
「他の惑星から来た」「“今”であり“未来”の選手」アンリやエムバペも驚くオリーセというフランスの新怪物
2025-26シーズンにバイエルンで公式戦25ゴール28アシストを記録し、迎えた初参戦のW杯でも5試合5アシストと躍動する「怪物」。2大会ぶり3度目の優勝を目指す“レ・ブルー”(フランス代表の愛称)の超強力攻撃陣を操るマイケル・オリーセである。イングランドで生まれ育った24歳がフランスの「最重要選手」になるまでの軌跡、そして「他の選手とはまったく違う」静かなる天才の肖像を紹介したい。
代表レジェンドも「ワオ!」のレ・ブルー最重要選手
開催中の北中米W杯、順当に準々決勝進出を決めた優勝候補のフランスで、圧倒的な存在感を発揮しているのが、攻撃的MFマイケル・オリーセだ。
フランス代表のユニフォームで一番売れているのも『OLISE 11』のシャツで、スウェーデン戦での横っ飛びシュート(惜しくもポストを直撃)のシーンは、翌日の新聞のトップページを独占。フランスサッカーファンの間では今、ちょっとしたオリーセ旋風が吹いている。
アメリカの『FOXスポーツ』で解説者を務めているティエリ・アンリも、オリーセこそが、今大会のレ・ブルーにとって「最重要選手」であるとマイクの前で断言していた。
「MVPはキリアン・エムバペだろう。彼は目に見える形で数字を上げることができる。しかしはっきりと言わせてもらう。最も重要な選手、それはマイケル・オリーセだ」
パリ五輪のフランス代表監督として、オリーセを直接指導した経験を持つ彼の言葉だけに真実味がある。
「彼のような選手をコーチできたなんて、指導者冥利に尽きる。彼は怪物だ。彼の見方は他の選手とはまったく違っていて、彼の目には、他の人には見えないものが見えている。そんなわけだから、自分が予測したような展開に進んでいかないと、その場から一瞬消えてしまうようなこともある。ほんの一瞬だけれどね(笑)」
当時、トレーニング中にオリーセのプレーにびっくりさせられたことは何度となくあったそうだ。そのたびに思わず「ワオ! すごいっ!」と叫びそうになるのを監督という立場上グッと堪え、隣にいるアシスタントコーチたちと「おい、今の見たか?」とヒソヒソ囁き合っていたと、レ・ブルーのレジェンドはジョーク混じりに振り返っている。
今大会での活躍ぶりを見てみると、初戦のセネガル戦(○3-1)ではエムバペの先制点をピンポイントのクロスでアシスト。次のイラク戦(○3-0)は同じくエムバペの先制点に加え、ウスマン・デンベレが決めた3点目もお膳立てした。
ラウンド32のスウェーデン戦(○3-0)でも2アシストと、ここまで5アシストは大会トップ。1970年大会でペレがマークして、そこから半世紀以上も破られてこなかった大会最多アシスト記録の「6」を、24歳でW杯初出場の新星が更新しようという勢いだ。
「とても気が合う」エムバペとのホットライン
そしてこの「5アシスト」というのは、数字に現れた部分に過ぎない。今大会でのフランス代表の攻撃アクションには、ほぼ例外なく彼が絡んでいる。
開幕戦では、オリーセをバイエルンと同じ右、デンベレをトップ下に置く形でスタートしたが、ディディエ・デシャン監督は後半から2人の位置を入れ替えると、それ以降オリーセを「10番」の役割として起用。ライン間でボールを受け、そこから決定的なパスが出せる彼が中央にいることで、エムバペらアタッカー陣に供給されるチャンスの数は格段に増えた。
阿吽(あうん)の呼吸で機能しているエムバペとの“ホットライン”だけでなく、デンベレを巻き込んでのトライアングルの形も、相手ブロックを崩す強力な一手となっていて、スウェーデン戦でエムバペが決めた先制点はこの3人の迅速なパス交換から生まれた。
逆に、彼からの供給を防ぐことで、オフェンスの機能性が激減することを示したのがラウンド16のパラグアイ戦(○0-1)だ。
相手はオリーセがボールを持つたびにダブルチームで前を塞いできた。その結果、ここまでの全試合で3点以上取ってきた超オフェンシブ軍団のフランスが、試合開始30分を過ぎてもシュート0本。後半の70分にデジレ・ドゥエが誘発したファウルからエムバペが決めたPKが決勝点となって辛くも勝利したが、今大会のレ・ブルーはオリーセこそが生命線であることが、あらためて浮き彫りとなった。
とりわけ大エースのエムバペとの相性がいいのは大きなポイントだ。開幕前に『レキップ』紙に掲載されたフランス代表企画では、エムバペがチーム・スタッフ全員を紹介しているのだが、そこでもキャプテンはオリーセについて「とても気が合う」とコメントしている。
「彼は『今』の選手であると同時に、『未来』を担う選手でもある。彼のプレーは優雅で、ゲームの状況を見抜く力がずば抜けている。彼とはとても息が合うんだ」
2人は同じアルジェリア系の母親を持つといった共通点もあってか、プライベートでも気が合うらしい。初動スピードの速いエムバペの動き出しをオリーセは的確に見定めて、彼が欲しい場所にちょうどいい強さでパスを出してくる。
馴染めなかったアカデミー時代。2部からのステップアップ
そんなオリーセだけに、さぞかしビッグクラブが争奪戦を繰り広げるような、日の当たる場所を子供の頃から歩んできたのか、と思いきや、育成期はそれほど順調満帆ではなかった。
イギリスのロンドンで生まれ育った彼は、地元のアマチュアクラブを経てアーセナルのアカデミーに入門するも、数カ月で退所。同じロンドンのチェルシーに移り、そこでは7年ほど在籍したが、プロへ向けての育成が本格化する前の14歳で退所している。
その後はロンドンを離れてマンチェスター・シティに入団した。しかしここも数カ月で退団すると、半年間ほど所属クラブのない時期が続いた。
『レキップ』紙に掲載されていた記事によれば、プレー面というよりも性格的な面で、マイケル少年はアカデミーに馴染めなかったらしい。
育成アカデミーといえば規律に厳しい場所だ。よく言えば感情豊か、ややネガティブに言えば気分屋なところがあったオリーセは、そうした環境では理解されないことも多かったのだという。また、子供の頃から気性が激しく、上下関係に厳しい組織の枠組みに適応するのにも苦労した。
ようやく見つかった次の受け入れ先は、当時チャンピオンシップ(イングランド2部)にいたレディング。そこで2018-19シーズンの3月、対リーズ戦に途中出場したのが、彼のプロデビュー戦だ。この時17歳。
そして2020-21シーズンにはレギュラーに定着すると、7得点12アシストと早くも実力の片鱗を見せつけ、シーズン終了後にクリスタルパレスへ移籍。プレミアリーグへのステップアップを叶えた。
当時のパレスの監督はレ・ブルーのレジェンド、パトリック・ビエラで、彼の下で絶対的な存在となった入団2シーズン目には11アシストとプレーメイカーぶりを発揮。翌2023-24シーズンは、2度のケガによる長期欠場で出場試合が19戦と限られた中で10得点6アシストと、ほぼ毎試合というほどゴールに絡み、シーズン終了後まもなく、ドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンへの移籍が決まった。
フランスに彼の名前が聞こえ出したのは、この頃だ。
2024年の夏に開催されたパリ五輪で、オリーセはすでに次ラウンド進出を決めていたグループステージの3戦目(対ニュージーランド)以外、初戦から決勝まで先発で出場し、この5試合すべてでアシストを記録。通算2得点に加え、大会最多の5アシストでフランスの銀メダル獲得の原動力となった。
そしてこの五輪後の9月のインターナショナルマッチウィークで、初めてA代表に招集。そこから、彼の代表キャリアが本格的に幕を開けた。
憧れのフランス代表入りは、母が送ったプレー集から!?
イングランドで生まれ、父親はナイジェリア出身。母親の血筋はフランス×アルジェリアということで、オリーセには4カ国の代表になれる選択肢があったが、
「子供の頃からずっと憧れていた選手はいつもフランスの選手だった」
とかつてインタビューで話していたように、オリーセ自身の心の中には、常に代表はフランスで、という思いがあった。
先述のようにアカデミー時代は特に目立った活躍のなかったオリーセには、イングランド代表からのお誘いもなかったらしい。と同時に、U-18からフランス代表に招集されてはいたものの、常に若い才能が山のようにあふれ出てくるフランスにとっても、イングランドで生まれ育った彼への注目度はそれほど高くなかった。
そこで行動を起こしたのは、彼の母親だった。小さい頃からジネディーヌ・ジダンやフランク・リベリ、アンリらに憧れていた息子の思いを叶えようと、オリーセのプレー集を収めたテープをフランスサッカー連盟(FFF)に送ったところ、コーチングスタッフの目に留まった。
津々浦々にスカウトの目が行き届いている昨今ではちょっと信じられないようなアナログな経緯ではあるが、そんな過程を経てフランス代表入りした彼が、今や最重要選手だ。実力を発揮できる場所に置かれさえすれば、真の力は必ず開花するのだということをあらためて思い知らされる。
すでにこのW杯の前から、オリーセに対するフランス代表ファンの興味は高まっていた。
とりわけ強烈なインパクトとなったのは、パリ・サンジェルマンと対戦したチャンピオンズリーグ準決勝の第1レグ(4月28日)だ。バイエルンでシーズン通算25ゴール28アシストという驚異的な数字を叩き出すことになる彼が、この重要な一戦、しかもルーツのあるフランスの地で、いったいどんなパフォーマンスを見せるのか。
しかして5-4という壮絶な撃ち合いになった激戦で、オリーセは1得点に加えてゲームメイカーとして目を見張るようなプレーを披露。
さらに代表でも、今大会前最後の調整試合となった北アイルランド戦(○3-1/6月8日)でハットトリックを達成すると、この若きスターがW杯という大舞台でどんなプレーを見せてくれるのか、期待値は最高に高まった。
今大会のフランス代表は、4人の攻撃手を置くというかつてない超攻撃的な戦術を採用しているのだが、それを可能にしているのが、オリーセという稀代のプレーメイカーの存在なのだ。
内向的でフランス語もたどたどしいチェス愛好家
しかしそんなスーパープレーヤーであるオリーセは、いったんピッチを下りると存在感を消している。
元来口数が少ないタイプで、インタビューなどメディアへの露出もほとんどない。FFFのTeam Camでカメラを向けられても、他の選手たちがおちゃらけていろいろ答えている中、オリーセは淡々と無言で通り過ぎる……という場面が非常に多い。
ずっと英語圏で育ち、家庭内では英語で話してきた彼のフランス語はたどたどしい。たまに代表戦後などにマイクを向けられると、「今日は大事な試合だったから勝てて良かった」といった感じの簡単な受け答えはフランス語でしているが、ネイティブ並みに話すわけではない。
エムバペは「最近は彼とフランス語で話しているよ。うまくなった」と擁護していた。
「彼はああいう性格だから、メディアとしても彼のフランス語が上達しているかどうかを知る機会はないだろうね。彼はあまり話したがらないタイプだから」
ゴールを決めても淡々としていて、ゴールセレブレーションもせずにさっさとセンターサークルに戻っていく。スポンサーもつけていないから、そうしたイベントとも無縁だ。
「彼はそういう性格なんだ。内向的で、口数は多くない。でも、その代わりに彼の足がすべてを語ってくれている。だから彼をありのまま受け入れてほしい。それに、選手としてだけじゃなく、人としても素晴らしい青年なんだ」
アンリも言っていた。
「彼は他の惑星から来た感じ。とにかく他の選手とはまったく違うんだ」と。
オリーセの趣味はチェスで、その腕前は相当なものらしい。
フランス人の若きアスリートでは、世界的にその名を轟かせているNBAのスター、ビクター・ウェンバンヤマもチェス愛好家として知られている。ゲームの展開を先読みしたり、相手の出方を推測して勝つために最速、最適な一手を打つという点で、チェスの能力は対戦競技に大いに役立ちそうだ。相手のブロックに生まれた一瞬の隙間を狙った、針の穴に糸を通すようなオリーセのピンポイントのパスも、こうした“先読み力”の賜物だろう。
パリ・サンジェルマンのスター、アクラフ・ハキミやリールの新星アユブ・ブアディら、フランスリーグ在籍選手も多く、フランス代表の手の内を知り尽くしたモロッコとの準々決勝は、パラグアイ戦とは別の意味で非常に難しい試合となる。
しかしオリーセは、そのポーカーフェイスの下で淡々と牙を研いでいるはずだ。
また一人、レ・ブルーに、“怪物級”のプレーヤーが出現した。