
【レナート・バルディ分析】「日本はボールを持たずに試合を支配した」オランダ戦で示した森保ジャパンの戦術的成熟と課題
進化を続ける日本代表の北中米W杯での戦いを、ボローニャやミラン、イタリア代表などで分析官兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)でアナリスト講座の講師も務めるレナート・バルディが徹底解剖。
2度のビハインドを追いついて2-2のドローに持ち込んだグループステージ初戦を、バルディは「試合を支配していたのは日本だった」と評価する。非保持で示した世界最先端の守備と、物足りなさも感じた保持の課題――オランダ戦の森保ジャパンをフラットな目線で読み解く。
「感情を解放した日本は、もはや欧州の強豪と変わらない」
――6月15日にダラスで行われたグループFの初戦、オランダ対日本は緊迫した展開の末2-2の引き分けでした。両チームとも互いをリスペクトした結果、本来からすれば慎重な振る舞いが基調になったこともあり、持てるポテンシャルを出し切った試合とは言えなかったように思います。ニュートラルな視点から見ると、特に前半は退屈だったかもしれません。レナートはこの試合から全体としてどんな印象を受けましたか?
「私はまず、戦術的な視点を離れた考察から入りたいと思います。1人の西洋人から見て、この試合の日本はこれまで持たれてきたイメージ、つまりあまり感情を表に出さず、真面目に規範を守り、控え目に振る舞う――そうしたステレオタイプからかなり解放されているように見えました。試合前の国歌の時に監督が目に涙を溜めていたのに始まり、最後の10分間にベンチ全体が立ち上がって試合に参加していたこともそうです。オランダのベンチは全員座っていましたが、日本は皆がラインの前に出てあれこれ指示を出していた。久保建英がアイシングしている脚を引きずりながら鎌田大地に駆け寄ったのもそうです。自らの感情を解放して自然に振る舞うようになった、と言ってもいいかもしれません。それがピッチ上でもリードされた後の粘り強さ、ゴールへの執念、強い結束といった感情レベルの力に結実したのかもしれません。あくまで個人的な印象ですが、規範や規制に過度に縛られることなく、感情を抑制せずオープンにするようになったように見える。そうした側面はピッチ上の振る舞いやパフォーマンスにも自ずと反映されるものです」
――全員が普段からヨーロッパのクラブでプレーしていて、そういう環境に馴染んでいること、代表チームとしても多くの選手がW杯を経験済みだし、親善試合も含めてドイツ、スペイン、ブラジル、イングランドといった世界の強国に勝った経験を持っていることが大きいのかもしれませんね。10年前とは違ってW杯の大舞台が自分の日常とつながっているというか。
「振る舞いだけを見れば、ヨーロッパの強豪チームだと言われてもあまり違和感は感じないように思いました。戦略的な観点から見ると、日本はこの試合をオランダよりもうまく準備していたと思いますし、何よりも試合そのものをオランダよりもはるかによく読み取り解釈して戦ったと思います。試合の局面を読み、相手の振る舞いを読み、忍耐を失うことなく試合の中に止まり続けた。先制された後ですら、大きなショックを受けているようには見えなかった。バランスと距離感を維持し、それまでと変わらず落ち着きを失うことなくプレーした。動揺や焦りといった感情的な揺れがプレーに表れることはありませんでした。すぐに同点に追いつくことができたのもそれゆえでしょう。
ゲームプランとしては慎重さが勝っていたと私も思いますが、その結果としてオランダにはほとんど何も許さなかった。ボールと主導権を相手に譲って、コンパクトなミドルローブロックで受け止め、危険なスペースや時間はほとんど与えませんでした。大きなスペースでの攻防になったら、パワーやスピードといったフィジカル的な側面で不利になるとわかっていたので、まずはそれを避けたかったのだと思います。それでも避けようがないのはクロスやセットプレーがもたらす空中戦で、実際そこでは必然的な代償を払いましたが、トータルの収支がマイナスになることはなかった。オランダはボールと地域を支配しましたが、試合そのものを支配していたのは、ボールを持たない日本の方だったと思います」
「ボールは持たなくとも試合は支配できる」ローブロックでのオランダ封じ
――支配していたかどうかはわかりませんが、コントロールしていたとは言えると思います。
「ボールを持たなくとも試合を支配することはできます。ハイプレスやハイブロックによってはもちろん、ローブロックからのプレッシングによってもね。確かに、高い位置からマンツーマンプレッシングを仕掛けたり、ゲーゲンプレッシングで襲いかかったりすることは、試合を支配したいという意思の表れです。しかし、我々の友人であるマイキ(林舞輝さん)が最近のインタビューで言っていたように、ローブロックからでもプレッシングを行うことはできるし、それも試合を支配しようとする1つの形だと思います。日本はそれを非常にうまく行う能力と特徴を備えていました。トランジションにおけるオランダの散漫さをもう少し積極的に突こうという意図があれば、もう少し多く危険な状況を作り出すことができたと思います。
戦術的な観点に立てば、オランダはボール保持を通してこの試合を支配しようとしたけれど、それは成功しなかったと言えます。試合の大部分を通して、オランダのポゼッションは遅く、単調で、静的で、流動性にも意外性にも乏しかったからです。ポジショナルな配置に基づいていましたが、あまりにも静的でダイナミズムが欠けていた。4バックをほとんど固定して、ドゥムフリースにすら彼の最大の長所である縦の突進力を発揮する自由を与えなかったという選択は象徴的です。実際2点目のゴールは、ドゥムフリースがオーバーラップで中村敬斗を外に引っ張ったところから生まれています。つまり、オランダはこの試合の準備を誤り、解釈を誤った。とりわけ後半半ば、リードしてからの戦略とそれに伴う交代は明らかな悪手でした。一方の日本は、この試合をよく準備しそれをよく実行しましたが、ゲームプラン自体がやや慎重に過ぎたように思います。最後の20分に発揮したあの勇気が、最初の70分には欠けていた。日本のアタッカー陣のクオリティとスピードを持ってすれば、いずれにしてもオランダをより大きな困難に陥れることができたと思います」
――特に前半の日本の振る舞いには、攻撃を縦に加速することは控えて、試合のリズムを低く保ちたい、試合の中に起こる不確定要素を減らしてコントロールしたいという意図が明らかに見えていたように思います。トランジションが連続するような展開にはしたくなかったのではないでしょうか。
「広いピッチでの攻防を避けたい、オープンスペースでのデュエルを避けたいという狙いは明らかに持っていたと思います。オランダは前線に強くて速い選手を揃えており、インサイドハーフの2人(ラインダース、フラーフェンベルフ)も、ドゥムフリースも縦の推進力がある。彼らにスペースを与えないこと、試合のスペースそのものを圧縮することで、その強みを制限できたことは確かです。試合のリズムを落とす方向に相手を誘導したと言ってもいいでしょう。特に前半は、トランジションやポゼッションの局面でも、リズムを上げる機会があっても、リスクを冒してまでそうしようとはしませんでした。少し何かを試みていたのは、中村だけでした。
試合そのものは、リズムという観点からも、決定機という観点から見ても、前半はかなり退屈でした。日本は受動的に振る舞いながら、忍耐力、レジリエンス、状況を読みコントロールする能力を発揮し、スピードとパワー、そしてとりわけ1対1突破において高いクオリティを持つオランダに、それを発揮する機会を与えませんでした。非保持時の基本配置は非常にコンパクトな[5-4-1]で、前田大然をオランダの左SBファン・デ・フェンに対して前に出すことで、第1列から縦に展開するパスコースに常に制限をかけることができていました。オランダは、4バックとデ・ヨングが構成するビルドアップユニットがかなり平坦に並び、動きも少なかったことで、縦にボールを運ぶのに不可欠な段差を作ることができておらず、それが日本の守備を簡単にしていました。
日本の基本システムは[3-4-2-1]ですが、両サイドに逆足のウイングバックを置くという選択は、現代サッカーのトレンドを反映するものです。私たちは何年か前に書籍シリーズ『モダンサッカーの教科書』の中で、SBに逆足のプレーヤーを置く可能性、大外から1列中に入ってビルドアップに加わり、持ち上がりや斜めのパスによってピッチを割る能力の重要性について話しましたよね。堂安律と中村は、ともにSBではなくウイングが本職だという点で、このポジションの非常にモダンな解釈の実例だと言うことができる。堂安は攻撃では中村ほど活躍できませんでしたが、守備の局面ではチームがバランスを保つ上で貴重な貢献を果たしていました」
――ガクポにほとんど仕事をさせませんでしたよね。開始間もなくマレンがシュートを打った場面で縦パスを許したくらいでしょうか。
「日本は5+4、時には5+5の2ラインを常にコンパクトに保っており、サイドでも、ハーフスペースへのMFの侵入に対しても、常にダブルチームで対応する体制を保っていました。ガクポがボールを持った時にも必ず堂安と久保が2人で対応していた。序盤は最終ラインの押し上げも効いており、オランダを押し返すこともできていましたが、徐々にローブロックでスペースを閉じて、オランダのポゼッションを無効化することに専念するようになっていった。日本は全員が非常に勤勉にタスクをこなし、ボールにプレッシャーをかけつつ、オフ・ザ・ボールでの侵入に対しても常に的確に対応して吸収していました。オランダがクオリティを発揮できなかったのは、彼らの攻撃が単調かつ静的に過ぎたというだけでなく、日本が常にコンパクトにスペースを閉じていたことも大きな理由だったと思います」
ゾーン内マンマークと鈴木彩艶。日本守備を支えた2つの要因
――オランダが前半もう少しやれたとしたら、どの部分でしたか?
「ボール循環、ポゼッションの質でしょうね。パススピードもリズムも遅く、あまりに静的でした。日本のプレッシャーラインの手前に並んだ4バックとデ・ヨングの配置がフラット過ぎて、誰もその背後でマークを外すことができなかった。2人のインサイドハーフ、フラーフェンベルフとラインダースはゲームから切り離された場所にいて、ファーサイドで裏のスペースを衝く動きもほとんど見せませんでした。開始2分にガクポが久保をかわしてダイアゴナルパスを差し込み、それを受けたマレンが谷口彰悟を背負ったままターンしてシュートを打った場面がありましたが、目立った決定機はあのくらいでした。前の5人も日本の5バックの前にフラットに並ぶことが多く、動きに欠けていたためプレーの展開を読むのがたやすかった。日本は中央を閉じて外、とりわけ左のガクポにボールを誘導した後、堂安と久保がダブルチームすることで、一度も1対1の状況を許さず数的優位で対応できていました。
オランダは総じてスペースもプレーのリズムもうまく管理できていませんでした。それは日本が非保持局面でそれをコントロールしていたからです。サイドでは常にダブルチームで1対1を許さず、3人のCBもアグレッシブで、ライン間にパスが通った時にも簡単には前を向かせなかった。オランダの2点目の場面はその数少ない例外です。ファン・ヘッケからフラーフェンベルフに前田と鎌田の間を割る縦パスが通り、そこで前を向かせたところから中盤ラインが振られ、ドゥムフリースのオーバーラップで中村が1対2の対応を強いられた。そこでフリーになったサマーフィルにカットインを許した格好でした。
前後半を通して日本のローブロックの振る舞いはかなりアグレッシブでした。原則はゾーン内マンマークで、ゾーンで配置を取りながら人に基準点を置き、そこにボールが入ってくる時には先手を打ってラインをブレイクして飛び出していく。状況と読みに基づいてスペースと人のどちらを優先するかを判断して動くという意味で、ゾーンとマンツーマンのハイブリッド型ですね。これは現時点で最先端の守備概念です。相手との正しい距離を常に保ちながらスペースも意識し、的確な読みに基づいて対処していく。自分の基準点にパスが出てからそれに反応して動くのではなく、それを先読みしてワンテンポ早く反応していく。常に集中力を切らさず状況を読み続ける必要があるので認知負荷も大きくなりますが、個のレベルでのミスは少なかったです。開始2分の場面でマレンにターンを許した谷口、1-0のゴールを喫した際にファン・ダイクをフリーにした渡辺剛くらいでしょうか。いずれも戦術的判断というよりは個人戦術レベルでのミスです。戦術的に見れば日本の守備は非常に良く機能していました。セカンドボールの管理も良くできていた。GKからのロングキックに対する空中戦のデュエルではほとんど勝てませんでしたが、そのセカンドボールはほとんど日本が拾っていた。
個のレベルということでいえば、鈴木彩艶のセーブはこの試合の流れに決定的な影響を与えたと思います。開始直後のマレンのシュートが決まっていれば、日本はまったく別のゲームプランを選ばなければならなかったでしょう。もう1つ、後半ハイドレーションブレイク直前の72分に、ガクポのシュートをニアポストの足下で弾いたあのセーブもきわめて大きかった。日本は久保がケガで外に出て10人で戦っていたからなおさらです。あのシュートが決まって3-1になっていたら、おそらく試合はそこで終わっていたでしょう。最初のセーブは日本が当初からのゲームプランを維持する上で、2つ目のセーブは同点ゴールに結実するラスト20分の攻勢を準備する上で、決定的な重要性を持っていました」
――日本の非保持局面で改善できる部分は?
「ローブロックでボールを回収した後の展開ですね。特に前半は、ローブロックでボールを奪った後、あまりボールを大事にせず蹴り返してオランダに返してしまう場面が多かった。いったんポゼッションを確立して押し上げることも、トランジションからスペースに展開して逆襲に転じることもできなかった。この点は、空中戦のデュエルの勝率を上げることと並んで、非保持局面でもっとうまくやれた部分だと思います。それ以外については、ブロック内部の距離感、ダブルチームでの対処、ボールホルダーへの寄せ、個人個人の読みと状況判断など、すべてがうまく機能していたと思います。オランダのウイングがアイソレーションから1対1を仕掛ける場面が一度もなかったのは象徴的です。堂安、中村が状況を先読みして距離を詰めており、久保、前田もダブルチームに行く準備ができていた。3CBのスライドも、ユニットとしての距離感だけでなくそれぞれの基準点となる相手との距離感にも意識を向けたハイブリッドな位置取りに基づいていました」
――空中戦の勝率は25%くらいでしたが、これはやむを得ないところでしょうか?
「体格的なミスマッチが大きいですからね。それよりも重要なのは、1-0の場面を除けばオランダに対してそれを有効に活用させなかったことです。セカンドボールはほとんど回収できていたし、クロスを許す場面も少なかった。オランダの両SBが守備的に振る舞ったこともありますが、フリーでクロスを上げさせる場面はまったくありませんでした」
――オランダも、クロスをどんどん入れてエリア内に混乱を起こそうという攻め方ではなかった。
「ええ。むしろ2ライン間からコンビネーションやスルーパスでのポケット侵入を狙っていました。ほとんど成功せず、強引な形でシュートを打つ以外にない状況に追い込まれる結果になっていましたが。2ライン間で危険な状況を許したのは、すでに触れた2-1の場面くらいでしたね」
――第1プレッシャーライン、前線の守備はどうでしたか?
「前田、久保、鎌田、佐野海舟による中央の四角形はかなりよく機能していましたし、上田綺世も縦パスのコースを消しながら、プレッシング開始点の基準となる仕事をまずまず良くこなしたと思います。全員がボールのラインより下でブロックを構成する時間が長くなりましたが、戻り遅れや個人の判断ミスによって危険な状況につながる穴を空けるような場面はほとんどありませんでした。認知負荷の大きさという点でメンタル的にも消耗が大きい試合だったと思いますが、その観点からも高いインテンシティを最後まで維持していたと思います」
――ローブロックで回収した後は、前線から下りてきた上田に一度当てて収めたかったのでしょうが、その動きはほとんどファン・ダイクに潰されていました。
「ファン・ダイクとのデュエルで劣勢に立つのは仕方ありません。1対1のデュエルという点では、非保持時のオランダが明らかに優勢でした。ファン・ダイクのようにフィジカルが強く、アグレッシブに前に出る守備を強みにしているDFに対して、それを背負って下りてくるFWに縦パスを入れるというのは、最良の解決策ではありません。
私の考えでは、オランダの緩慢なリズムを考えても、ローブロックで奪ったらまずポゼッションを確立してボールをクリーンにし、パスをつないで少しずつ押し上げるか、あるいはいくつかの状況では、逆サイドのハーフスペースでフリーになった前田や久保に、もう少し正確なダイアゴナルパスを入れることもできたはずです。特に久保はそのクオリティを考えれば、このような状況での存在感、影響力がこの試合では小さかったように思います」
――左サイドに流れて先制ゴールをアシストした場面くらいでしたね。
「オランダのプレッシャーが緩く、2ライン間にスペースを見出す可能性があった状況でも、久保はうまくそこを使えていませんでした。彼にはもっと多くを期待していいと思います」
「サイドブレーキを引いて走っていた」慎重過ぎたボール保持
――そのあたりも含めて、保持局面も掘り下げていきましょう。前半、というか後半のハイドレーションブレイクまでは、かなり慎重な振る舞いに終始した感があります。
「率直に言って、オランダが強くプレスしていない状況下でのビルドアップでは、もう少しできることはあったと思います。少なくとも私はそれを期待していました。TV中継にリプレーが入る関係で、後方からのリスタートにそれがかぶって確認できないことも多かったのですが、基本的には谷口と渡辺の2人が、実質2CBと変わらない形でビルドアップを開始する形ではないかと思います。左の伊藤洋輝はSBのようにやや高めの位置を取り、中村が少し内に絞って、前田はほとんどセカンドトップのようになっていました。したがってビルドアップユニットは2+2あるいは4+2という形になることもあり、時には鎌田が第1列に下がって3+1になる形も使われていました。いずれにしても4人のユニットが中央3レーンで、2+2、3+1の配置からビルドアップをスタートする格好です。そこから前進すると、伊藤が中に入って中村が開き高い位置で幅を取る形で[2-3-5]や[3-2-5]に変化していく。
ビルドアップで最も重要な役割を担っていたのは鎌田です。個人的には、彼と中村がこの試合で最も良かったと思います。鎌田とボランチを組む佐野はバランサーとしての役割に徹していました。全体としては、ショートパスをつないで全体を押し上げていくことはせず、第1プレッシャーラインの手前から縦に入れる展開が多かった。しかしその縦パスも上田や2列目の2人がデュエルで劣勢に立ち、うまく収められずに終わっていました。ゴールキックからの展開で興味深いアクションが見られたのは、中村の同点ゴールのきっかけになった56分の場面くらいでした。GK鈴木がプレスを誘引してから2ライン間の久保に縦パスを通し、そこから右サイドを裏に走った鎌田に縦パスを送り込んだ。鎌田はフラーフェンベルフに走り負けましたが、そこからGKがクリアしてスローインになったところから、同点ゴールにつながるアクションが生まれました。
この場面を除くと、日本がオランダのハイプレスをかわして攻撃に転じた場面はほとんどありませんでした。オランダは基本的にはミドルブロックで待つことが多く、積極的にプレスに出てくる頻度は低かったですが、そういうボールを持てる状況でも、日本は自分たちのポゼッションでリズムを作ることはできなかった。ビルドアップの途中でロストしてバランスを崩すことを過度に怖れているように見えた」
――確かにビルドアップではもう少し何かができたはずだと思います。ほとんどすべてのボールが鎌田を経由していましたが、彼は攻撃を加速するよりもいったんスローダウンして配置を整えたい気持ちが強いように見えました。
「はい。そうだったと思います。配置のバランスが崩れた状態でボールを失うリスクを冒さないために、リズムを落としていた。最初の方で話題に出たように、ネガティブトランジションが頻発すること、オランダと殴り合いのような試合をすることへの怖れがあったように見えます。その状況では自分たちが不利になると知っていたのでしょう。ただ、オランダは日本が怖れていたほどアグレッシブではありませんでした。だから日本のポジティブトランジションでも、後方からのビルドアップでも、もう少しリスクを冒して積極的なプレー選択をする余地はあったと思います。
実際、43分に渡辺がフリーで裏に抜け出してクロスを折り返し、中村が惜しいシュートを放った場面、そしてその中村が同点ゴールを決める直前に久保がドリブルでデ・ヨングとフラーフェンベルフをかわして持ち上がり、中村がクロスを折り返した場面など、リスクを冒して前に出た時には危険な状況を作っていました。ただ多くの場合、慎重に展開をスローダウンして、オランダが陣形を整える時間を与えていました」
――前半作った数少ない好機の1つは27分に伊藤のミドルシュートで終わった波状攻撃でしたが、あれはハイドレーションブレイク直後に敵陣でのスローインでリスタートしたところからで、すでに相手を押し込んだ状況から生まれたものです。
「左からのクロスがはね返された後、セカンドボールを右に展開して堂安がゴール前にダイアゴナルパスを入れ、それを前田が落として中村がシュートを打ち損ねた場面ですね。あそこも含めて、日本は3バックの外2人、渡辺と伊藤が少しリスクを冒して高い位置まで出てきた時に、危険な状況を作っていました。43分に渡辺が裏に抜け出した場面もそうです」
――前5人に加えて6人目が前線に入ってくる動きが必要だったということですね。
「はい。もう少し後ろから縦に入ってくる動きが必要だったと思います。前線のアタッカー陣はよく動いていましたが、そこにボールを入れる頻度、そのために前線にさらなる動きを作り出す頻度が低かった。後半2-1になって以降は、オランダが引いたこともあって非常に活発になりましたが、個人的にはもっと前から同じことができたと思います。日本のクオリティならば、オランダの守備を崩す余地は十分にあった。最初の1時間あまりは日本の側に勇気と積極性が欠けていたと思います」
――ただこれは過去に強豪相手に戦う時にそうだったように、ゲームプランの一部だった可能性もあるかもしれません。前半は受けに回って抑え気味に戦うことで試合をコントロールし、後半になってから交代も含めて一気に加速する時間帯を作る。
「なるほど。確かに戦略的な観点から見れば、最初の1時間あまりは、受動的に振る舞いながらも試合を主体的にコントロールし、リードを許してハイドレーションブレイクが入ったあたりから、ギアを一段上げたという見方もできますね。ただ個人的には、最初の1時間も、ボールを持った時にもう少しリズムを上げて積極的に振る舞っていれば、もう少し危険な状況を作り出すことができたと思います。何というか、車のサイドブレーキを引いて走っているような、自分たちの力を解放せず抑え込んでいる印象がありました。しかし後半のハイドレーションブレイクの後は、選手交代をしたオランダの振る舞いがより守備的になったころもあり、サイドブレーキを解放しギアを一段上げてアクセルを踏み込んだ感じでした。75分の交代、構造の変化、失点を取り返そうという感情の波、いろいろなファクターがあったと思います。
私の見方からすれば、ラストの20分で日本はボールと主導権を握った時に何ができるかを示した、逆に言えばそれまでの70分は自ら選んだにしても慎重に過ぎた、ということになります。できることはもっとあった。ビルドアップ1つとっても、流動性に乏しく、縦方向の推進力も足りなかった。中央を割って縦パスを入れようという意志に乏しく、より安全なサイド経由の展開を選び、中村と堂安を使って内側に入っていこうとしていましたが、オランダの守備陣形が整っていることもあって、サイドCBが攻め上がって行くような形で数的優位を作らない限り、崩しのきっかけを作ることが難しかった」
――渡辺や伊藤がドリブルで持ち上がっていくような場面もほとんどなかったですね。
「リスクを嫌ったのだと思います。もう少し積極的に仕掛けても良かったと思います。それはトップ下の2人も同じで、2ライン間のハーフスペースでマークを外し、鎌田から縦パスを引き出してターンする場面をもっと作りたかった。鎌田がそこにパスを入れなかったという側面もあったかもしれませんが」
「久保は守備にエネルギーを吸い取られた」
――その点で久保は期待したほどの活躍ができなかったという印象です。56分の同点ゴールに結実する一連のアクションの中で、左サイドに流れてチャンスを作り、最後はアシストまで行った場面はさすがでしたが。
「彼のタレント、創造性、そしてチームの構造からみれば、もう少し多くを期待して然るべきだったと思います。相手に基準点を与えないよう、より流動的に振る舞うという点でもです。チームの構造を見ても、逆足のウイングバック、頻繁に受けに下がってくるCF、テクニックとダイナミズムを備えたトップ下(シャドー)という構成で、保持時には[3-2-5]という構造から出発しながらも、状況を自由に解釈してポジションを入れ替えたり、ボールサイドにオーバーロードしたりして、相手に守備の基準点を与えずに局面を打開していく可能性を秘めていた。その中で久保には、2ライン間で受けることでファイナルサード攻略の起点となるプレーをもっと高い頻度で見せることを期待していたのですが」
――56分の場面以外では、膝を痛める少し前にクロスバーを超えるミドルシュートを打ったくらいでしょうか。
「はい。もっと試合の中に入り、もっと多くのボールに触って、より大きなプレゼンスを持つことを期待していました。彼のようにチームの中核を担うべきクオリティを持つ選手は、試合の流れに小さくない影響を与えます。彼らが好調であればチームメイトもより勇気を持ってプレーできる。彼らが少し影に隠れると、チームメイトもその影響を受ける。そうした心理的側面は試合にとって決して無視できないファクターになります」
――この試合に関しては、非保持局面で要求される負荷が大きかった側面もあったかもしれませんね。
「守備において非常に大きな犠牲を払い、求められたタスクを十分以上にこなしたことは確かです。常にボールのラインより下にいて、ガクポに対するダブルチームも遅れることがほとんどなかった。もともと守備が得意ではないということもあり、非保持局面でフィジカル、メンタルの両面で多くのエネルギーを使い、保持局面では力が発揮できなかったのかもしれません。その観点から見ると、攻守両局面で十分に自らの力を表現できた唯一の選手は中村だったと思います。チームの中で最も活き活きしていて、最も予測不可能な選手に見えました。一方、右ウイングバックの堂安も久保と同様、守備にエネルギーを吸い取られた感がありました。彼らのようなクオリティを持つ選手にとっては、あれだけ大きな守備の負担をきっちりこなすのは自然なことではない分、それ自体が大きな負荷ですからね」
右サイド再編と攻撃本能の解放。流れを変えた最後の20分
――ハイドレーションブレイクの後、選手交代したオランダが重心を下げ、それに対して日本が右サイドのユニット3人を入れ替えたところから、流れが大きく変わりました。
「久保が膝を痛めて交代を強いられたこともあり、そこにFW小川航基を入れ、右サイドも堂安から菅原由勢、渡辺から冨安健洋に替えて、全体の配置も[4-4-2]に移行しました。そこから右の伊東純也と菅原が前線に上がることで、ミドルサードから上での配置は[3-2-5]になる。特に右サイドは伊東が中に入って菅原が上がり、冨安がそれを背後からサポートする形を作ることで、より流動的でダイナミックになり、相手の対応に困難を作り出しました」
――長い間故障で苦しんでいた冨安が本格的に復帰して本来のプレーを見せているのは嬉しいですね。
「ええ本当に。トミはオランダのFWよりも前に上がって右サイド攻略の起点として機能しました。そこから敵陣まで上がって伊東、菅原との連係で右サイドの攻略に積極的に関与していった。22分しかプレーしていませんが、十分に計算が立つことがわかったと思います。90分プレーできるコンディションにあるなら、スタメンで出てもまったくおかしくない」
――右サイドのスタメンだった堂安と久保はいずれも左利きで逆足ですが、交代で入った伊東、菅原は右利きです。大外から裏のスペースに抜け出してそこから中に仕掛ける、あるいはクロスを送り込むという形で、最終ラインに揺さぶりをかけることに成功していました。
「左SBのファン・デ・フェンをより困難に陥れたことは確かです。ただ、そうした戦術的な変化以上に、日本がそれまで抑えていた攻撃本能を解き放ったこと、リスクを冒してゴールを奪いに出たことが重要だったと私は思います。CKからの同点ゴールは、選手交代や戦術変更以上に、チームとしての振る舞いの変化、後ろ髪を引かれることなく攻勢に立つ姿勢がもたらしたものだと思います。日本はもともとそれだけのクオリティを備えたチームであり、ラスト20分になって初めてそれを本来の形で発揮した。試合全体を見れば、日本は2-1で負けていてもまったくおかしくなかったと思います。ただ、常に試合の中でプレゼンスを発揮し続け、ほとんど大きな困難に陥ることなくコントロールしていたことを考えれば、敗北は正しい結果ではなかったとも思います」
日本はもっとやれた――バルディが見た“勝てた試合”の意味
――もし負けていたら大きな後悔が残っていたと思います。
「はい。私もそう思います。前半からもっと積極的に振る舞い、リスクを冒して戦うことができたからです。最後に引き分けをもぎ取ったのは賞賛に値しますが、それによって最初の70分で足りなかった部分を正当化することはできません。日本はもっとやれたと思うからです。相手のオランダは、優勝を争う最強豪国のすぐ下に位置する強国です。今の日本はほとんどそれと変わらないところにいる。オランダのようなチームとももっと正面から渡り合うことができるはずです。
確かに、非保持局面では非常に良かったと思いますが、保持局面では、少なくとも2-1になるまでは慎重過ぎました。日本が作り出したチャンスはいずれも、相手をいったん押し込んだところから生まれています。トランジションで一気にフィニッシュまで持っていったわけではない。27分に堂安が前田にダイアゴナルパスを差し込んだ場面、42分に渡辺が裏に抜け出した場面、57分の先制ゴールをもたらした一連のアクション、いずれにおいても4~5人をエリア内に送り込んでいます。これは潜在的にオランダに問題を作り出すことが可能だったことを示しています。ラスト20分であれだけ押し込んで、そのまま2-1で終わっていたら、もっと早くから攻勢に立つべきだったと後悔したでしょう。
グループステージ最初の試合で、グループで最も強い相手との対戦、しかも3位でも勝ち抜けの可能性がある、という状況が、慎重なゲームプランを選ばせた可能性は確かにあると思います。その結果としてこの試合はボールを持たずに試合をコントロールする時間が長かったですが、次の試合ではボールを持って試合をコントロールし、支配するチームを観ることを期待しています」