
夢を見ることをやめない。19歳ラミン・ヤマルの原点
世界が「天才」と呼ぶ19歳。でも、その才能を育てたのは、家族と故郷、そして夢を信じ続ける気持ちでした。スペイン代表で輝きを放つラミン・ヤマル選手の歩みを紹介します。
世界が驚く19歳。スペイン代表の新たな主役
4大会ぶりのワールドカップ優勝を果たしたスペイン代表。イニエスタやシャビらを中心に優勝した2010年大会以来となる快挙であり、チームは公式戦38試合無敗という、男子国際Aマッチにおける歴代最長の無敗記録を樹立しました。
“無敵艦隊”の愛称で親しまれるスペイン代表のスターティングメンバーに、19歳で名を連ねているのがラミン・ヤマル選手です。鋭いドリブルと創造性あふれるプレーで相手守備陣を切り裂き、チャンスを演出する活躍で「世界最高の若手」「次のバロンドール(その年に最も活躍したサッカー選手に贈られる世界年間最優秀選手賞)候補」と称賛を集めています。
じつはスペイン代表は、ヤマル選手が先発した試合で一度も敗れていません。2023年9月に初先発を飾って以来、約3年間で22勝6分(PK戦敗退は引き分け扱い)。驚異的な成績を残している無敵艦隊の主軸として、19歳ながらチームに欠かせない存在となっています。
世界が見ているのはピッチ上の姿だけかもしれません。しかしその才能の裏側には、家族や故郷を愛する19歳の想いがありました。
神童では終わらない。ラ・マシアと“304”が育てた才能

ヤマル選手が育ったのは、スペイン・バルセロナ近郊にあるロカフォンダ地区。モロッコ人の父と赤道ギニア出身の母のもとに生まれたヤマル選手は、移民が多く暮らすこの街で幼少期を過ごしました。
現在もゴールパフォーマンスで見せる「304」のポーズは、故郷ロカフォンダの郵便番号「08304」に由来するもの。世界中から注目を集めるスターとなった今も、自分が育った街への誇りを忘れていません。
また、ヤマル選手のプレーを見ていると、狭いスペースでも相手を抜き去るドリブルが目を引きます。その原点は、ロカフォンダのストリートにありました。「犬を相手にドリブルをして遊んでいた」というエピソードは有名で、限られたスペースで何度もボールに触れながら、相手をかわす感覚を自然と身につけていったといいます。
幼い頃から地元クラブで群を抜く才能を見せていたヤマル選手は、そのプレーがFCバルセロナのスカウトの目に留まり、育成組織「ラ・マシア」へ7歳で入団。ラ・マシアでは、個人技だけでなく、仲間との連係や状況判断、チームの中でプレーする力を磨いていきました。さらに同年代カテゴリーだけでなく、年上のカテゴリーでプレーする“飛び級”を何度も経験しながら、その才能を伸ばしていきます。
ストリートで育まれた自由な発想と、一人ひとりの判断を大切にするラ・マシアの育成。その両方が重なり合ったからこそ、世界最高峰の舞台でも違いを生み出せる選手へと成長したのでしょう。
「夢を見ることをやめない」その姿勢を育てた家族の存在
ヤマル選手がここまで成長できた背景には、いつもそばで支え続けた家族の存在がありました。
母シェイラさんは、ヤマル選手が「サッカー選手」である前に、一人の子どもとして成長することを何より大切にしていたそうです。ヤマル選手がラ・マシアに入ってからも、学校生活との両立を大切にし、特別扱いもしませんでした。
EURO2024期間中も学校の課題に取り組んでいたことが話題になったほどで、その姿勢にも、母が大切にしてきた「サッカーだけではない日常」が表れているのかもしれません。
一方、父ムニールさんは、幼い頃から息子の夢を信じ続けてきた存在です。世界中から注目を集めるようになった今も、その関係は変わりません。
家族に支えられ、成長を続けてきたヤマル選手は、ワールドカップ開幕前のFIFAのインタビューで「子どもの自分にひとつだけ伝えるなら?」と聞かれると、迷わずこう答えています。
「夢を見ることをやめないでほしい」
その言葉の背景には、日常をサポートし続けた母と、夢を信じて応援し続けた父の存在がありました。二人の支えがあったからこそ、世界中が注目する今も、ヤマル選手は家族や故郷への感謝を忘れずに歩み続けているのです。

世界が認める「天才」。でも本人はルーツを忘れない
数々の最年少記録を更新し、10代とは思えない実績を積み重ねながらも、ヤマル選手はインタビューで家族や仲間、育ててくれた街への感謝を繰り返し口にしています。前述のワールドカップ直前のインタビューでも、「家族がスタジアムで自分を見守ってくれることが何より幸せ」と語り、大舞台を前にしても、その思いは変わりませんでした。
そんなヤマル選手が決勝で対峙したのが、アルゼンチン代表を率いるリオネル・メッシ選手。幼い頃から憧れ続けてきたレジェンドとのバルセロナ“新旧10番”ともいえる夢の顔合わせは、多くのサッカーファンの注目を集めました。
じつは二人には、幼い頃から続く不思議な縁があります。ヤマル選手がまだ生後数カ月だった2007年、チャリティーカレンダーの撮影で、メッシ選手が赤ちゃんだったヤマル選手をお風呂に入れている写真が撮影されました。この一枚は、ヤマル選手の活躍とともに世界中で大きな話題となり、「未来のスターをメッシが抱いていた」として、多くのメディアでも取り上げられました。
そして“奇跡の写真撮影”から19年後、二人はワールドカップ決勝という世界最高峰の舞台で再会を果たしました。世界中が“夢の対決”として注目した一戦は、スペインの2度目のW杯制覇で幕を閉じました。一時代を築いたメッシ選手の後継にヤマル選手を推す声が高まる一方、自身は、これまでと変わらず誰かの後を追うのではなく、自分だけの道を歩み、新しい歴史を築いていくことでしょう。
夢を見続けること。
努力を積み重ねること。
そして、自分を育ててくれた人や街を忘れないこと。
その姿は、サッカー選手を目指す子どもたちだけでなく、夢を支える保護者にとっても、大切なヒントを与えてくれるはずです。
出典
『FIFA』 Yamal: Spain play the best football
写真/Getty Images