なぜノルウェーはセルロートを右WGで起用する?ネイマール投入のブラジルを上回ったハーランド活用術
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なぜノルウェーはセルロートを右WGで起用する?ネイマール投入のブラジルを上回ったハーランド活用術

『北中米W杯深掘り分析スペシャルレビュー』特集から、ノルウェーがネイマールも投入したブラジルを1-2で上回ったラウンド16の一戦をお届け。2得点でマン・オブ・ザ・マッチにも輝いたアーリング・ハーランドの活用術を、フットボリスタの連載『せこのアーセナル・レビュー』でお馴染み、今大会も全試合を追いかけたマッチレビュアーのせこ氏が分析する。

本職CFのセルロートを右ウイングで起用する理由

決勝ラウンド初勝利を狙った日本の前に立ちはだかり、2-1の逆転勝利でラウンド16に駒を進めたブラジル。28年ぶりのW杯出場を果たしているノルウェーに対しても、同じように壁となることができるかが問われる一戦となる。

[4-3-3]を敷くノルウェーのボール保持の特徴は、とにかく後方に枚数をかけること。中盤3枚が全員後ろ重心になることも珍しくなく、SBのビルドアップ参加も完全に免除しているわけではない。彼らの持っている戦力や個性を眺めれば、相手を手前に引きつけてから一気にCFアーリング・ハーランドへロングボールをつける形も考えられそうではあるが、ここまでの戦いではあまり見られない。セカンドボールを回収する上で、下がりまくる中盤のポジショニングがネックになると考えているのか、ハーランドが得意な背後のスペースに流すようなキックはGKエリアン・ニーランがあまり得意ではないか。理由はどちらかだろう。

ハーランドの代わりにターゲットになることが多いのは、同じ195cmの長身を誇りながらも右ウイング起用がメインのアレクサンデル・セルロート。ここにボールを当てつつ、後方から押し上げるSBが背後を取るアクションを見せることで右サイドの裏を取るというのが、ノルウェーがよく見せるロングボール活用法である。

「なんで本職CFのセルロートがウイング?」「なんでハーランドをターゲットしない?」という疑問が出てくるのは理解できるが、なんだかんだこの形は得点にもつながっているので侮れない。後ろに重たいMF陣が、相手の背中を取るようなパスワークからスピードアップができないことを踏まえると、ここまでのノルウェーの攻撃の中では最も確実にハーランドまでボールを届ける方法となっている。

この試合でも、立ち上がりのノルウェーの保持の方向性は同じだった。右インサイドハーフのマルティン・ウーデゴールは相手の[4-4-2]ブロックの手前まで降りてきつつ、ロングボールの行き先はハーランドよりもセルロート。後ろに重い陣形で相手のプレスをけん制しながら、キックでセルロート周辺に起点を作り、敵陣ペナルティエリア内に到達するイメージである。それが開始3分に早くも具現化して、オフサイドで取り消されながらもネットを揺らすなど、いきなりセルロートを右サイドに置いた意味を発揮していたのは興味深い。

日本戦を糧にしたブラジルのサイド攻撃

だが、序盤に論点になったのは後ろに重たい陣形のほうである。後方は枚数が余っている割にドリブルでキャリーをする選手が決まっているからか、あまりブラジルの中盤の選択を惑わすことができていなかった。ウーデゴールのパスは簡単にカットされてしまい、左ウイングのアントニオ・ヌサのドリブルは対面の右SBダニーロを剥がすことはできても、フォローに来る右セントラルハーフのブルーノ・ギマランイスに潰されてしまう格好。

ミドルゾーンでトランジションのきっかけさえ作れれば、ブラジルはカウンターからスピードアップが可能だ。10分にはハーフウェイライン付近で右ウイングのライアンがヌサのターンを引っかけ、ボールをギマランイス、トップ下のガブリエウ・マルティネッリとつないで、すぐさま敵陣ペナルティエリア内へ。ラストパスに飛び込んだCFマテウス・クーニャが倒されてPKを奪い取り、ブラジルは先制の絶好機を迎えるが、このギマランイスのキックはニーランがセーブ。ノルウェーを早くも窮地から救うことに成功する。

ブラジルの保持に対して、ノルウェーは敵陣での[4-4-2]と自陣での[4-5-1]を使い分ける。ウーデゴールがプレスのスイッチ役になるか、それともブロックに入り込むかだけの違いなので、周りとしては合わせやすそうな守備の基準ではあった。

ブラジルは、ビニシウス・ジュニオールとライアンという両翼をきっちり幅取り役にするスタート。イメージとしては日本戦の後半に近く、左右ともにウイングをどのようにフォローするかに関しては、ノルウェーよりもきっちり方策を用意できているという印象だ。ビニシウスを追い越すマルティネッリや、ライアンの左斜め後ろに待機してアーリークロスを狙うダニーロあたりからは、あの逆転勝利をさらなるサイド攻撃の糧にしている匂いがした。

ノルウェーからするとある程度ボールを持てはするけども、ブラジルの中盤の潰しには苦戦していて、自陣に押し込まれる時の揺さぶられ方は多少危険性がある状態。何か改善の一手がほしいという前半の終盤だった。

そうした中で満を持して活路を見出しつつあったのが、ハーランドへのロングボール。ブラジルはCBがマルキーニョスとガブリエウ・マガリャンイスのコンビなので、さすがに裏へのキック1発で1対1を作れるところまでは行かないものの、彼らはそろってハーランドの対応に来る分、セカンドボール回収でノルウェーは優位に立てる。いざ、ハーランド目がけて蹴り込んだ時に、中盤はきっちりと高い位置にポジションを修正していたので、この辺りもシフトチェンジをきっちりと飲み込みつつあったのだろう。バランスの取れたハーランドへのロングボールの活用で、やや停滞気味だったノルウェーが希望をつかみながら45分を終える。

分岐点となったネイマールの投入

後半も少しずつペースはノルウェーに流れていく。前からプレスをかけるブラジルに対して、MF陣のパス交換からブラジルのセントラルハーフコンビの背中を取るなど、ここまでの試合ではなかなか見られなかったミドルゾーンから加速する攻撃も出てくるようになった。ハーランドへのロングボールと同じく、これもノルウェーの希望となる前進の手段と言えるだろう。

ハーフタイム後、ヌサとセルロートに代わって両ウイングに入ってきたアンドレアス・シェルデルップとオスカー・ボブは、対面を抜き切らずにシンプルなクロスを上げられる。ファーサイドに流れるハーランドの高さを生かすボールから、敵陣ではゴール前へと早めの仕掛けを講じていった。

セントラルハーフが守備ですれ違われるケースが出てきてしまったブラジルは、少しずつプレスのラインが下がる展開。しかし、危ういところでもボールをカットできれば、そこから一気に敵陣を侵略できる足が残っている。ウイングの仕掛け失敗や、ウーデゴールのパスミスなど、ノルウェーにはまだまだ隙があったからなおさらだ。59分には、自陣で貴重な潰しを効かせた左セントラルハーフのカゼミロからビニシウスにボールが渡り、ここしかないというコースにアウトサイドでスルーパス。1分前にクーニャと交代していたばかりのエンドリッキがニーランとの1対1を迎えた決定機は、その脅威が健在であることを証明していた。

ブラジルは一度押し込めば、日本戦の同点弾と似通った左サイドからファーを襲うクロスで空中戦を挑むという仕掛けも飛び出させていく。キックのタイミングと精度はイマイチだったが、ここでも成功体験が生かされているのは興味深い。

勝負の分岐点となったのは、やはり67分。マルティネッリをベンチへ下げて2試合ぶりにピッチへと立たせたネイマールの投入だろう。ファストブレイクにフォーカスしていきたい展開だったが、プレーテンポを上げるのはもはや得意ではなく、右ウイングに回ったエンドリッキに代わるプレスのスイッチ役としても期待ができない10番の登場は、ここまでのブラジルのチャンスメイクの仕方とは逆差しの一手。同時にライアンと交代したダニーロ・サントスが中盤の一角に入るものの、ノルウェーはプレスが来ない分、試合序盤には見られなかった後方から余裕を持ったキャリーで前に進んでいく。

試行回数を増やすことができたノルウェーは、ついにペナルティエリア内のハーランドに賭ける一手が当たる。左サイドからパスをつなぐと、エンドリッキをかわしたシェルデルップが右足でインスイングクロス。プレミアリーグでもしのぎを削ってきたガブリエウをハーランドが吹っ飛ばし、79分に貴重なヘディングシュートを叩き込む。アーセナルファンとしての目線では、防いでほしかったシーンでもあった。

総攻撃に打って出るのは、ビハインドを負ったブラジル。カゼミロのハーフスペースへのフリーランをはじめとして、ビニシウスがけん引する左サイドの攻め手を見れば、まだまだ可能性は残されてはいたように思えた。だが、ニーランを中心とした堅守で凌ぎ続けたノルウェーは、90分にゴールキックから始まったロングボール攻撃を2対3の数的不利で完結させて勝負あり。敵陣でハーランドがシェルデルップに落とすと、そのリターンを受けてペナルティエリア外から迷いなく左足を一閃して追加点を奪った。その立役者とともにクオリティを見せたノルウェーが、90+5分にネイマールのPKで一矢報いたブラジルを下して、8強入りを果たしている。

あとがき

ハーランドの高さと強さを生かすことはマンチェスター・シティもやるようでやっていなかったプランであり、シンプルな空中戦主体の戦い方でも終点としても起点としてもこれだけできるという発見があった。はじめからやればいいのにと、正直思ったくらいだ。

ロングボールの整備や後方のパスワークなど、ブラジルのセントラルハーフによる潰しをどのように回避するかというお題目によって、少しずつ試合の中での積み上げが出てきたのが、ノルウェーの非常に興味深い点だろう。大一番を制した中でも内容に粗が残っているということは、裏を返せばまだ伸び代があるということ。王国を倒した勢いでそのポテンシャルが開花すれば準々決勝のイングランド戦も、あるいは……という思いを抱かせてくれる一戦だった。

写真/Getty Images