
5歳の世界記録。ハーランドを育てた、のびのびとした時間
驚異的な身体能力を備えた少年は、サッカーを押しつけない家庭で、のびのびと成長しました。多くのスポーツを楽しみ、まわりの評価に動じず、世界最強のストライカーへ。その歩みを紹介します。
世界最強のストライカーはこうして生まれた
この夏、世界がいちばん恐れたストライカー。それが、ノルウェーのアーリング・ハーランド選手です。今大会で得点を量産し、決勝トーナメントでは優勝候補ブラジルを相手に2ゴールを挙げ、ノルウェーを史上初のベスト8へと導きました。
195cmの身体から繰り出される豪快なゴールは、まさに規格外。けれど、そんな世界最強のストライカーにも、小さな町でのびのびと過ごした子ども時代がありました。今回は、彼がどんなふうに育ち、世界で有数のストライカーへと成長したのか、その歩みをたどってみたいと思います。
5歳で“世界記録”を跳んだ少年
ハーランド選手には、驚きの逸話があります。2006年1月、陸上七種競技の一流選手である母親の練習場に5歳のハーランド少年がついていったときのことです。遊びで跳んでみた「立ち幅跳び」で、1m63cmもの数値を記録したのです。これは年齢別の世界記録であり、彼の生まれ持った身体能力の高さを示す伝説的なエピソードとして知られています。
ちなみに父親もノルウェー代表として、そしてイングランドのマンチェスター・シティFCなどで活躍した元サッカー選手。まさにスポーツ一家に生まれた子どもでした。
サッカーを押しつけなかった父
父アルフさんはハーランド選手が幼い頃、サッカーだけでなく、ハンドボール、ゴルフ、陸上、クロスカントリースキーと、さまざまなスポーツに触れさせたそうです。マンチェスター・シティの公式サイトのインタビューで、その理由を語っています。
「多くのスポーツに触れることで、さまざまな身体の部位を同時に発達させることができるからね。サッカーに限らず、何をするにしてもそれは人生においてプラスになると思ったんだ」
ひとつの道だけでなく、いろいろな競技を経験させることで、身体の使い方や運動能力を幅広く育てる。この考え方のもとで、ハーランド選手はのびのびと育ち、のちに世界を驚かせるプレーヤーとしての土台を築いていきました。

それまでの積み重ねから才能が花開く
とはいえ、最初からずば抜けたスターだったわけではありません。古巣ブリンFKで長年ハーランド選手を指導したコーチの証言(マンチェスター・シティの公式サイト)によると、10歳から11歳ごろのハーランド選手は、決して目立った選手ではなかったといいます。転機となったのは、10代の半ばのこと。驚くほど身長が伸び、ノルウェーのモルデFKというクラブでプレーしていた頃には、1シーズンで身長が12cmも伸びたことがありました。大人びた身体つきから、チームメートには「マン・チャイルド(大人の体を持つ子ども)」というあだ名で呼ばれていたそうです。
急激に伸びた身長、さまざまなスポーツで培った身体能力とゴールへの嗅覚が組み合わさり、彼は一気に才能を開花させていきます。15歳のとき、地元ブリンのセカンドチームに加わると、14試合で18ゴールという驚異的な結果を残しました。トップチーム昇格後も躍動を続け、その稀有な才能と評判はノルウェー国内にとどまらず、ヨーロッパ、そして世界へと広がっていったのです。
1試合9得点。世界を驚かせた18歳
18歳のハーランド選手は、U-20ワールドカップ(20歳以下の世界大会)のホンジュラス戦(12-0)で、なんと1試合に9ゴールを叩き込みました。1人の選手が1試合で9得点を挙げるのは、U-20ワールドカップの歴史における1試合個人最多得点記録です。ところが、試合後の彼は喜ぶどころか悔しさを隠しませんでした。
「試合の最後のシュートを外したことが悔しい。なぜ決めきれなかったのか、しっかり振り返って原因を探りたいです」(米スポーツ専門メディア『ESPN』)
この負けず嫌いと向上心こそが、世界最強のストライカーをつくったのかもしれません。
その後、ハーランド選手はオーストリアのレッドブル・ザルツブルク、ドイツのボルシア・ドルトムントを経て、2022年に世界屈指の強豪マンチェスター・シティへ加入。移籍1年目にリーグ36ゴールという新記録を打ち立て、世界最高のストライカーへと上りつめていったのです。

世界最強の素朴な人柄
今や世界的なスターとなったハーランド選手ですが、その素顔は驚くほど素朴で穏やかな性格の持ち主といわれています。彼が育ったブリンは、人口1万数千人ほどの、農業がさかんな小さな田舎町。マンチェスター・シティの公式サイトのインタビューで、彼は引退後の夢をこう語っています。
「引退したら故郷に帰り、将来は小さな農場で動物を飼ってみたい。今からヤギを何頭飼うか考えるだけで楽しくなるんだ(笑)」
家族の導きでのびのびと多くのスポーツを楽しみ、まわりの評価にも動じず、自分の力で道を切りひらいてきたハーランド選手。初出場で量産したワールドカップでのゴール数も、彼のキャリアが続く限り増え続けていくことでしょう。小さな町から歩んできた物語が、どこまで続いていくのか。世界最強のストライカーの挑戦から、まだまだ目が離せません。
出典
『Manchester City.com』 Erling Haaland: 10 things you didn’t know
『ESPN』Norway’s Haaland scores record 9 in U20 WC win
写真/Getty Images