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子どもの成長のタイミングや評価のポイント【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

子どもの成長のタイミングや評価のポイント【大槻邦雄の育成年代の「?」に答えます!】

サカママ読者の皆さま、こんにちは。大槻です。
3月は卒業シーズンですね。卒業式を迎えたサカママ読者の方も多いのではないでしょうか。卒業を迎えられた皆さま、保護者の皆さま、ご卒業おめでとうございます。

今回は、子どもの育成の際に心がけたい、『子どもの成長のタイミングや評価のポイント』について考えていきたいと思います。幼少期から習い事をすることが当たり前になり、子どもたちに対する要求も高くなってきています。その結果、幼少期からのエリート教育化を加速させているように感じています。それは保護者の焦りを生み、競技を早期に選別するなど子どもたちの興味関心を奪っていくことにもつながっているかもしれません。

レディネス

『レディネス』という言葉をご存知ですか?
学習のために必要な準備状態を意味する心理学用語のことで、何かを学ぶために必要な知識や経験、環境や心構えなどの準備が整った状態を意味しています。

ゲゼルという学者が一卵性双生児の赤ちゃんを被験者にして実験を行いました。実験は、階段を上る練習を行って、どれくらい早く上がれるようになったかを計測するというものでした。

赤ちゃんAは、生後46週目から7週間かけて階段を上る練習を行い、26秒で上がれるようになりました。このとき、赤ちゃんBは練習をしていなかったので、当然赤ちゃんAのほうが階段を上るスピードは早かったそうです。その後、赤ちゃんBは生後53週目から2週間かけて階段を上る練習を行ったところ、10秒で上がれるようになりました。

一時的には赤ちゃんAのほうが早かったものの、赤ちゃんBが上回る結果となったのです。実験から分かったことは、早い時期に長い時間の練習をするよりも、適切なタイミングで練習を行うほうが習熟度が高いということでした。『階段を上る』という練習をするには、言葉を理解する力、筋力や骨格の成長、四肢の使い方の習熟度、危険を察知する経験など…さまざまな要素が絡み合っています。それらが整っている状態(=レディネス)で学習することで、習熟度が増していくということです。

そして55週目以降の双子に対してさまざまな実験を行ったところ、ほぼ結果が同じで個々の能力に差はなかったとのこと。脳や身体が発達し、学習に最適な時期に達するまでは、早く練習や教育をしても効果は期待できないと実験に対して結論づけたそうです。つまり人は適切な成熟を待たなければ、教育や訓練の効果はないということを意味しています。これを成熟優位説と言います。

サッカーの場合

それでは、サッカーの現場ではいかがでしょうか?
発育発達の知識は広く世間に認知されるようにはなってきましたが、まだまだ十分とは言えないと感じています。ゲゼルの実験でも解かるように、子どもの成長には個人差があり、その時々に適切な練習や働き掛けが必要になります。大人の基準だけで子どもたちを早期にジャッジしてしまうことは子どもたちの可能性を狭めていると言えます。

例えば…最近、ヘディングが苦手な選手が多いと聞きます。もちろんヘディングの練習を行うことは必要ですが、もっと根本的な問題にフォーカスしなければなりません。ここでは浮いているボールがどこに落ちてくるか? を察知する力〝空間認知能力〟を育てる必要があるのです。いきなりヘディングの練習を繰り返すのではなく、少し段階を下げて空間認知能力を養うことにフォーカスしていくことが必要になります。

空間認知能力

空間にある物の位置・形・大きさ・速さ・向きなどを素早く正確に捉える能力のこと。
ちなみに幼少期から空間認知能力を育てていくためには、ボール遊びだけでなく、積み木やブロック、鬼ごっこ、キャッチボールなども感覚的に対象との距離を捉えることができるので、有効です。
※ちなみに私は、ヘディングやリフティングといった浮いたボールを捉える練習としては、風船を使ってトレーニングすることをすすめています。

もちろんこれは技術的な部分だけでなく、戦術的な理解についても同じようなことが言えます。全体像だけを提示するのではなく、簡単なことから難しいことへと段階的にトレーニングをしていく必要があるでしょう。戦術的な指導も段階を踏んでいかなければ理解が進みません。理解させるためにはどうしたら良いのか? を考えるのが大人の役割であり、指導者の役割でしょう。

 

数字に縛られずに

近年、AIの進歩やテクノロジーの進化によって、サッカーも分析が進み数値化されたデータで詳細に選手を評価することができるようになってきました。選手の指標を得たり、数字によって不足している部分に対するトレーニング内容を考えたりするという意味ではデータは非常に有益な情報となります。

しかし、データや数字ばかりに捉われてしまうと見えなくなってしまう部分があることも知る必要があります。リフティングなどは良い例かもしれませんね。単純に回数の多い少ないだけでは、サッカー選手としての評価をすることは難しく、そこに縛られてしまって子どもたちがサッカーを嫌いになってしまっては本末転倒なんです。

もちろん回数が沢山できることによって、自信を持てるようになることもあるかもしれませんが、それだけに縛られる必要はまったくないと思っています。ですから、単純にこの年齢であれば〇〇くらいが普通である。という指標に縛られずに子どもたちの成長をしっかりと見守ってあげる必要があると思っています。

まとめ

いかがでしたでしょうか? 子どもたちの成長には個人差があるといっても、指標や基準値みたいなものがあるとなかなかその理解が進まないもの。こちらのコラムでも何度もお話ししていますが、その時々の結果だけに捉われずに取り組む姿勢を育てることこそ大切なことなのだと思います。

例えば、『リフティングを100回できるようになって凄いね!』ではなく、『一生懸命練習したからできるようになったんだね!』のような声かけのほうが子どもたちの取り組む姿勢を育てることができると思います。定量的な評価だけではなく、定性的な評価をしていくことが大切です。私たちには感情があります。AIやテクノロジーが進化しても、数字や結果だけを見て判断するのではなく、〝人〟を大切にしていきたいですね。

WRITER PROFILE

大槻邦雄
大槻邦雄

1979年4月29日、東京都出身。
三菱養和SCジュニアユース~ユースを経て、国士館大学サッカー部へ進む(関東大学リーグ、インカレ、総理大臣杯などで優勝)。卒業後、横河武蔵野FCなどでプレー。選手生活と並行して国士舘大学大学院スポーツシステム研究科修士課程を修了。中学校・高等学校教諭一種免許状を持ち、サッカーをサッカーだけで切り取らずに多角的なアプローチで選手を教育し育てることに定評がある。

BLOG「サッカーのある生活...」も執筆中
★著書「クイズでスポーツがうまくなる 知ってる?サッカー

株式会社アクオレ株式会社ティー・パーソナル