴る場所を決めて、助走は大体5歩くらいで、スピードを上げすぎずに助走をとって最後までボールを見て蹴ります。」との事でした。

そこで、明確な行動を整理してもらいました。そして緊張という感情に対しては、『落ち着け』ではなく『緊張しているんだな』と受け入れて行動だけに意識を向けるようにしてもらいました。するとこんなご報告がありました。

「この前PKの場面で緊張したけど、いつものように思った場所にボールを蹴れて得点することができて嬉しかったです」。大切なのは緊張している中でもできたということです。この経験が重なっていくと『緊張していてもできるんだ』という自信がついてきます。

緊張を受け入れて、成功に繋げよう

このようにお子さんをサポートする際は、緊張という感情をどうにかするわけではなく、緊張している中でもやるべき行動を整理するお手伝いをしてあげるとより本番で実力を発揮しやすくなるでしょう。

WRITER PROFILE

山下訓広

1986年5月29日、千葉出身
流通経済大学付属柏高等学校、流通経済大学卒業後、J2 ロアッソ熊本に入団。
ロアッソ熊本退団後、シンガポール、ミャンマー、インドネシアと東南アジアでプロサッカー選手として活躍し11年間のプロ生活を経て、現在は株式会社43Labに所属しメンタルトレーナーとしてトップアスリート、ビジネスマン、ジュニアアスリートに向けたメンタルトレーニングを行っている。

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