サッカーの母国で感じた、ワールドカップのある日常 ~ロンドン親子観戦記~
サカママ視点

サッカーの母国で感じた、ワールドカップのある日常 ~ロンドン親子観戦記~

ロンドン在住『サカママ』ライターのカリアゲしょうこです。今回、「サカママ × footballista/家族で振り返るW杯特集」に参加させていただけることを、大変光栄に感じております!

筆者には小学6年生の息子がいます。6歳で渡英してからサッカーを始め、今は週5日サッカーをする毎日。そんなサッカー少年の息子との、ロンドンでのワールドカップ観戦記をお届けします!

日本対オランダ戦、修学旅行先でまさかの・・・

修学旅行に旅立つ息子の後ろ姿

日本代表とオランダ代表との試合が行われた6月13日(土)は、ちょうど息子の現地校の修学旅行日程と重なっていました(修学旅行は6月12日〜6月14日)。修学旅行当日の朝、息子は「日本の初戦を見られないなんてあり得ない! 先生に頼んで絶対に観せてもらう!」と息まいていました。イギリスでのキックオフ時間は夜の9時。小学校の修学旅行であれば就寝時間であってもおかしくない時間ですから、「頼んでもどうせ無理だろう」と筆者は心の中で思いつつも、修学旅行に旅立つ息子を見送りました。

息子が不在のため、筆者は勤務先のサッカークラブのコーチ仲間と一緒に試合を観戦しようと、クラブのピッチ横にあるパブへと足を運びました。そのパブは地域会員制のパブということと、イングランドには関係のない試合ということで、私たち以外にお客さんはほとんどおらず、ほぼ貸し切り状態。試合開始前には、コーチたちみんなで立ち上がって一緒に国歌斉唱し、士気を高めました。試合結果はご存じの通り、2-2の引き分け。点を取られては取り返す展開に、コーチたちみんなで一喜一憂し、大いに盛り上がりました。

試合結果に満足しつつも、「こんなに良い試合をリアルタイムで観られなかったなんてかわいそうに…」とちらりと息子のことが頭をよぎりましたが、「友だちと一緒に楽しい時間を過ごしているだろうし、まぁいいか」と思っていました。

コーチ仲間とともに国歌斉唱

そして月曜日、修学旅行から帰ってきた息子に「代表戦の結果くらいは先生から聞いた?」と尋ねると、「全部観たし!」との回答が。「え? どうやって?」と聞き返すと「前半は宿泊施設の食堂で、みんなで観た。前半が終わったら『みんな部屋に帰って寝なさい』と言われて、部屋に戻った。でも、しばらくしたら先生が僕たちの部屋に来て『静かにできるなら観せてあげる』って呼びに来てくれた。だから僕たち日本人は、最後まで試合を観たよ」と自慢げに教えてくれました。

息子は現地校に通っていますが、日本人が多く住むエリアにある公立小学校ということもあり、日本人児童も多く通っています。息子の学年には、6人の日本人男子がおり、その6人は全員同室で、それ以外の子はいませんでした。そういう事情もあり、先生は日本人男子児童にだけ特別に声をかけてくれたようです。部屋で観ると騒がしくて、ほかの部屋に迷惑をかける可能性があるので、屋外で先生のiPadで観たようで、中村敬斗選手と鎌田大地選手の両ゴールもリアルタイムで観ていたそうです。

「どうせ観せてもらえないだろう」と思っていた筆者の予想は大きく外れていました。そうです、ここはサッカーの母国イングランド、先生たちもみんなサッカーが大好き。「ワールドカップでの自国の試合を見逃したくない」という気持ちを、先生自身が自分事として理解してくれています。また、そもそも普段の学校生活の様子を見聞きしている中でも、「すべての児童に平等に」という感覚を感じることはありません。「みんな違う」が当たり前のロンドンですから、日本人児童だけに試合を観せるという「特別措置」を図ることにも、特に抵抗はなかったのでしょう。

サッカー(こちらではフットボールですが)の母国のサッカー愛、多文化共生の街ロンドンの先生たちの寛容さに驚きつつも、息子たちに試合観戦の機会を与えてくれたことに、大いに感謝しました。たまたま日本戦が修学旅行の日程に重なっていたからこそ、息子は仲の良い友人たちと一緒に観戦ができたし、本当に忘れられない特別な思い出になったのではないかと思います。

後日、先生と話をする機会があり、「息子たちに日本戦を観せてくれてありがとうございました。もしかして、そのために日本人をみんな同じ部屋にしてくれたんですか?」と尋ねたら、「いや、それは全然考えてなかったけれど、結果的にそうしてよかったですよね」と笑顔で教えてくれました。

日本対チュニジア戦、親子で朝寝坊

日本代表2戦目のチュニジア戦のキックオフ時間は、イングランドでは朝の5時。その前日、筆者は勤務先のイベントで、丸1日屋外での仕事をして疲労困憊。また息子も、午前中に日本語補習校へ行った後、午後からワンデートーナメントで6試合をこなし、こちらも疲れきっていました。それでも、大事な試合を見逃すわけにはいきませんから、ちゃんとアラームを設定して前夜は就寝しました。

しかし翌朝、筆者は「母さん! 起きて! もう試合始まってる! なんならもう1点入ってる! 僕も今起きたから見てないけど!」という声でたたき起こされました。なんと、アラームをセットしたにも関わらず、寝坊してしまったのです。一気に目が覚め、階段を駆け下りてリビングへ行くと、既に前半10分が経過していました。アラームが鳴ったのに無意識に止めてしまったのだろうか、と不思議に思いながら試合を観ていたら、5時45分にアラームが鳴り響きました。どうやら、時間設定を1時間間違えてしまっていたようです。

夫に「なんで起こしてくれなかったの!」と八つ当たりすると、「疲れてるのかと思って」との返事が。「いや、その優しさはありがたいけど…そこは起こすとこ!!!」と突っ込んでしまいました。おかげで眠気はすっかり飛んで、再び寝落ちすることなく、2点目以降のゴールを見逃すことなく、シュートが決まるたびに夫と息子とハイタッチをして、家族でともに勝利の喜びを分かち合うことができました。

試合終了後、筆者は前日に続いてイベント対応の仕事があり、二度寝する間もなく8時前には家を出ました。同僚たちもみんな状況は同じで「めちゃくちゃ眠いけど、気持ちは前向きに仕事できるよね」と言いながら仕事に取り掛かりました。

イベント中に会話をしたポーランド人の方が、「日本にはスウェーデンを倒してもらいたい。だって僕たち(ポーランド)はプレーオフでスウェーデンに負けて、出場を逃したからね」と言っていました。また、息子の通う学校にはポーランド人の児童が多いのですが、クラスメイトの保護者とも「ポーランドがワールドカップに出られなかったのは悔しいけれど、出場していたら日本と戦わなきゃならなかったね。そうしたら私たちはもう友だちでいられなくなっていたわね」と笑いながら話していました。

イングランド対クロアチア戦&ガーナ戦、母はパブで、息子は自宅で

イングランドサポーターでにぎわうパブ
画面に映るジュード・ベリンガム選手

イングランドに住んでいる身として、日本代表の次に応援しているのはもちろん、イングランド代表です。息子にいたっては、人生の半分をロンドンで過ごしていますから、彼のアイデンティティの半分以上はイングランドにあるようです。

イングランド代表の初戦は6月17日(水)、キックオフ時間は日本戦と同じく午後9時。息子と夫は家のテレビで、筆者はこの記事を書くためにも(笑)、近所のパブで観戦することにしました。キックオフ時間30分前にパブに行ってみると、店内は既に多くのサポーターでにぎわっていました。イングランド代表のユニフォームを着ている人も、国旗を肩から巻いている人もいましたが、半数以上の人は普段着という感じでした。

試合前の国歌斉唱の際も、みんなで大合唱とまではいかず、歌ったり歌わなかったり、国歌が流れている間もしゃべり続けている人もいたりとさまざま。屋外パブリックビューイングのような場所へ行けばもっと「イングランド一色」、という感じだったのかもしれませんが、近所のパブではそうでもなかったのは、ちょっと意外な発見でした。

エースでキャプテンのハリー・ケイン選手がPKを得たときには、「よし来た、1点目!」という雰囲気になっていましたが、相手キーパーに止められると一気に落胆の表情に。しかし蹴り直しの判定で得た2回目は無事に決め、今度は安堵と歓喜の表情。1回では決められなかったせいか、正直なところ、思っていたよりもゴールの際の盛り上がりは大きくありませんでした。一度追いつかれたものの、ケイン選手が今度はヘディングで決めたときには、1点目よりも観客の歓声が大きく感じられました。

前半終了のホイッスルとともにバーに並ぶサポーター

前半アディショナルタイムに再び追いつかれた瞬間には、店内はシーンと静まり返り、その中で前半終了を告げるホイッスルが鳴り響きました。しかし、そこで落胆というよりは、「ま、ハーフタイムだし、とりあえずもっとビール飲もうぜ」というように、多くの人が一斉にバーカウンターに並び始めました。多くのサポーターがビールを買ったり、トイレに立ったり、タバコを吸いに外へ出るなか、筆者はそのパブを後にしました。すぐ近くにある、別の場所で後半を観戦するためです。

というのも、観戦していたパブの近くにある映画館で筆者はボランティアをしています。その映画館に併設されているカフェのモニターでも試合上映をすると聞いていたので、そちらの様子も見に行ってみよう、と思ったのです。もともといたパブから映画館までは徒歩5分ほどですが、道中にある他のパブやコーヒーショップでも、同じように試合上映をしていたようで、街全体がいつもよりも活気のある様子がうかがえました。

映画館併設のカフェに到着すると、先ほどのパブとは違って、10人くらいしかお客さんがいませんでした。そもそも映画館であるということと、大々的に試合上映の案内を出していないことがその理由だったと思います。人数は少なかったものの、20代前半くらいと見られる女子4人組が仲間内で盛り上がっていました。また1人で5人分くらいの声援を送っている人がいたので、後半開始早々のジュード・ベリンガム選手のゴールの際の歓声は、実際の人数の3倍以上のにぎやかさを感じたような気がします。

試合終了後、映画館のマネージャーに挨拶がてら話しかけたら、「前回大会のときにスペインとドイツに勝ったときも驚いたけど、今回のオランダとの試合も良い試合だったね! 実は仲間とのスウィープステイク(優勝国予想くじ)で、ダークホースとして僕は日本に賭けているんだ。だから僕も日本を応援しているよ!」と教えてくれました。本命ではないものの、我らが日本代表に期待を寄せてくれていることを知って、嬉しくなりました。

サポーターでにぎわう夜の街

帰宅してみると、リビングには夫しかおらず、息子はもう寝たのかと尋ねると、前半終了を待たずに眠くて寝たとのことでした。翌朝、本人にも聞いてみると「ベッドに入ってすぐに、お父さんの『うおっ!』っていう声が聞こえたから、たぶん追いつかれたんだろうなと思ったけど、そのまま寝た」と言っていました。息子は普段から就寝時間が早く、何もない日は夜9時前には寝ています。よっぽど見逃せない試合など以外では、「観たい」よりも「眠い」が、まだ勝ってしまうようです。

イングランドの2戦目、ガーナとの試合は自宅で観戦しました。この試合も夜9時キックオフでした。息子は入浴も歯磨きも終えて、いつでも寝られる体制を整え、いざ観戦。イングランドが圧倒的にボールを支配するも、なかなか決定機を作ることができない展開だったこともあり、案の定、息子は前半30分頃からウトウトし始めます。「眠いならベッドに行きなさい」と声をかけると「いやいや、起きてるよ」と寝ぼけ眼で答えるやりとりを何度か繰り返しました。しかし、もう限界に達したと自覚すると、自らふらふらと寝室へと消えていきました。やはりこの日の息子も「観たい」より「眠い」が勝ちました。

ワールドカップ観戦は、睡魔との負けられない戦い

ワールドカップを意識した店内ディスプレイ

我が家(というか息子)のワールドカップ観戦は、このように、時差による睡魔との戦いでした。日本とイングランドの試合以外はほとんどリアルタイムでは観戦せず、翌日にハイライトで観る形でしたが、毎朝起きてはまず、息子と一緒に試合結果を確認しあう日々でした。

学校でも、友人たちとの会話はまず「昨日の試合観た?」の一言から始まっていたようです。ワールドカップが始まってからは、家族とも、友人とも、たまたま出会った人とも、どこに行っても、多くの会話がワールドカップの話題から始まりました。近所のスーパーへ行くと、ワールドカップを意識したデコレーションや商品が見られました。この原稿を書いているのはまだ予選リーグ2戦目が終わった頃ですが、こんな日常が続くワールドカップ、眠いけれど最高に楽しいです!!!

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